近年、労働人口の減少により、企業の採用活動が厳しいものになってきています。とくに認知度の低い企業は、求職者に選ばれにくいものです。「何度も求人をかけているのに全然応募が来ない」「優秀な人材が獲得できない」と悩む採用担当者もいるのではないでしょうか。
このような厳しい状況で役立つのが「採用ブランディング」です。本記事では、採用ブランディングの概要や重要性、メリット・デメリット、採用ブランディングの具体的な確立方法について紹介します。採用活動の成果が出ずに悩んでいる方は参考にしてください。
採用ブランディングとは?
採用ブランディングとは、求職者を対象にした自社のブランドイメージを構築するための戦略のことです。就職先を探す際に、聞いたことがない企業、これといった特徴・魅力がない企業に積極的に応募する人はなかなかいません。
「採用ブランディングは大企業がやるもの」と考える方もいるでしょう。しかし、採用ブランディングに取り組むことで、採用コストの削減や組織力の向上など大きなメリットがあるため、採用にかける予算が限られている中小企業でも採用ブランディングに取り組むところが増加しています。
採用ブランディングが重要になっている背景
求職者に自社をアピールするための採用ブランディングですが、近年企業が抱える採用課題によって、その重要性が高まっています。なぜ採用ブランディングが重要なのか、その背景を見ていきましょう。
求職者は就職先に「成長」を求めている
採用ブランディングの重要性が高まっている理由のひとつが、入社理由を「自らが成長できるか」とする求職者が増えていることにあります。
株式会社リクルートの運営する「就職みらい研究所」が2024年卒業の就職確定者向けに行った調査によると、就職先を確定する際に決め手となった項目で最も多かったのが「自らの成長が期待できるか」でした。終身雇用制が崩れ、働き方が多様化した今、現代の若者の間には将来的なキャリアに対する不安があり、キャリア自律の意識が高まっていることがわかります。
しかし、社内でどのような研修・指導が行われているのか、どうキャリア形成をサポートしてくれるのかは、企業側が発信しない限り外部からは企業の内情を知りようがありません。そのため、求職者が求める情報を提供し、自社を魅力的に感じてもらうための採用ブランディングが必要になっているのです。
参考:就職みらい研究所「就職プロセス調査(2024年卒)2023年12月1日時点 内定状況」
企業と就職希望者との接点が多様化している
インターネットを活用したツールの普及や就職活動のオンライン化によって、求職者と企業の接点が多様化していることも、採用ブランディングが重要な理由です。求職者と企業の接点となるツールや方法として、以下のようなものがあります。
・企業のホームページ
・就職情報サイト
・SNS
・コミュニティサイト
・企業説明会
・就活セミナー
・インターンシップ など
自社をアピールする場が多いのは良いことですが、発信する情報が媒体ごとに変わると求職者が混乱します。そのため、採用ブランディングによって、どの媒体でも一貫したメッセージを発信する必要があるのです。
分業していると全体最適が難しい
採用ブランディングが重要な理由として、近年、企業の採用活動の分業化が進んでいることも挙げられます。
企業が自社をアピールする場が増加したことにより、それにともなう業務も増えています。企業内だけでは対応しきれないことも多く、採用代行会社やデザイン会社など、専門の会社に業務を依頼することが増えています。
しかし、間に入る会社が多いほど、それぞれの領域の業務は完結していても、全体で見ると最適化されていなかったり軸がブレてしまっていたりするものです。
そのため、採用ブランディングによって企業が伝えたいメッセージを明確にし、社員のベクトルを一致させる必要があります。
採用ブランディングのメリット
採用ブランディングを効果的に実施するために、メリットを理解することが大切です。採用ブランディングのメリットは、主に以下の3つです。
・採用力の強化
・組織力の向上
・採用コストの削減
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
採用力の強化
採用ブランディングでは、自社にマッチする人材を集めやすくなる効果が期待できます。自社の特徴や強みを把握し、「うちはこんな会社です」と自社の理念や社風、事業内容をはっきり示せれば、それらに共感した人が求人に応募してくれるようになるのです。
情報が詳細で正確なほど入社前後のギャップが少なくなるので、内定辞退者や早期退職者も減るでしょう。
組織力の向上
採用ブランディングは、企業内部の社員に対しても影響を与えます。既存社員や入社する新しい人材双方のエンゲージメントが向上すれば、組織力の向上が可能です。
既存社員は、採用活動を通して自社の企業理念や業務内容、カルチャー、ビジョンを再認識することで、魅力を再発見できます。そのため、既存社員の従業員エンゲージメントや帰属意識を高められるのです。
また、社外への積極的な情報発信や魅力のアピールにより、転職・就職者は応募企業の特徴を深く理解したうえで入社することが見込まれます。そのため、企業へのモチベーションやエンゲージメントが高い状態での入社につながり、早い時期での活躍が見込まれるでしょう。
採用コストの削減
従業員エンゲージメントの向上や自社にマッチした人材の獲得が実現すれば、離職者が減少し、結果的に採用コストの削減にもつながるでしょう。離職者が少なければ、採用活動にかかる費用は最小限に抑えられ、その分既存社員のキャリア形成支援や福利厚生、職場環境の整備などにお金を回せます。働く環境が充実することで、さらに離職者を減らせるという好循環を作り出せるのです。
なお、採用ブランディングを実施するには、採用コンセプトやターゲットを検討して採用の過程が適正かどうかを見極める必要があります。こうしたプロセスを経ることで、無駄な費用や工数を軽減でき、自社にとって必要な課題や施策も見出せるでしょう。
採用ブランディングのデメリット
採用ブランディングには、デメリットもあります。
・全社で取り組む必要がある
・効果が出るまでに時間がかかる
効果的な採用活動につながるよう、上記のデメリットをおさえて抑えたうえで、対策を講じながら進めましょう。
全社で取り組む必要がある
採用ブランディングを実施するときは、自社の企業理念や魅力、再設定した採用コンセプトを全社員で共有し、組織の価値観や意識の統一を図る必要があります。
企業の外部に発信する内容と内部の実情にズレがあると、転職者・就職者の早期離職につながってしまいます。そのため、採用ブランディングを実施する場合、人事担当者や経営者だけでなく、全社員を巻き込んで実施しなければなりません。
外部に発信する情報やメッセージ、目標などは、全社員が実践できるものを設定しましょう。
効果が出るまでに時間がかかる
採用ブランディングを実施しても、効果を実感できるまでには一定の時間がかかる点も注意が必要です。
採用ブランディングの効果を出すためには、PDCAサイクルを回し続けなければなりません。そのため、取り組みを始めてから企業の認知度や企業イメージが向上するまでには、少なくとも2~3年はかかるといわれています。企業の外部へ情報を発信し続ける必要もあるため、長期的な運用と計画性が求められます。
運用の際は、即効性のある手段ではないことを理解しておきましょう。
【5ステップ】採用ブランディングを確立する方法
「採用ブランディングの重要性は理解したものの、具体的に何をすれば良いのかわからない」という方もいるでしょう。そこで、採用ブランディングを確立する流れを解説します。
1.採用ターゲットの明確化
採用ブランディングを始めるときは、どのような人材を求めているのか、ターゲットを明確化することが重要です。ターゲットがはっきりしていないと、求める人材に合ったメッセージが発信できなくなります。
採用ターゲットを明確化するには、「MUST」と「WANT」を意識しましょう。
・MUST:求職者に求める必須の条件
・WANT:できれば備えていてほしい条件
この2つを洗い出しておくと、学歴や資格、スキルなど、自社が希望する条件を満たした人材のなかから、より自社にマッチする人材を絞れるようになります。
2.採用ニーズの明確化
採用ターゲットを明確にしたら、次は採用ニーズを洗い出しましょう。自社の強みや他社との差別化ポイントを分析し、採用ニーズを明確化することで、候補者を絞り込みやすくなるうえ、採用後のミスマッチも防止できるようになります。
強みや差別化ポイントの分析には、「SWOT分析」が役立ちます。SWOT分析とは、以下の4つの単語の頭文字を並べた造語です。
・Strength=強み
・Weakness=弱み
・Opportunity=機会
・Threat=脅威
SWOT分析は、経営やマーケティング戦略を立てるためのフレームワークで、採用ブランディングにも役立ちます。
たとえば、「強み×機会」で、競合優位となる強みがわかります。また、「弱み×脅威」を知れば、最悪の状況を避けるための対策を事前に立てることが可能です。これらの分析結果をしっかり求人情報に反映できれば、採用効果の高まりを期待できます。
3.採用コンセプトの決定
採用ターゲットと採用ニーズが明確化できたら、その結果を踏まえて採用コンセプトを決定しましょう。
自社が求める人材に、どのようなメッセージを発信してアピールするのか、具体的な戦略を立てます。採用コンセプトは頻繁に変えるものではないので、3年後・5年後など長期的な経営的視点も踏まえたうえで確立させることが重要です。
4.発信方法を選択する
採用コンセプトが決まったら、その情報をどのように発信していくかを検討しましょう。たとえば、自社の採用サイトを作れば、文章や写真、動画などを用いて制約なく伝えたい情報を存分に発信が可能です。
会社説明会なら、求職者と直接会って自社の強みや魅力を伝えることもできます。SNSは拡散力が高いため、求職者に刺さる情報を発信できれば自社の認知度アップにつながるでしょう。
もちろん、複数のツールを駆使して、さまざまな方向から求職者にアピールしてもかまいません。どうすればより効果的かつ効率的に自社をアピールできるか熟考してみましょう。
5.管理・運用を継続する
採用ブランディングは長期施策であり、1度確立すれば終わりではありません。採用KPIをもとに、データを分析してPDCAサイクルを回すことが重要です。採用ブランディングにおけるKPIの例として、以下のようなものがあります。
・応募者数
・選考通過人数(通過率)
・内定数(内定率)
・内定辞退数(辞退率)
採用にかかったコストや、内定者1人あたりの採用単価を出すことも大切です。また、入社後の離職率や配属部署での評価なども調査しておくと、採用ブランディングの成果をより正確に分析できます。
採用ブランディングの企業事例4選
採用ブランディングを確立するにあたり、ほかの企業はどのように取り組んでいるのか知りたいという方もいるでしょう。そこで、採用ブランディングを行っている企業の事例を4つ紹介します。
【ポテンシャル採用】サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、ポテンシャル採用を取り入れているのが特徴です。採用サイトにはポテンシャル採用の紹介ページや、ポテンシャル採用枠で入社した社員のインタビュー記事を掲載しています。
また、「100人いたら100通りの働き方があっていい」という考えのもと、社員それぞれが自分で働き方を決められる「働き方宣言」を企業の強みとしてアピールしているのも特徴です。
【ピープルビジネス】日本マクドナルド株式会社
日本マクドナルド株式会社は、すべてにおいて人を大切にする「ピープルビジネス」という考え方をもとにビジネスを行っています。そのために「ピープルビジョン」を定め、企業が社員を大切にすることで、社員にブランドに対する愛着をもってもらえるよう工夫しているのが特徴です。
採用サイトでは、こうした日本マクドナルド株式会社の理念やビジョンを伝えるために、現役クルーへのインタビュー、柔軟な働き方、応募コンシェルジュへの導線などを設置しています。
【採用サイトの改善】フォーシーズ株式会社
不動産物件の家賃保証を行うフォーシーズ株式会社は、採用ブランディングの一環として、「社員が輝く社内環境」を軸とした採用サイトを制作しています。インタビュー記事や社員の声を充実させ、社内の雰囲気や業務内容が伝わりやすいよう工夫しているのがポイントです。
また、育休・産休制度といった働き方をサポートする制度などもくわしく掲載し、求職者が応募前に知っておきたい情報を積極的に発信しています。
【オフィス移転】株式会社PR TIMES
株式会社PR TIMESでは、「対話から信頼と創造性が高まる、“共感を育む”オフィス」をコンセプトに、採用ブランディングも見込んだオフィス移転を行っています。オフィスの移転にあたり、「オープン&フラット」「フェイス・トゥ・フェイスによる共感醸成」「健康」の3つの明確なテーマを打ち出しているのが特徴です。
1フロアは社員の対面でのコミュニケーションを重視したレイアウトにされており、窓の多さやガラスの間仕切りを利用した開放的な空間にされています。ワークフロアは「固定席+Activity Based Working」をテーマに、自然に社員同士の視線が合うような空間作りを意識しているのがポイントです。
採用ブランディングにおいては、SNSなどのツールを駆使した情報発信に意識が行きがちですが、社員が働きやすい環境を用意することも求職者へのアピールにつながります。
関連記事:「対話から信頼と創造性が高まる、“共感を育む”オフィス」
まとめ
労働人口の減少や起業と求職者の接点の多様化など、さまざまな要因によって、企業の採用活動の難易度が上がっています。厳しい状況のなかで優秀な人材を獲得するには、採用ブランディングによって企業のブランドイメージを構築し、積極的に求職者へアピールすることが重要です。
採用ブランディングの確立にはさまざまなステップがあり「手間がかかる」と躊躇することもあるかもしれません。しかし、多くの企業が採用ブランディングに取り組むなか、何もせずに待っていては、今後はさらに採用難が進みかねません。今回紹介した内容を参考に、少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
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