【企業事例4選】ウェルビーイング経営で社員の幸福度を高めよう

長引くコロナ禍でのストレスやテレワークでの孤立感など、心と体に不調を感じながら働いている方もいる昨今。そんな中、ビジネスの場でも身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを表す「ウェルビーイング」という言葉が注目されています。 社員が健康でなければ、業務の生産性向上は望めません。自分らしく健康的に働ける環境づくりを実現するために、近年ウェルビーイングの考え方を取り入れる企業が増えています。 そこでウェルビーイングとは何か、すでに取り組んでいる企業の施策事例と合わせて紹介します。またウェルビーイングを実現するオフィスづくりの3つのポイントも解説します。

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ウェルビーイング(well-being)経営は「幸福」に着目した経営手法

ウェルビーイング(well-being)経営とは、社員一人ひとりのモチベーションやエンゲージメントを高め、企業が関わる全ての人の「幸福」を目指す経営手法を指します。

本来、ウェルビーイングとは、心身ともに良好な状態であることを意味する概念であり、「幸福」で、満たされた状態を指します。

世界保健機関(WHO)憲章の前文では、以下のように語られています。

“健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。”

出典:「世界保健機関(WHO)憲章とは」(公益社団法人 日本WHO協会)

社員にとってのウェルビーイングを追求するには、肉体的・精神的な健康だけでなく、社会的な健康にも目を向ける必要があります。キャリアや人間関係、経済面も含めた「幸福な状態」を目指すのがウェルビーイング経営の考え方です。

なぜ今、オフィスにウェルビーイングが必要なのか?

そもそもなぜ、オフィスにウェルビーイングが求められているのか、続いてその理由をみていきましょう。

人材不足の深刻化が進んでいるため

企業にウェルビーイングの考え方が必要とされる理由のひとつは、人材不足の深刻化です。 現在、日本の労働人口は減少傾向にあります。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると生産年齢人口は令和3年時点で7,450万人を推移していますが、令和11年に7,000万人を割り、令和47年には4,529万人になると推計されています。

出典:「令和4年版高齢社会白書」(内閣府)

各企業で労働力不足が深刻化し生産性の向上が大きな課題になっている状況です。限られた人材が能力を十分に発揮し、長く活躍するためには、企業がウェルビーイングを意識した環境を整える必要があります。

働き方改革を推進するため

働き方改革を推進し「働く人々が状況に応じた多様な働き方を選択できる社会」を実現するためにもウェルビーイングの考え方は重要です。

働き方改革では「フレックスタイム制の拡充」や「残業時間の上限規制」、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」などが推進されています。各企業が待遇の見直しや労働環境の改善に乗り出していくなかで、社員のウェルビーイングを重視する考え方が広まってきているのです。

健康経営の関心が高まっているため

「健康経営」への関心が高まり、社員の心身の健康を重視する価値観が広まっていることも理由のひとつです。

健康経営は社員の健康への投資が生産性の向上につながり、その先の業績アップにつながるという考え方です。主に身体的な健康に重きを置いている点で、ウェルビーイング経営とは異なります。

すでに健康経営を実践している企業では、次なる施策としてウェルビーイング経営が検討されています。

健康経営については、以下の記事でも詳しく説明しています。
健康経営とは?取り組むメリット・デメリットと企業事例を紹介

コロナ禍においてメンタルケア重要度が高まっているため

新型コロナウイルスの拡大により、多くの企業で労働環境が変化しました。テレワークや時差通勤が開始され、どこでも働ける環境が整った一方で、コミュニケーションの不足が新たな課題として言及されています。

「悩みがあっても相談できる人がいない」という孤独感や閉塞感を抱える社員が増え、メンタル不調が現れる働き手も。企業はコロナ禍でも事業活動を維持するための働き方を模索しながら、社員が心身ともに健康な状態を維持する環境を整えていかなければなりません。

各企業で定期的なストレスチェックや労働環境の改善を通して、社員一人ひとりのウェルビーイングに向き合っていくことが重要になっているのです。

価値観の多様化に対応するため

価値観の多様化も企業にウェルビーイングが求められている理由のひとつです。

採用活動にダイバーシティの考えが取り入れられるようになったことが主なきっかけです。労働人口が減少する中、国籍・人種を問わない優秀な人材の採用に注力する企業が増えました。外国人労働者の受け入れや高齢者の再雇用、育休・産休取得後の復帰を推進するといった取り組みなど、企業は多様な雇用形態を受け入れるようになったのです。

また近年、日本では共働き世帯と単身世帯の増加に伴い、労働者のニーズも多様化しています。特に、家事や育児・介護と仕事を両立するワークライフバランスを重視する働き手が増えてきました。

企業は今後、性別や年齢、国籍のような属性にとらわれず、社員一人ひとりが本来の能力を発揮できるような環境を整えていく必要があります。その取り組みもウェルビーイングを実現させるうえで重要な課題となっています。

ウェルビーイング経営に取り組む3つのメリット

ウェルビーイング経営に取り組むことは、企業にとってどのような利点があるのでしょうか。そのメリットを3つ紹介します。

人材の確保・定着につながる

ウェルビーイング経営によって労働環境や人間関係の改善が進み、社員のストレス軽減につながれば離職率の低下が期待できます。定着率が向上すると採用コストの削減やノウハウの流出防止につながるため、企業にとっては大きなメリットです。

また、社員のエンゲージメントを重視する企業というイメージが対外的に評価されると、採用市場で優位性を確保できます。応募者の増加につながり、優秀な人材を採用できる可能性が高まるでしょう。

Great Place to Work® Institute Japanが発表している「働きがい認定企業」も対外的な評価のひとつです。株式会社ヴィスは、2022年11月に「働きがい認定企業」として選出されています。

<ヴィス>GPTWの調査で「働きがい認定企業」に選出

生産性が高まる

ウェルビーイング経営によって社員一人ひとりが働きやすい環境になれば、生産性の向上も見込めます。心身ともに健康な状態のため、本来のパフォーマンスを発揮しやすくなるのです。

企業にとっては売上アップや利益率の向上が期待できます。人手不足が課題となっている企業では、とくに大きなメリットとなるでしょう。

コスト削減につながる

ウェルビーイング経営によって、社員が心身ともに健康な状態を維持できるようになれば、医療費の削減にもつながります。万が一社員が大きな病気やケガをしてしまった場合、本人は治療のための医療費を負担しなければなりません。労災であれば企業側も休業手当の一部を負担するのが一般的です。

このような企業・社員双方の医療費負担を軽減できることもウェルビーイング経営のメリットです。

ウェルビーイング経営を考えるときに重要な5つの要素

ウェルビーイング経営を考えるときは、マーティン・セリグマン博士が提唱したPERMAモデルを理解することが大切です。

マーティン・セリグマン博士は、ウェルビーイングの実現を追求する「ポジティブ心理学」の創始者といわれています。その中でウェルビーイングの状態を5つの要素に分けて説明しました。その頭文字をとってPERMAモデルといわれています。

Positive Emotion(ポジティブ感情)

ポジティブ感情とは喜びや感謝、愛、楽しみ、希望などのポジティブな心理状態を指します。ポジティブ感情になるには、ポジティブな感情につながる経験を増やすこと、肯定的な感情を得ることなどが必要です。

単に「幸せ」と感じることだけでなく、充足感や自由を感じることでもポジティブ感情は生まれるといわれています。

Engagement(没頭、没入する)

趣味や好きなことに没頭していると時間があっという間に過ぎ、充実した時間を過ごしたと感じることがあると思います。同様に、夢中になって仕事へ取り組むことができれば、それは幸せな状態といえます。

目の前の業務に没頭できていれば仕事の効率がアップし生産性の向上にもつながります。仕事自体に楽しさを見出し、没頭できることがウェルビーイングにつながるのです。

Relationship(他者との良好な関係性)

他者とのつながりはエンゲージメントに大きく影響します。「社会的欲求」といわれるように、組織に属して精神的な充足感を得たいという感情は人の根源的な欲求でもあります。

パートナー、家族、上司や同僚をはじめ周囲と良好な関係を築き、「支えられている」と実感できれば人生の幸福度が高まると考えられています。

Meaning(人生の意味や意義)

人生の目的や意義を見出すことができれば、より幸福な状態を維持することができます。

仕事においては人間関係や業務量など、目の前の問題に疲弊しがちです。そのようなときも、長期的な意義を明確にできていれば、肯定的な感情を見出すことができます。

Accomplishment(達成感)

人は目標を達成することで幸せを感じます。また「達成しようとすること」自体に活力を見出せるため、たとえ失敗したとしても更なる挑戦ができるようになります。

仕事においては明確な目標を立てることで、資格取得やスキルの習得に励むエネルギーが生まれます。努力が実り目標を達成できれば、更に大きな充実感や幸福感を得られるでしょう。

オフィスでウェルビーイングを実現する3つの施策

最後に、オフィスでウェルビーイング実現のために重要な3つのポイントについて解説します。

1.健康やメンタルのサポートを行う

社員が自分の健康やメンタル状態を把握し、課題を改善できるようにサポートしましょう。たとえば、フィジカル面では、定期的な健康診断や予防接種の実施、検診費用の補助などがあります。ジムやフィットネスなどが利用できる福利厚生の導入も有効です。 メンタル面では、産業医や保健師との面談を設定することも有効です。

テレワーク環境でも、オンラインでの相談ができると良いでしょう。

また、トラブルの早期対処や問題解決のためには、企業側が社員のメンタル状態を定期的に把握しておくことも大切です。

メンタル状態のチェックを効率的に、より正確に行うには、ストレスチェックや要因分析、対策までわかる組織改善サーベイ「ココエル」が役立ちます。ココエルは社員の体と心の状況を把握するのに特化したサーベイツールです。社員の健康状態やエンゲージメントも把握できるため、社員のメンタルヘルスマネジメントにも有効です。

アンケート結果を分析し、特定した課題を素早くフィードバックしてくれるので、オフィス環境や社内・社外の人間関係の改善点を探すのに役立つでしょう。 ココエルに関するご質問やお問い合わせは、こちらからどうぞ。

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2.労働環境を見直す

労働環境の見直しに向けて、長時間労働の是正と、柔軟な働き方の促進にも取り組みましょう。長時間労働への対策としては、労働時間のモニタリングや短時間勤務制度の設定などが挙げられます。

また有給取得によるインセンティブ制度を設け、社員の前で表彰を行うことも有効です。社員に有給取得をうながし、ワークライフバランスの実現を図ることは、ウェルビーイングの実現につながります。

3.オフィス環境を見直す

オフィスの環境やレイアウトを見直すことは、効率の良い働き方を目指すうえで重要です。

たとえば、一人で集中して作業したいときには、仕切られたボックス型の席やカウンター席が利用できると良いでしょう。

また、社内の交流が円滑になると、業務上の課題や社員の悩みが解消されやすくなります。社員が気軽に利用できるリフレッシュスペースやカフェスペースを用意すると、職場内のコミュニケーションが活性化されるでしょう。

ウェルビーイングを実現するオフィスデザインなら「ヴィス」にご相談ください。

ヴィスでは、組織改善サーベイの活用から、オフィス環境改善のご提案、アフターフォローまでワンストップで行っています。通常の業務に影響を与えることなくオフィス環境の改善を実現できます。

ウェルビーイングを実践している企業事例4選

すでに多くの企業がウェルビーイング施策を導入し始めています。経営ビジョンとしてウェルビーイングを掲げる企業もあり、さまざまな取り組みを実施しています。

自社で取り組む際、具体的にどのような施策を打つべきか迷う方もいるでしょう。実際にウェルビーイングを導入している企業事例4選を紹介します。

共通しているのは、一過性の施策ではなく、継続性も重視していることです。自社で導入する際のヒントにしてみてください。

トヨタ自動車株式会社

トヨタは自動車会社からモビリティーカンパニーに変革するため、新たなサービスの創出やまちづくり等、事業フィールドを広げています。

社員の65%以上が日本以外の国籍をもち、その出身国は40ヶ国以上にのぼります。世界中の人が幸せになるモノやサービスを提供するため、社員が心身ともに健康で、安全な環境の下、生き生きと活躍し続けることを企業活動の基盤としています。

【ポイント】
1.『幸せの量産』を使命とし、トヨタで働くすべての人のウェルビーイングを追求する。
2.健康宣言の中で、経営トップ自らが「健康第一の会社を目指す」と宣言している。
3.健康組合では、肩こり解消チャレンジや健康に関するアンケートなど、健康課題への施策を行っている。

トヨタは日本のリーディングカンパニーのひとつとして、世界中の人々が幸せになるよう、幸せの量産をすることを使命としています。

企業と健康組合が一体となり健康経営とウェルビーイングに取り組み、トップ自らが社員に仕事以外の時間を楽しむようにメッセージを出すなど、ワークライフバランスを図る取り組みを継続しています。

出典:「トヨタフィロソフィー」(トヨタ自動車株式会社)
出典:「当組合職員の健康経営」(トヨタ自動車健康保険組合)

楽天株式会社

楽天グループは、Eコマース、デジタルコンテンツ、通信などさまざまなサービスを展開し、世界で約30ヶ国・地域で多くのユーザーに利用されています。

企業の価値観を示した『楽天主義』をベースに、近年ウェルビーイングを組織開発の中心に据え、企業文化の醸成に取り組んでいるようです。2020年には楽天グループでウェルビーイングに関するガイドラインを策定し、健康経営優良法人ホワイト500にも認定されています。

【ポイント】
1.コレクティブ・ウェルビーイングという概念を取り入れている。
2.仲間、時間、空間、3つの要素を三間(さんま)と呼び、それぞれに余白を設けるための取り組みを実施する。
3.ランチタイムに雑談ができるカフェやフィットネスジムの整備、在宅勤務の設備支援、ラジオ体操の実施などを行う。

また、CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)というポストを創業メンバーの一人が務めるなど、個人、組織、社会の3層からウェルビーイングをとらえて実現に向けた取り組みも実施しています。

出典:「健康経営優良法人認定制度」(経済産業省)
出典:「ニューノーマル時代に向けて、コレクティブ・ウェルビーイングを考えよう」(楽天株式会社)

株式会社アシックス

アシックスは、スポーツや健康に関連した商品やサービスを提供する企業です。同社では社員の健康は最も大切な要素と位置付け、個人の成長とともに企業が成長できる企業文化の醸成のため、健康経営に取り組んでいます。

【ポイント】
1.健康経営宣言をし、社員とその家族のウェルビーイングを目指す。
2.自社開発の健康増進プログラムを社員に実施し、個別の健康増進プランを提供する。
3.社員の運動機会を創出できるようなセミナーを実施する。

アシックスでは、企業の風土からスポーツに関連した取り組みが多く、運動を通してウェルビーイング実現に取り組んでいます。

健康経営宣言と同時に『ASICS Well-being』体制を立ち上げ、人事統括部長をCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)との兼任にしています。

また、仕事後にスポーツや運動セミナーの開催をしたり、バーチャルレースの開催や自宅でもできる運動プログラムの提供をしたりなど、新しい取り組みにも挑戦し続けているようです。

出典:「アシックスの健康経営」(株式会社アシックス)

ツカサ工業株式会社

ツカサ工業は、『粉を究めて、新たな価値を。』というスローガンを掲げ、独自技術の開発力と卓越した製造技術により、「粉」を扱うさまざまな機械やプラントを設計・製造・販売しているメーカーです。ウェルビーイングの推進から、オフィス環境を整える施策を実施しているようです。

【ポイント】
1.健康経営を継続的に実施し、健康診断やメンタルヘルスチェックを年1回実施する。
2.自社ビル内にカフェテリアをつくり、新しいコミュニケーションの場としている。
3.座りすぎによる健康リスクを軽減するため、昇降式デスクを全事務所に導入する。

同社は事業活動をグローバルに展開していくなかで、国連が主導する「誰一人取り残さない持続可能な開発目標(SDGs)」の実現にも力を入れています。その一環として、オフィス環境を整えることでウェルビーイングを推進しています。



『T-lamis』ウェルビーイングの推進からワークエンゲージメントの向上につながるカフェテリア

出典:「SDGsへの貢献」(ツカサ工業株式会社)

まとめ

ウェルビーイングとは「幸福の状態」のことで、近年多くの企業が実現のための施策を導入し始めています。ウェルビーイングを実現する施策は、人材の定着をうながすためや、人々の労働意識の変化に対応するため、また社員の健康管理のためにも重要です。

オフィスでウェルビーイングを実現する3つのポイントは、社員の健康やメンタルのサポートを行うこと、労働環境を見直すこと、オフィス環境を見直すことです。まずはオフィス環境を整え、健康に働き続けられる企業文化の育みを目指し、ウェルビーイングの実現を目指しましょう。