社会課題の解決とメンバーの幸福追求のため、リブランディングがスタート
――ヴィスでは2022年に大幅なリブランディングを実施しており、企業フィロソフィーを刷新。2023年4月にはコーポレートロゴもリニューアルしました。まずは、リブランディングを行われた背景について教えていただけますか。
ヴィスがデザイナーズオフィス事業をスタートしたのは19年ほど前のことで、当時「デザイナーズオフィス業界をつくる」というビジョンを策定していました。おかげさまで当社が手掛けたデザイナーズオフィスは7,000件を超え、当時は珍しかったデザイナーズオフィスも今では一定の市民権を得ています。
しかし、コロナ禍によるテレワークの普及が働き方の多様化を加速させている今、デザイナーズオフィス事業だけではトレンドの変化に対応しきれなくなってきています。一人ひとりの多様性に合わせた働き方が重視される現代において、オフィスをつくって終わりではなく、つくってからがスタートとなるビジネスモデルを構築することが、私たちのあるべき姿なのではないかと考えました。そこで、設立25周年の節目を機に大規模なリブランディングを実施しました。現在、オフィスづくりから働き方まで継続的に価値提供することを「ワークデザイン」と位置づけ、事業領域の拡大を進めています。
――リブランディングプロジェクトを立ち上げたのは金谷さんとのことですが、プロジェクト実行に踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか。
リブランディング前に定めていた理念と会社の実態に相違があることを感じたのがきっかけでした。当社では企業理念を毎朝全メンバーで唱和しているのですが、どうやらメンバーの価値観や想いとかけ離れているものになっていることに、当時常務であった私も働いていたメンバーも懸念していました。
デザイナーズオフィス事業というと響きは綺麗ですが、実際の仕事はハードな部分もあります。当時のメンバーの中には、目の前の仕事で精一杯になり、オフィスデザインを通じて企業価値を高めるというヴィスの事業に誇りを持てなくなっている人もいました。そこで、リブランディングのタイミングでフィロソフィーも見直し、働くメンバーに再び仕事への誇りを取り戻してほしいと考えたのです。
――つまり、社会の変化に伴うアウターブランディングと同時に、メンバーに向けたインナーブランディングも見据えたリブランディングだったわけですね。
その通りです。加えて2022年は、私が当社の代表取締役社長に就任するタイミングでもありました。25周年という節目に合わせ、会社としてあるべき姿を改めて定義するためにリブランディングを実施するのは自然な流れだったと思います。
全社が一丸となって、自社のリブランディングに取り組む
――リブランディングを推進するにあたって大切にしたことや、工夫されたことは何でしょうか。
現場で働くメンバーの声を取り入れることを大切にしました。たとえば全体のプロジェクトチームには現場の一線で活躍している主要メンバーを中心にアサイン。コアとなるアンビション、バリューズを策定する際は、経営幹部ではなくプロジェクトの若手有志メンバーが行いました。ロゴマークも、デザイナー中心にメンバーの意見を取り入れて採用しています。また、自社だけではなく、今までにない新しいエッセンスを取り入れたいと外部パートナーの力を借りると意思決定したのも大きかったと思います。
――メンバー自らが自社のリブランディングに取り組むことで、より納得度・浸透度が高くなりそうですね。
そうですね。旧クレドは経営幹部が策定したものでメンバーにも浸透していましたが、今回は現場で働いているメンバー中心に取り組みました。それにより、全社における合意形成や理念浸透が以前よりもスムーズに進んだと感じています。
リブランディング開始時に行った実際のワークショップでは、メンバーたち自身が現在のヴィスや仕事に対してどう感じているかを率直に話し合い、現状の問題をどう解決すれば良いか議論しました。
そうしてヴィスメンバーが何者であるかを言語化し、再定義して生まれたのが新しいフィロソフィーです。PURPOSE(存在意義)に、新たにAMBITION(目指すゴール)、VALUES(価値観)を追加し、22項目から15項目に整理したCREDO(約束)を定めました。刷新された「AMBITION」や「VALUES」、「CREDO」に対するメンバーの共感は非常に高く、仕事に対する意義や誇りを再確認できたという声が多く寄せられています。
――生まれ変わったフィロソフィーの中で、特にどのような点が画期的だとお考えですか?
「AMBITION(目指すゴール)」では、ワークデザインによって人々の自己実現を支援し、幸せをふくらませていくという仕事の目的を明確化しました。これにより、人々の幸せに貢献する仕事の意義が以前よりもクリアにつかみやすくなったわけです。以前からヴィスは「はたらく人々を幸せに。」というPURPOSE(存在意義)を掲げていました。その価値観に共感してくれる人を前提として採用しているので、利他主義でお客様に向き合うことに喜びを見出すメンバーが多い。そのため、PURPOSEをどう実現するのかを具体的に言語化しているAMBITIONは非常に共感性が高かったようですね。
――まさにメンバー一丸となって手掛けたリブランディングですね。ちなみに、リブランディングをスタートした当初、メンバーの皆さんの反応はどのようなものでしたか?
これまでやってきたデザイン中心の仕事が今後どうなるのかという不安の声はありました。しかし、「これまでのオフィスデザインをベースとして、クリエイティブに確かな根拠を持って取り組むのが『ワークデザイン』であり、ヴィスという会社の在り方なのだ」というメッセージを丁寧に伝えることで、皆の共感を得ることができたと考えています。
ロゴマークについても、最終的にデザイナーの意見も尊重して決定しました。私たちのワークデザインは、クリエイティブでソリューションするデザイン集団であるからこそ提供できるものだと考えています。そのため、クリエイティブへの誇りをロゴマークで表現することは、特にこだわったポイントです。
――ロゴマークには、ヴィスの価値観が表現されているんですね。
そうですね。フォントやカラーなど、すべてに意味を持たせているので、当社の想いが詰まったロゴマークになったと感じています。例えば、ドットを右にシフトさせている「i」は、リーディングドットという名前をつけています。「i」を人に見立てて、人を中心に先を見据え業界を牽引していく意志を表現することで、デザイン集団としてのアイデンティティを示しました。
ヴィスの価値観をロゴマークというV・I(ビジュアル・アイデンティティ)にデザインしたことは、アウター・インナー双方におけるブランディングに効果的だったと思います。ロゴデザインの初回提案では意見が合わなかったメンバーもいましたが、込められた意味を知った際、全員の合意形成が取れた瞬間となりました。
――リブランディングによるプラスの変化については、どのように実感されていますか?
フィロソフィーを毎日唱和している成果もあり、現在では新しいメンバーも全員フィロソフィーをしっかり記憶していますし、メンバー全員がCREDOを行動基準として仕事に取り組んでいます。自分たちが深くかかわってリブランディングしただけに、エンゲージメントにも良い影響を与えていると感じています。
「はたらく」をデザインする企業として、働く人々の幸せを追求する
――リブランディングを経て、今後の展望についてお聞かせください。
これからのヴィスは、働き方をデザインすることで総合的に企業のブランドを高めるサービスを提供していきます。以前まで主軸となっていたデザイナーズオフィス事業は、企業ブランドの一部であるビジュアル・アイデンティティの構築に貢献するものでした。そこからさらに事業領域を拡大し、企業カルチャーや社員エンゲージメント向上といった、よりコアな部分の構築を提案できる体制を整えていきたいと考えています。
昨今は人的資本経営が重要視され、メンバーに対する投資が企業価値を高める重要な要素となりつつあります。そんな中、メンバーが働きやすいオフィスのデザインをスタート地点として、働き方にいたるまで横断的にサポートできるヴィスのサービスは、多くの企業にとって価値があると信じています。今回、私たちが実行したリブランディングも、社員の幸福促進のための事例としてお客様にご紹介したいですね。
――ワークデザインとしては、具体的にどのようなサービスを実施されるのですか?
はたらく人々のエンゲージメントやカルチャー浸透度、オフィスに対する満足度などを多角的なシミュレーションやサーベイによって可視化し、ロジカルな根拠をもってお客様に伴走できるサービスも提供してまいります。
具体的に進めているのは、データソリューション事業の拡充です。リブランディング前からリリースしているエンゲージメント向上・組織改善サーベイ「ココエル」に加え、データで可視化したワークデザインスコアから働く環境を包括的に分析できる「ワークデザインプラットフォーム」を2023年4月にリリースしました。
とはいえ、事業領域を拡大しつつある現在のヴィスだけでは、ワークデザインに関するソリューションをすべてまかなうことはまだできません。今後は組織改革やメンタル研修を得意とする会社などと連携し、まずはお客様の課題に応じてパートナー企業とおつなぎする課題解決の動線を形成していく予定です。
まとめ
常務時代には現場トップとして、メンバーの心情に寄り添うリーダーシップを発揮していたという金谷さん。お話を伺って、メンバー参加型のリブランディングが成功した理由がよくわかりました。リブランディングで生まれ変わったヴィスの「ワークデザイン」が社内外のはたらく人々をどう変えていくのか、今後にご期待ください。