業界の最先端を航海し続けるために。
歴史ある企業の新たな船出
「社員には、安心できる快適な環境で働いてほしい」 そんな思いのもと始まった内航タンカーの海運会社 浪速タンカー様のご移転プロジェクト。 創業77年の歴史ある企業が働く環境を改革することに踏み切った想いを代表取締役社長の福岡様に伺いました。今回は初めての試みとしてオンラインでのインタビュー。 こんな時だからこそ、発信するべき会社様でした。
クルーが誇りに思えるような会社にしたかった
Y.K(インタビュアー):
まずはじめに、ご移転プロジェクトについての資料を拝見しました。「女性の為に」「45年ぶりのご移転」「運輸業界を変えたい」などのポイントがあったのですが、ご移転に踏み切った経緯や背景はどのようなものだったのでしょうか?
福岡社長:
移転を決断したきっかけは、実は東日本大震災でした。当時入居していたビルは築47年で、旧耐震基準も満たしていないような状況で。もちろんオーナーさんは耐震補強もしてくれましたが、やはりクルー(浪速タンカー様の従業員の呼称)が安心して仕事ができる環境をつくるには移転しかないと決断しました。
せっかく移転をするからには、魅力あるオフィスづくりをしていきたいという想いがありましたね。
Y.K:
魅力あるオフィスにしたいと思ったきっかけはありますか?
福岡社長:
以前のオフィスが某テレビ局のビルから見下ろせる場所で、一度ロケ撮影の依頼があったんです。その理由が「昭和初期を思わせるオフィスを探している」でして、これはイカン…と(笑)。
というきっかけもありましたが、理由は大きく3つあります。
1.株主、金融機関からの信頼の構築
2.海運業界の堅苦しさ・ホワイトカラーからの脱却・差別化
3.働くクルーのモチベーションの確保・維持
以上がオフィスにデザインを入れた理由として大きかったです。我々、中小企業はネームバリューがあるわけではないので、人材を募集する際も働く場を想像されると上手く採用につながりませんでした。
Y.K:
オフィスデザインによって、採用への効果はありましたか?
福岡社長:
飛躍的に向上しましたね!採用で来社された方はほぼ100%入社しますし、離職率も減りました。
Y.K:
100%はすごいですね。東日本大震災での浪速タンカー様の活躍を見て入社した方もいらっしゃるんですよね。
福岡社長:
親子で働いている方もおります。東日本大震災以降も、毎年いろいろな災害が起きています。その時々で、物資や燃料の輸送など目に見えないところでサポートしておりますが、20、30代の方に向けて発信しても、あまり理解されない部分もあると感じています。
ただ、それを頭の片隅に置いていただいて、例えばお子さんが大きくなったときに「お父さんの会社はこんなことをしているんだよ。」と胸を張って言えるようになってもらえれば良いと思います。なので、クルーのお子さんを会社に招くイベントも定期的に行っていますね。
▲女性クルーの為に取り入れたパウダールーム。デザインだけでなくドレッサーやドライヤーなど機能面でも社員満足度を上げるこだわりが見える。
運輸業界に「オフィスデザイン」という新しい風を
Y.K:
オフィスにデザインを取り入れることについて、浪速タンカー様のような運輸業界内では今まであまり事例がないと感じていますが、同じ業界やお取引先からの評判はいかがでしたか?
福岡社長:
今までお客様がいらっしゃったときは、壁で閉鎖した会議室にお通しして、商談をして、他の社員は誰が来たかもわからない……ということが往々にしてあり、そんな現状を変えていきたい気持ちは以前からありました。
現在もそのような運輸業界特有のカラーは存在するので、来社されたお客様はビックリされます。オフィスは8階でエレベーターを出るとすぐエントランスが見えるようになっているのですが、エレベーターを降りたお客様は、階数を間違えたと思って一度エレベーターに戻ってしまうこともあります(笑)。
Y.K:
まだ業界の中ではオフィスへ投資する考えは浸透していないのでしょうか。
福岡社長:
そうですね。業界内では「オフィスにお金をかけてどうするんだ」というイメージはまだあり、「船会社は船をもってなんぼだよね」という考えが強いです。それはその通りですが(笑)。
練習期間を設けて臨んだ一大改革「フリーアドレス」
Y.K:
オフィス移転の際は、クルーの皆様の反応はどうでしたか?
福岡社長:
現在、ワークスペースはフリーアドレスで運用しているのですが、最初にフリーアドレスにしたいと発信したときは絶対に無理だと言われました。
同じ部署の社員同士が隣り合っていないと円滑に仕事ができないと言われまして……そこで移転前の旧オフィスで2ヵ月程度、フリーアドレスの練習期間を設けました。そのおかげで移転時には意外とすぐに馴染むことができましたね。
練習期間で良かった点は、心の準備ができたこと、不要な書類を処分できたことの2点です。一人当たりの荷物量を事前に通達してデータ化・クラウド化を進め、移転時は段ボール1人1箱で済みました。全部で25箱くらいだったかな。
Y.K:
25箱!とてもコンパクトになりましたね!
様々な「はたらく」アイデアを取り入れた空間に
Y.K:
オフィスデザインを考える際に他社様のオフィスは見に行かれましたか?
福岡社長:
IT系企業のオフィスは最近デザインを多く取り入れているので、知り合いを通じてお邪魔しました。ただ、強烈なインパクトを持ったのはヴィスさんのオフィスでしたよ。いろいろな部分を参考にさせてもらっています。
まず、エントランスのガラス張りのイメージですね。エレベーターを降りて5秒で社風がわかる透明性というのは我々も大事にしていきたいなと。
もう一つは、ヴィスさんの会議室は入る時に一段床が上がっていますよね?あの15センチの高さはすごく大事だと思っていて、段差でONとOFFの切り替えをする考えは大切にしたいと思いました。実は、当社は床上げした内部には原状回復用の照明が入っています。
K.O(担当PM):
そうでしたね。ヴィスからも空間の効率的な使い方として提案させてもらいました。
福岡社長:
入りますかね?と言いながら施工の方にも頑張っていただいて(笑)。
それから、それぞれの会議室に名前をつけるというのも採用しました。会社の大事な方向性を決める役員会議室「コンパス」、ゆっくり腰を据えて話せるソファ席のある部屋「アンカー(いかり)」、実務者同士の会議室は、互いの企業の方向を明るく照らす「ライトハウス(灯台)」などです。
K.O(担当PM):
会議室のマークもネーミングに合わせてデザインさせていただきました。
福岡社長:
そうですね。実は我々が従業員の事をクルーと呼び始めたのもヴィスさんのご提案です。
K.O(担当PM):
今回のコンセプトがクルーアップ(社員の成長)のため、そこから紐づいています。
Y.K:
文化を取り入れるのに抵抗はありませんでしたか?
福岡社長:
最初はみんな恥ずかしがっていましたが、今ではお得意先などにも紹介していますよ。
Y.K:
オフィスのデザインだけではなく、企業文化をつくるような提案も活用していただけるのはとても嬉しいです!
オフィス環境が社内の雰囲気づくりに
Y.K:
今のオフィスでのクルーの皆さんの雰囲気はどうですか?
福岡社長:
だいぶ和気あいあいとなりました。コミュニケーションの量も増え、イキイキと仕事をしています。
フリーアドレスで他部署が隣り合うようになったので、第三者から見た他部署の問題点や課題について、気軽に話し合う機会が増えました。他にもこういう商品つくれないの?という雑談から本当に新商品をリリースできたというのもありましたね。
Y.K:
社員には若い方も多いとのことですが、年齢差や他部署など関係なく和気あいあいと話ができるのは、やはりフリーアドレス機能が大きいと思われますか?
福岡社長:
それもありますが、若い人の意見やアイデアは基本的にやってみようと思っています。まずは取り入れてやってみて、それで問題が生じればまた変えていけばよいので。そのあたりは中小企業の強みかなと思いますね。
業界初の「航海シミュレーションルーム」
Y.K:
先日、オフィス内の改装で「航海シミュレーションルーム」が完成し、業界内でオフィスにこの設備を導入したのは浪速タンカー様が初だと伺っております。今回、導入に至った経緯を教えてください。
福岡社長:
今は新型コロナウイルスの影響で情勢は変わってきていますが、以前はどこも人手不足でした。我々の業界も漏れず人手不足で、どうしても海上で働ける人材が出てこなかった。教育の方法が整備されておらず、今回導入した航海シミュレーターは今まで専門学校などでのみ設置されていました。それならば、オフィスに設置して好きなタイミングで練習できるようにして教育を整備しようという理由が大きかったです。
もう一つの導入理由は、この設備を我々だけの財産にするのではなく、同業の皆様にも使用していただくことです。オフィスにたくさんの人が来ることによる交流で得られる情報や人脈は、我々にとってはビジネスチャンスですので。
Y.K:
写真を拝見すると、細部までこだわってデザインされているように感じます。
M.I(担当PM):
数パターンの仕上げをご提案させていただきました。錆風とか最先端とかステンレスの物とか……実際の浪速タンカー様の船内部の写真も拝見して機材の配置なども参考にしつつ、「普通の船には絶対ないような空間をつくる」というのも一つの目的だったので、そのバランスも気を付けました。
福岡社長:
デザインから素材までいろいろ細かくご依頼させていただきました。細かすぎて大変だったかと思うのですが、よくこれほどのディテールまでやってくれたなと思います。
Y.K:
専門学校などにある航海シミュレータ―はデザインにこだわったものはありますか?
福岡社長:
いえ、シンプルにぽつんと机の上に置いてあるだけですね。
Y.K:
シミュレーター自体が高額である中、あえてデザインにも投資されたのはどのような理由ですか?
福岡社長:
小規模ながら大規模で働いている方々をも唸らせるようなオフィスを創ることが、私の中のテーマでした。今回我々がオフィスにデザイン性のあるシミュレーションルームを導入したことにより、おそらくこれがモデルケースとなり、同業者も導入するかと思います。それでも、同業社に勝てるようなものを創ることを目指しました。
オフィスを会社の顔として
Y.K:
オフィスの完工写真も拝見しました。天井も木目にされたり、柱1本1本もデザインされたり全体的に見ても完成された空間になっているかと思いますが、コストも合わせてかかってくるお話だと思います。福岡社長にとってオフィスの位置づけはどのようなものでしょうか?
福岡社長:
私の中でオフィスは会社案内パンフレットの進化版だと思っています。会社について説明したりパンフレットを読んでもらうことよりも、一回オフィスに来てもらうことの方が絶対に我々の理念ややりたいことが伝わるような気がします。
Y.K:
周りの経営者の方々からの反響などございますか?
福岡社長:
社長がいらっしゃった次の日にその会社の社員の方が来たりします。「お前一回見てこい」と言われたらしく(笑)。そのように伝わって、来社される方も増えましたね。さらには、そこから生まれるビジネスもありました。
Y.K:
具体的にはどういったビジネスが生まれたのでしょうか?
福岡社長:
今回航海シュミレーターを入れたことで、未経験の方も採用して学んでいただいています。来社した船会社さんの中から船員が足りないので弊社の船員を派遣してくれないかという相談があり、船員派遣事業もグループ会社のアズーロジャパンでやっています。
Y.K:
オフィスデザインを通してビジネスを発展・促進させることができているんですね!
最後に、オフィス環境を変えたくても一歩踏み出せていない企業に向けてアドバイスをお願いします。
福岡社長:
来社された方からは「福岡の会社、(オフィスデザインが)ぶっ飛んでるな!うちでは真似できない。」とよく言われます。この言葉にはコスト的に難しいという意味もあるかと思いますが、デザインを入れようと思う人が社内にいないとか、オフィスデザインのセンスがある人がいないとかの理由もよく聞きます。
そういう考えの方々には「よくあるビジネスホテルと帝国ホテルではどちらに泊まりたいか?」と話して具体的にイメージしてもらい、「それと同様に、お客様にとってきれいなオフィスの会社と汚いオフィスの会社では、イメージが異なってくるよね。」と話をしていますね。
Y.K:
具体的なアドバイスをありがとうございます。細部までこだわりある素敵なオフィス、そこから発展するビジネスもあるというのを教えていただくことができました。本日はありがとうございました!
さいごに
今回のインタビューでは、改めてオフィスが組織にとってどれほど重要な場所であるかを再確認できました。浪速タンカー様のオフィスは業界の中で先駆者となり、これまでの常識を覆し、新しいサービスが生まれるなど、マーケットへも多大なる影響を与えるほどのオフィス移転プロジェクトであったと感じました。
こんな時だからこそ良いニュースを、とご協力いただいた浪速タンカー様に心より感謝申し上げます。
オンラインでのインタビューという初の試みでしたが、オンラインでのオフィスツアーもしていただき、オフィスの細部デザインに至るまで浪速タンカー様の想いが込められていることを感じることができました。ありがとうございました!
D o w n l o a d
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