健康経営とは?取り組むメリット・デメリットと企業事例を紹介

近年、長時間労働やストレスの増加などにより、健康的に働くことが難しいと感じる方は多いものです。社員の働きやすさは、企業の経営状況にも直結します。 従業員の働きやすさを考慮するうえで企業に求められている取り組みが「健康経営」です。 今回は、健康経営の詳細とメリット、企業事例やオフィス環境の整備とあわせて取り組む方法などを紹介します。

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昨今注目されている「健康経営」とは

経済産業省の「健康経営」によると、健康経営の定義は社員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」となっています。経済産業省では、企業の健康経営の普及を促進しています。

健康経営は企業だけでなく、社員にもメリットがあります。企業と社員がともに健康経営について学び、働きやすい環境を整えることができれば、社員の生産性向上やモチベーションアップなどの効果が期待できるでしょう。

出典:「健康経営」(経済産業省)

多くの企業が健康経営に取り組んでいる

社員が長く健康に働くために、多くの企業が健康経営に取り組んでいます。

ここからは、健康経営に取り組む企業の取り組み事例を紹介しましょう。

株式会社PR TIMES

株式会社PR TIMESは、プレスリリース配信サービスの運営や企業の広報や広聴活動の支援など、さまざまな事業を展開している企業です。

健康経営における取り組みとして、環境整備を行うべくオフィスレイアウトの変更を行っています。

たとえば、オフィス内はリモートワークとのバランスのため、1フロア全体を対面でコミュニケーションできるようレイアウトされています。景観の良さや窓の多さを活かした明るい空間も特徴的です。

また、「対面による共感」と「自律した働き方」を両立させるため、固定席+ABW(Activity Based Working)を採用し、働きやすい環境が整えられています。開放感のある明るい空間とコミュニケーションの取りやすさは健康経営に即したレイアウトといえるでしょう。

対話から信頼と創造性が高まる、“共感を育む”オフィス

ツカサ工業株式会社

ツカサ工業株式会社は、サニタリー配管工事の設計から試運転までワンストップで対応する企業です。

ツカサ工業株式会社のオフィスでは、健康経営と社員のコミュニケーション促進のため、食堂スペースが設置されています。「快適な空間の提供は、社員のパフォーマンスアップにつながる」という想いが詰まったオフィスです。

また、休憩時間をゆっくり過ごせるように、設置されている家具にもこだわりが感じられるのもポイントです。食堂のほかにもコーヒーを飲みながらゆっくり過ごせるエリアや、ソファでくつろぎながら雑談ができるエリア、マッサージチェアで体を労わるエリアなど、用途に合わせたエリアが設置されています。

また、健康経営の一環として、社員の食生活の改善に向けた普及啓発や社員同士のコミュニケーション向上などさまざまな取り組みを行っています。食堂で提供される食事は、健康に配慮した食事や野菜ジュース、減塩味噌汁などを取り入れており、社員の健康が考えられています。

このような健康経営への取り組みが評価され、経済産業省から「健康経営優良法人2021」に認定されています。

健康経営優良法人認定制度は、優良な健康経営を実践している法人を顕彰するための制度です。地域の健康課題にかかわる取り組みや、日本健康会議が推進する健康増進のための取り組みをもとに評価がされています。

健康経営優良法人の認定を受けた法人は、社会的な評価を受けられると同時に、「健康経営優良法人」のロゴマークを使用できるようになります。


『T-lamis』ウェルビーイングの推進からワークエンゲージメントの向上につながるカフェテリア

カルテック株式会社

カルテック株式会社は、光触媒技術により空気清浄や水質浄化の製品を開発している企業です。

カルテック株式会社のオフィスでは、ワークスペースの中央にファミレスブースやパントリーを設けてマグネットスペースとし、社員のコミュニケーションを促進させています

また、社会課題解決への取り組みも行っており、コロナにおいて、自社製品である空気清浄機を地域経済の活性化のために寄贈するなどの活動をしています。

このように、地域の健康課題に基づいた取り組みも、健康経営のひとつといえるでしょう。


グリーンや木目を通して事業の核である自然や呼吸を感じられるオフィス

【メリット】健康経営に取り組むことで利益向上を図れる

健康経営に取り組むことで、社員が健康的に働けるだけでなく、企業は利益向上を図ることができます。なぜ健康経営が利益アップにつながるのか、4つの理由を紹介します。

1.生産性を高められるため

健康経営の実施で社員のワークバランスが実現できます社員の健康と企業の生産性は比例関係にあり、社員が健康でなければ企業の生産性は低下します。

社員が心身ともに健康的な状態で働けるようになれば、仕事への意欲がわき、業務をスムーズに進められるでしょう。

しかし、社員が体調不良やストレスを抱えてしまうと、職場全体の雰囲気を乱してしまう可能性もあります。本人が抱えている不満やいらだちが周囲につたわるおそれがあり、社内全体のモチベーションの低下につながりかねません。

健康経営に取り組み、社員の健康増進をはかることで、結果的に職場内のストレス軽減や業務の効率化が期待できます。

2.休職率・離職率が低下するため

劣悪な労働環境では、健康に支障をきたし、社員の離職を招くおそれがあります。さらに、職場環境や休職中の社員へのサポートが不十分な状態では、職場復帰を途中で断念してしまうこともあるかもしれません。

また、離職によって人材不足の状態が続けば、既存社員の負担も大きくなります。心身への負担が増えてしまい、さらに離職が続くといった「負のループ」が起きるおそれもあるでしょう。

そのため、健康経営によって社員の健康を維持することは、離職率低下にもつながります。

オフィス環境を整えたり、食生活のサポートをしたりなど、社員の健康を支える施策を考えましょう。労働時間の適正化に積極的に取り組んだり、福利厚生を充実させたりすることで、メンタルの不調などを未然に回避できるかもしれません。

3.医療費の負担を軽減できるため

社員の疾病率が上昇すると企業負担の医療費が増加します。企業で加入している社会保険などは、国民健康保険と異なり、保険料の半額を企業が支払います。社員の通院や入院が増えると、企業負担の医療費も高くなるでしょう。

社会保険料は直接確認できない分、見落とされがちな支出です。健康経営の取り組みにより、社員の疾病率が低下すれば医療費負担の軽減につながります。

社員が健康になり医療費を削減できれば、経費にゆとりが生まれ、オフィスの環境整備といった投資にあてられるなど、健康経営における好循環が生まれるでしょう。

4.企業のブランディングにつながるため

健康経営への取り組みは、「社員を大切にしている企業」というブランディング形成に繋がります。また、健康経営を実施している企業は、経済産業省により「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」に選ばれるため、社会的評価も高まるでしょう。

株価上昇や、業績の向上、投資家からの注目も集められるかもしれません。

健康経営の実施は、取引先との良好な関係の構築はもちろん、採用活動における母集団形成にも役立つでしょう。職場環境の良さをアピールできれば、優秀な人材の確保につながります。

【デメリット】健康経営の効果は「すぐに、はっきりと」測れない

健康経営のデメリットは、効果をすぐに実感できないことです。

健康経営の取り組みを実施したとして、社員の健康を数値化することは難しく、具体的に効果を測定することは難しいでしょう。離職率や欠勤率の改善が見られたとしても、健康経営によるものかは定かではありません。

また、健康経営の定着や浸透が難しい場合もあります。社員の定期健康診断やストレスチェック、産業医による個別面談やセミナーなどは、事前に社員の理解を得てから行わないと、社員から不満が出るおそれもあるので配慮が必要です。

さらに、健康の専門家に委託したり、社員の数値を収集し管理したりすればコストがかかります。企業の負担が増えても、すぐに得たい結果に結びつくとは限らないでしょう。

健康経営は中長期的な施策として、地道に施策のデータを蓄積していくことが重要です。

健康経営の取り組みで成果を出すための実践ポイント

健康経営は実践してこそ効果が期待できます。健康経営を実践する際の前提として、法令遵守やリスクマネジメントを行いましょう。

たとえば、社員の安全を確保し、健康に働けるように配慮する安全配慮義務など、社員の健康管理に関する法令について違反がないかしっかりと確認することが大切です。

次に、健康経営に取り組む際のポイントを紹介します。

「健康経営」を宣言する

経営者が経営理念として社内外に「健康経営」を宣言します。とくに、健康経営優良法人の認定を受けたい場合は、「健康経営の方針等の社内外への発信」が健康経営優良法人の認定要件のひとつになっています。

全国健康保険協会(協会けんぽ)などにより行われる「健康宣言」事業にも参加しましょう。

健康経営の実施には、社員の健康だけでなく、経営者自身も健康に気を配る必要があります。中小規模法人部門においては、宣言にあたって、経営者の年に1回の定期健康診断の受診が必要です。それだけ、健康経営は経営者の意識が重要だといえます。

実施環境・体制を整備する

健康経営を戦略的に実践するには環境や組織体制を整備することが必要です。社内に健康部門を設置し、担当者を置きましょう。実効性を高めるために、責任者は経営トップや担当役員が担うと良いでしょう。専門部門では、経験やスキルに応じた研修なども適宜実施します。

実施環境や体制を整備することは、健康経営に欠かせません。健康経営を実践する上で責任者を決めておくことは、曖昧さを取り払うために大切なことです。

具体的な施策を実行する

実施環境や体制が整えられたら、具体的な施策を実行します。経済産業省が定める健康経営優良法人の認定要件を参考に、施策を検討しましょう

主な施策は以下の3つです。

・従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
・健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント
・従業員の心と体の健康づくりに向けた具体的対策

出典:「サービス産業の特徴・課題に対応したこれまでの取り組み」(経済産業省)

必須の施策のほかにも、社員の健康状態の把握や生活習慣改善への取り組みも大切です。具体的な施策としては、ストレスチェックの実施や食生活の改善に向けた社員食堂での取り組み、受動喫煙対策や健康促進イベントの実施などがあげられます。

企業によって雇用形態や就労環境はそれぞれです。企業の特性に合わせて無理のない範囲で実行できる施策を選択しましょう。

健康経営を実現するための具体的なオフィスづくりについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

健康経営オフィスで社内を活性化!3つのメリットを紹介

健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)に認定を受けた株式会社ヴィスでは、「はたワクプロジェクト」を実施しています。

はたワクには、「はたらくをワクワク」と「ワークライフバランス」のふたつの意味が込められています。はたワクプロジェクトは、「はたらく人々を幸せに。」というパーパスを社員にも実現してもらうため、社員自身の幸せに着目したプロジェクトです。

このプロジェクトは、コロナの感染対策として導入している『在宅勤務』や『時差出勤』を、より今の働き方に合わせた制度にアップデートしたり、時間単位で有給がとれる『時間有給』の制度を導入したりするきっかけとなりました。

健康経営に向けた取り組みとしてはほかにも、社員の健康管理やメンタルヘルス対策、ワークライフバランス向上や社内コミュニケーションの活性化、新型コロナウイルス感染症などの感染症対策などに着手しています。

メンタルヘルス対策には、社員のメンタル状況を正確に把握することが大切です。そのツールとしておすすめなのが、組織改善サーベイ「ココエル」です。ストレスチェックや要因分析、対策までを把握することができます。

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そのほか、ヴィスでの健康経営に関する取り組み内容は以下をご覧ください。

「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)」に認定されました。(株式会社ヴィス)

実行した施策を評価・改善する

具体策を実行した後は、社員の健康維持や増進への貢献度や企業の経営上の効果など、各種施策の効果検証を行いましょう。評価する際は、健康診断結果や生活習慣の改善状況などを踏まえて検証することがポイントです。

改善点や気づきは次回に活かすことで、さらに健康経営の改善が見込めます。

まとめ

健康経営の実施は、企業や社員にとって多くのメリットがあります。たとえば、生産性の向上や離職率の低下、医療費の削減や企業のイメージアップなど、社員の健康を守ることは企業全体にとってプラスに働きます。

オフィス環境の改善は、社員の健康にもつながるでしょう。さらに、健康経営優良法人に認定されると社会的評価も高まります。健康経営を実践するために、本記事で紹介したポイントを参考にしながら取り組んでみてはいかがでしょうか。