企業の事業成長が続かない要因のひとつに離職率の高さが挙げられます。企業の継続的な成長には、優秀な人材の定着が大事です。しかし、離職率を下げたくてもなかなかうまくいかないこともあります。そこで、従業員エンゲージメントに着目してみてはいかがでしょうか。
従業員エンゲージメントを高めることで、従業員の定着率がアップし生産性の向上につながるかもしれません。ここでは、従業員エンゲージメントの定義やメリット、向上させる方法、企業の取り組み事例を解説します。
従業員エンゲージメントとは
まずは、従業員エンゲージメントの定義、似た言葉との違いを解説します。
従業員エンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントとは、会社の考え方や価値観などに共感し、自発的に貢献したいと思う度合いのことです。
会社の考え方や価値観への共感を得るためには、会社への理解度が深くなければなりません。そして、自分の考え方やビジョンと照らし合わせ、リンクしたときに初めて従業員が共感するようになります。会社の一員としての自覚が高まり、行動意欲も出てくるでしょう。会社に対して抱く信頼も厚くなり、自発的に貢献したいと考えるようになります。
そのため、企業が成長していくうえで、従業員エンゲージメントの重要度は高いといえるのです。従業員エンゲージメントが低いままでは、離職率に歯止めをかけるのは難しく、成長も見込めないでしょう。
日本企業は、諸外国の企業と比べて従業員エンゲージメントが低いといわれています。そのため、離職率の低下や安定的な成長を図るためには、従業員エンゲージメントを高める施策を講じなければなりません。
「エンゲージメント」に似た言葉との違い
「エンゲージメント」とよく似ている言葉として従業員満足度・モチベーション・ロイヤリティなどが挙げられます。
従業員満足度
満足度は、職場の環境や仕事内容などに関してどれくらい満足しているかを示すものです。人間関係が良好であるなど働きやすい環境であれば、会社の価値観やビジョンに関係なく満足する人も多いでしょう。会社に対する満足度が高くても、エンゲージメントは低いケースもあります。また、満足している従業員が必ずしも仕事で良い成果を上げているとは限りません。
モチベーション
モチベーションは、自分のために努力できる動機を意味する言葉です。会社に対する共感や貢献したいという思いは関係ありません。
ロイヤリティ
ロイヤリティは会社に対する忠誠心や帰属意識を指します。上下関係や主従関係を意味することが多いです。これに対してエンゲージメントは、対等な関係を前提としている点で異なります。会社が自分よりも優位な存在だからこそ信頼しているような場合は、エンゲージメントが高いとはいえないでしょう。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントを高める施策を行う前に、実際に高くなったときに得られる効果を把握しておきましょう。
基本的に、従業員の質が高まれば企業の業績も向上しやすいです。ただし、業種によって従業員エンゲージメントが高くなった場合の効果に差があります。サービス業・不動産業・人材業界・保険業界など、顧客接点が多い業種では、より大きな効果が期待できるでしょう。
では、従業員エンゲージメントを高めることで得られる具体的な効果を見ていきましょう。
定着率を高められる(離職率が低くなる)
従業員エンゲージメントが高くなることで、従業員の離職率が下がり定着率が高くなる傾向が見られます。会社と同じ価値観を持ち、同じビジョンを描いていれば、会社に貢献できることに対して喜びを感じるでしょう。
そのような状態で、現在の職場から離れようという考え方にはなかなか至りません。従業員が自社内で経験を積んで成長し社内で活躍していきます。せっかく育てた従業員が、他社に転職してしまうことがないため、会社全体として中長期的な成長を目指せるでしょう。
また、多くの企業では人材採用に多くのコストを費やしています。採用コストが膨らむと利益が圧迫されることもあるでしょう。その点、離職率が低下すれば新規で人材を募集し採用する機会が減ります。採用コストも抑えられるでしょう。
顧客満足度の向上につながる
従業員が企業に対して共感を抱き貢献したいという思いが強まれば、仕事に対するモチベーションも上昇します。顧客と接する機会の多い業種なら、サービスの質が向上し、顧客満足度の向上につながります。
そして、自社のサービスに満足してくれた顧客は、リピーターになってくれることも多いです。さらに、自社のサービスに関する良い評判も広まっていくため、業績アップも期待できます。
従業員にとっては顧客から感謝される機会が増えるため、さらにモチベーションが高まるでしょう。
生産性が高まる
従業員エンゲージメントの高い企業では、自ら進んで職場を良くしていこうとする従業員が多いです。そのため、従業員の積極的な行動や発言が増えます。
これまでは受け身の姿勢でしか仕事に取り組んでこなかった従業員も、自ら進んで仕事に取り組むようになってくるでしょう。これが生産性アップにつながります。
必然的に職場の雰囲気も良くなることが多く、従業員同士での意見交換の機会も増え、良いアイデアが生まれやすくなるでしょう。さらに生産性アップにつながり、企業の収益増加も見込めます。
従業員エンゲージメントを高める効果的な方法
従業員エンゲージメントを高めるために、どのような施策や取り組みが効果的なのでしょうか。ここでは下記の5つの方法を紹介します。
・現在の従業員エンゲージメントをチェックする
・企業理念・ビジョンを浸透させる
・職場環境を整備する
・透明性・公平性が高い人事評価制度を取り入れる
・社内コミュニケーションを活性化させる
従業員エンゲージメントを高めて組織の成長につなげましょう。
現在の従業員エンゲージメントをチェックする
従業員エンゲージメントをチェックすれば、自社の組織の状態を把握できます。また、離職率を下げるための改善ポイントの発見や生産性の向上にも役立てられます。
現在の従業員エンゲージメントを調べる方法として「エンゲージメントサーベイ」があります。エンゲージメントサーベイは、社内調査の回答から規定の基準に当てはめることで、従業員エンゲージメントの状態を数値化する方法です。数値を調べることで、客観的に状態を把握し、施策の効果を測ることが可能です。
社内調査では、従業員に対して匿名で以下のような質問をします。
・仕事において期待されていることを知っているか
・自分の成長を助けてくれる人は職場にいるか・仕事で成長や学びの機会を得られたか
・職場に仲の良い同僚はいるか
自社だけでは具体的な質問内容や数値の基準などの設定が難しい場合には、ヴィスが提供するエンゲージメント向上・組織改善サーベイの『ココエル』がおすすめです。従業員エンゲージメントをチェックし、組織課題を可視化して改善方法を検討するなら、利用をご検討ください。
企業理念・ビジョンを浸透させる
企業の理念やビジョンは、企業の存在意義や根幹となる価値観を言語化したものです。企業理念を明確にし、社内全体に理念を浸透させることで従業員からの共感が得られ、組織の方向性が統一されていきます。
その結果、一体感を持って仕事を進められるようになり、社員一人ひとりのエンゲージメントが向上します。同時に、生産性の向上や離職率の低下にもつながる効果もあります。
企業理念を全社的に浸透させるためには、経営陣や管理職が率先して体現することが大切です。朝礼や社内制度などを利用して従業員に周知する方法も検討するとよいでしょう。
職場環境を整備する
働く環境全般を整えることで、個人の能力やスキルが十分に発揮できるようになるため、従業員エンゲージメントの向上につながります。具体的には、照明や室温、湿度、騒音などについて確認し、必要に応じて改善しながら就業場所として適した環境を整備します。
また、使用するツールやテクノロジーの導入が不十分だと、業務の効率性が上がらず従業員のモチベーションや生産性の低下を招く可能性があります。部署やチームごとに、働き方や仕事内容に合った業務システムやツールを取り入れることも重要です。
さらに、労働時間や休日制度などの労働条件も再確認しましょう。残業が多く休みが十分に取れないと体調不良につながる恐れがあります。また、集中力が低下すると生産性にも影響が及ぶため、フレックスタイム制やノー残業デーなども検討し、健全なワークライフバランスを確立する必要があります。
関連記事:職場環境とは?改善の必要性と働きやすい職場づくりの改善ポイントを解説
透明性・公平性が高い人事評価制度を取り入れる
信頼性の高い人事評価制度を運用するためには、特に透明性と公平性が重要です。評価の基準や方法が従業員に周知されない、もしくは不明確な状態では、従業員の不満や不信感を高めてしまう可能性があります。
昇給や昇進などの処遇がどのような評価基準に基づくのかを従業員に開示し、一貫性を保つことで、従業員の貢献度やモチベーションの向上につながります。また、成果だけでなく、企業理念の体現度や成果に至るまでのプロセスなどを踏まえた、公平性の高い評価制度を採用することも有用です。
さらに、評価を受ける側の納得性を確保する必要があります。評価者の理解や評価についてのフィードバックの伝達などにより、被評価者が納得して評価を受け入れ、主体的に自己成長へと活かすことが可能になります。
社内コミュニケーションを活性化させる
コミュニケーションの活性化は、従業員エンゲージメントの向上にとって重要な要素です。社内のコミュニケーションが活性化すると、従業員同士の関係性が深まり、職場における結束力の向上が見込めます。
また、上司からのフィードバックがしやすくなるため、従業員の成長や生産性アップにも役立つでしょう。従業員のストレス軽減やハラスメント防止といった効果も期待できます。
具体的な対策としては、フリーアドレス席を導入し、関わったことのない社員と交流する機会を増やす方法があります。カフェエリアや休憩スペースなど自由度の高いやり取りができるスペースの設置も有用です。他にも、定期的な社内イベントや社内SNSの活用などさまざまな方法があるので、社員同士の接点を増やす方法を検討してみましょう。
従業員エンゲージメントが高い企業の取り組み事例4選
従業員エンゲージメントを高めることでさまざまなプラスの効果が期待できます。ここでは、従業員エンゲージメントが高い企業を4社挙げ、具体的な取り組み内容を紹介します。
メンバー同士のコミュニケーションを生む(株式会社ヴィス)
株式会社ヴィスでは、働き方の多様化やコロナ禍を経て、デザイナーズオフィスからワークデザインにシフトチェンジしました。
「はたらく人々を幸せに。」の実現を目指し、2023年4月のオフィス移転時に新しいワークプレイスのコンセプト「VISTEXT(VISTA×CONTEXT)」を設定。これから出会う人とともに未来への展望を作り上げる「わたしが主役になれる場所」という想いが込められています。オフィス移転の際には、まず社内でプロジェクトチームを立ち上げ、プログラミングを実施。役員・従業員の意見や理想の働き方をヒアリングすることで、新たなワークプレイスのあるべき姿を具体化していきました。
完成したオフィスでは、従業員が主体的に働き、輝ける場所に加えて、コミュニケーションが発生するようタッチポイントを多数設置。メンバー同士の個性のシナジーによって、新しい価値を生み出すためのワークフィールドが構築されました。例えば、ワークスタイルに合せて選んで使えるブースエリアや、可動しやすい家具を採用したフレキシブルエリアなど、チームと個、両方の働きやすさにフォーカスを当てた工夫が数多く取り入れられています。
人材育成の強化によって共感力を高める(株式会社スターバックス)
スターバックスコーヒーを利用したことがある人の中には、接客の質が高いと感じている人も多いでしょう。抜け目ないマニュアルがあるのではないかと思われがちですが、実はスターバックスではマニュアルを使用していないそうです。
スターバックスでは従業員一人ひとりの自発的な行動を重んじることで、従業員エンゲージメントを高めています。おすすめのドリンクを紹介したりトッピングなどを勧めたりするのも、各従業員が考えて行っています。
スターバックスでは従業員が顧客や店舗のために何かしたいという欲求を持って働いているかに着目しています。欲求に基づいて自発的に行動することで、個人が大切にしている価値観とスターバックスという会社が大切にしている価値観が重なり合い、つながりを生じさせるのが狙いです。
このつながりが、スターバックスと従業員との間に共感を生み、従業員エンゲージメントを向上させています。スターバックスの従業員は8割以上がアルバイトであるものの、従業員エンゲージメントは高いです。それゆえにマニュアルなしでも質の高いサービスを実現しているのです。
従業員同士で感謝を共有し合う(株式会社ハイフライヤーズ)
株式会社ハイフライヤーズは、複数の保育園を経営している会社です。以前は離職率が34%と非常に高く、改善策を模索してきました。
ハイフライヤーズは、家賃負担なしで入居できる借り上げ社宅を提供したり、有給休暇を100%消化させたりと、福利厚生を充実させる施策に取り組みました。保育業界は、全体的にあまり待遇が良くないことを考慮すると魅力的な施策です。しかし、離職率の低下にはつながりませんでした。
そこで着目したのが、近年変わりつつある若い職員(従業員)の価値観でした。金銭や処遇でなく、自分が保護者や他の職員から「認められること」に価値を感じると気づいた経営者は、社内コミュニケーションツールを導入し、従業員同士がお互いにメッセージを送れるような仕組みを整えました。
そして、従業員同士が自発的に感謝のメッセージを送ることが増え、離職率も約10%まで低下したそうです。人から感謝されたり認められたりすることが、待遇を改善すること以上に従業員エンゲージメントの向上につながった事例です。
社内広報の展開によるコミュニケーションの活性化(株式会社マクロミル)
株式会社マクロミルは、マーケティングリサーチを行っている企業です。社内コミュニケーションを活性化させるために、イントラネットの社内メディア「NOW」を2013年に立ち上げました。
「NOW」は毎日更新し、社内の情報をリアルタイムで発信するものです。従業員は他部署も含めて常に社内の最新情報を把握できるようになります。産休や育休を取得している従業員も閲覧できるように、iPadを支給したそうです。
この取り組みにより、従業員が社内の情報を把握できるようになり、部署間のコミュニケーションが活性化。従業員エンゲージメントも高まり、生産性の向上につながったそうです。
また、マクロミルでは「NOW」の取り組みにより、2016年度経団連推薦社内報審査で「特別賞」を受賞しています。
まとめ
従業員エンゲージメントは、会社の価値観やビジョンに共感し、自発的に貢献したいと思う度合いのことです。従業員エンゲージメントを高めることは、離職率の低下や顧客満足度の向上といったメリットが期待できます。
ただ、単に待遇を改善するだけではなく、従業員一人ひとりが企業に対して自発的に貢献したいと思えるような環境を整えることが大切です。従業員エンゲージメントを改善する方法は多数あるため、今回紹介した企業事例も参考に、現状をチェックして結果をもとに改善策を模索してみましょう。
ココエルは、従業員の心身状態やエンゲージメントを可視化し、課題と解決策の特定に役立つ機能を備えています。ストレスチェック対応の調査や専門家によるフィードバックも可能ですので、お気軽にご相談ください。