また、「おしゃれさ」と「生産性」を両立させるためのレイアウト・動線設計においても、グリーンによるゾーニングの明確化やリフレッシュスペースの質向上が効果的であることが多くの過去事例から読み取れます。
本記事では、オフィス緑化の具体的な設計ポイントと導入時の注意点を解説します。
バイオフィリックオフィスとは何か
バイオフィリックオフィスの定義と背景
「バイオフィリックオフィス」とは、執務空間や共用スペースに計画的に植物を配置し、働く人の心理的快適性や生産性を高めることを目的としたオフィス環境のことです。単なる装飾ではなく、オフィスグリーンを戦略的に取り入れることで、空間の質を向上させる取り組みとして注目されています。背景には、アフターコロナで進んだハイブリッドワークや、従業員のウェルビーイングを重視する企業文化の変化があります。

オフィスグリーンの効果:心理・行動・環境面
植物を取り入れることで得られる効果は多岐にわたります。
心理面では、緑視率の向上によるストレス軽減やリラックス効果が報告されています。
行動面では、コミュニケーションの活性化や、集中とリフレッシュの切り替えがしやすくなるといったメリットがあります。
環境面では、視覚的な柔らかさが空間の圧迫感を減らし、音の反射を抑える効果も期待できます。
バイオフィリックデザインの考え方と日本のオフィス事情
近年、世界的に注目されている「バイオフィリックデザイン」は、人間が自然とつながることで心身の健康を保つという考え方に基づいています。オフィスにおいては、観葉植物だけでなく、自然光の取り込みや木材・石材などの自然素材の活用も含まれます。日本のオフィスでは、都市部の限られたスペースや照度条件を踏まえ、耐陰性の高い植物や人工照明との組み合わせが重要です。

効果と誤解をきちんと見分ける
よく語られる効果の整理:生産性、ストレス低減、コミュニケーション
観葉植物を取り入れたオフィスは、従業員の集中力や生産性を高めるといわれています。緑視率が高い空間では、心理的な安心感が増し、ストレスが軽減されるという研究結果もあります。また、リフレッシュスペースに植物を配置することで、自然な会話のきっかけが生まれ、コミュニケーションの質が向上するケースも多く報告されています。こうした効果は、単なる「見た目の良さ」ではなく、働き方改革やウェルビーイングの推進に直結する要素です。

空気浄化の“神話”と現実:換気・空調との関係
一方で、観葉植物に関する誤解も少なくありません。特に「植物が空気を浄化する」という説は、NASAの古い研究が広く引用されていますが、実際のオフィス環境では換気や空調の方が圧倒的に効果的です。植物単体でVOC(揮発性有機化合物)を除去する効果は限定的であり、過度な期待は禁物です。むしろ、空気質改善を目的とするなら、換気計画や空調システムの最適化と併せて植物を配置することが現実的です。
効果を最大化する条件:照度・日照・湿度・メンテナンス
植物の効果を最大化するには、環境条件の整備が不可欠です。照度や日照が不足すると、植物は弱り、逆に管理負荷が増してしまいます。耐陰性の高い品種を選ぶ、人工照明を補助的に使う、湿度管理を行うなど、計画段階で条件を確認することが重要です。また、メンテナンス体制を整えないと、枯れた植物が逆にオフィスの印象を損なうリスクがあります。レンタルサービスを活用すれば、専門業者による定期メンテナンスが含まれるため、総務担当者の負担を軽減できます。
導入ステップとレイアウト設計
目的設定とKPI:なぜオフィス緑化をするのか
導入の第一歩は「なぜ緑化を行うのか」を明確にすることです。単なる見た目の改善ではなく、従業員満足度の向上やコミュニケーション活性化、企業ブランディングなど、目的を定義することで投資対効果を測りやすくなります。KPIとしては、社員アンケートによる満足度スコア、来客評価、離職率の変化などが挙げられます。
ゾーニング別の植物計画:エントランス、執務、会議室、休憩
緑化は空間全体に均一に配置するのではなく、ゾーニングに応じて計画することが重要です。
- エントランス:企業の第一印象を決める場所。大型の観葉植物やシンボルツリーを配置し、ブランドイメージを強調します。

- 執務エリア:視線の抜けを作るために、デスク間やパーティションに小型植物を配置。圧迫感を軽減し、集中しやすい環境を整えます。

- 会議室:緊張を和らげるため、壁際やテーブル端にグリーンを置くと効果的です。

- 休憩スペース:リラックス効果を最大化するため、吊り下げ型や棚型の植物を組み合わせます。

植物選定の基準:耐陰性、管理難易度、アレルギー配慮
植物選びでは、オフィス特有の条件を考慮する必要があります。
- 耐陰性:窓際以外の場所では耐陰性の高い品種(ポトス、サンスベリアなど)が適しています。
- 管理難易度:水やり頻度が少なく、病害虫に強い品種を選ぶことで、総務担当者の負担を軽減できます。
- アレルギー配慮:花粉や香りが強い植物は避け、社員の健康に配慮します。
グリーンレンタル/購入の比較とコスト目安
導入方法には「購入」と「レンタル」があります。
- 購入:初期費用は高いものの、長期的にはコストを抑えられる場合があります。ただし、メンテナンス体制を自社で構築する必要があります。
- レンタル:月額料金で植物とメンテナンスがセットになり、管理負荷を軽減できます。相場は1㎡あたり数千円〜、大型プランでは月額数万円程度が目安です。
メンテナンス体制:水やり、剪定、病害虫、委託のポイント
緑化は導入後の運用が成否を分けます。水やりや剪定の頻度を決め、病害虫対策を講じることが重要です。自社で対応する場合は、担当者を明確にし、チェックリストを作成しましょう。外部委託の場合は、訪問頻度や緊急対応の有無を確認して契約することがポイントです。
オフィス緑化事例から学ぶ
国内企業の事例
日本国内でも、オフィス緑化を積極的に取り入れる企業が増えています。IT企業では、執務エリアに耐陰性の高い観葉植物を配置し、集中とリラックスの切り替えを促す工夫が見られます。製造業やコンサルティング企業では、エントランスに大型のシンボルツリーを設置し、ブランドイメージを強化する事例もあります。こうした取り組みは、単なる装飾ではなく、企業文化や働き方改革の一環として位置づけられています。
ヴィスではグリーン・バイオフィリック事例を資料としてまとめています。記事と併せて参考にしてください。
ダウンロードはこちら
成功要因:ガバナンス、運用設計、従業員参画
バイオフィリックオフィスの導入に成功している企業には共通点があります。まず、導入目的を明確にし、経営層と総務部門が連携してガバナンスを確立していること。次に、運用設計を事前に行い、メンテナンス体制を外部委託や社内ルールで整備していること。そして、従業員参画を促す仕組み(植物の選定や配置に社員の意見を取り入れるなど)を設けることで、愛着と維持意識が高まります。
失敗例のポイント:管理負荷、照度不足、選定ミス
一方で、失敗事例もあります。代表的なのは、導入後の管理負荷を軽視したケースです。水やりや剪定が滞り、枯れた植物が放置されると、オフィスの印象は逆効果になります。また、照度不足で植物が弱る、アレルギーを引き起こす品種を選んでしまうなど、選定ミスもリスク要因です。こうした失敗を防ぐためには、導入前に環境条件を確認し、専門業者のアドバイスを受けることが重要です。
実務で役立つ運用ガイド
導入チェックリスト(箇条書き最小限)
導入前に確認すべきポイントを整理しておきましょう。
- 目的の明確化:緑化の狙い(ウェルビーイング、ブランド強化など)を定義。
- 環境条件の確認:照度、湿度、空調の状態を把握。
- 予算とコスト試算:購入かレンタルかを決定し、月額・初期費用を試算。
- メンテナンス体制の決定:社内対応か外部委託かを選択。
- 従業員参画の仕組み:選定や配置に社員の意見を反映する方法を検討。
季節変動と運用のコツ:夏/冬の管理差
植物は季節によって管理方法が変わります。夏は水やり頻度が増え、湿度管理が重要です。冬は暖房による乾燥で葉が傷みやすいため、加湿器や霧吹きで補うと良いでしょう。こうした季節変動に対応するため、年間スケジュールを作成し、メンテナンス業者と共有しておくことが望ましいです。
総務が社内合意形成するための資料化ポイント
緑化導入には、経営層や各部門の理解が不可欠です。提案資料には、導入目的と期待効果、コスト試算、事例写真を盛り込みましょう。特に、従業員満足度やブランド価値向上に関するデータを添えると説得力が増します。
自社事例紹介(緑化要素を含む最新事例)
株式会社新東通信
自然をテーマにした岩や石目調の表情、光の演出が訪れる人々の好奇心を刺激しているほか、新東通信様のバルセロナ営業所にちなみ、スペインのグエル公園をモチーフにしたキッチンカウンターや植栽を計画し、コミュニケーションの創出と活気を与えています。
プロジェクト事例はこちら
株式会社パラドックス
「志が共生する森」というコンセプトのもと、さまざまな植物が共存する森をイメージしたオフィスを実現しました。パラドックスの理念を具現化する場所として、社員の創造性を促進しています。音や緑が溢れる自然空間は、リラックスした雰囲気を醸し出し、創造的な思考を刺激しています。
プロジェクト事例はこちら
株式会社サンフィールド
企業ブランディングのひとつとして、グリーンと木目のマテリアルやアースカラーを多く使用し、より自然を感じられるデザインになっています。ワークススペースは仕事や気分に合わせて席を選択できるABWを採用。『Raise(育てる、育む)』というコンセプトの通り、太陽と自然の下でのびのびと働くことができる空間となりました。
プロジェクト事例はこちら
まとめ
オフィスに観葉植物を取り入れることは、単なる装飾ではなく、働く人の心理的快適性やコミュニケーションの質を高める戦略的な取り組みです。本記事では、観葉植物オフィスの定義と背景から始まり、効果と誤解の整理、導入ステップとレイアウト設計、さらに国内事例の成功要因と失敗例までを詳しく解説しました。
重要なポイントは次の3つです。
- 目的を明確化すること:ウェルビーイングやブランド強化など、導入の狙いを定義する。
- 環境条件と運用体制を整えること:照度・湿度・メンテナンスを計画し、管理負荷を軽減する仕組みを構築する。
- 従業員参画を促すこと:選定や配置に社員の意見を取り入れ、愛着を高める。
また、緑化の効果を最大化するためには、バイオフィリックデザインの考え方を取り入れ、自然光や素材との組み合わせを検討することが有効です。失敗を防ぐためには、導入前にチェックリストを活用し、専門業者のアドバイスを受けることをおすすめします。
さらに、実際の事例を参考にすることで、導入イメージがより具体的になります。今回紹介した事例は、緑化を通じて働き方改革やコミュニケーション活性化を実現した好例です。こうした事例をヒントに、自社のオフィスにも「自然とのつながり」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
お問い合わせはこちら
オフィス緑化や観葉植物の導入に関するご相談は、以下のリンクからお気軽にお問い合わせください。
https://vis-produce.com/contact