目次
解放感がありつつプライバシーの確保ができる「オフィスランドスケープ」
オフィスランドスケープとは、壁などの固定された間仕切りではなく、ローパーテーションや家具、植物などでプライバシーを適度に保ったり、導線確保をするデザイン手法のことです。ドイツのコンサルティング会社によって、新たなオフィスデザインのコンセプトとして生み出されました。
デザインのきっかけとなったのは、アメリカで多く取り入れられていたブルペンオフィスです。デスクが同一方向かつ規則的に並べられており、リーダーが部下をマネジメントしやすい配置となっています。
一方、オフィスランドスケープは、機械的なデスクの配置を行いません。部署や仕事の関連性に従ってグルーピングし、自由にレイアウトするのが特徴です。現在はスウェーデンやアメリカを中心に、欧米諸国で広く取り入れられています。
オフィスランドスケープが広く普及した背景として、それまでヨーロッパで一般的だったオフィスデザイン「コリドーオフィス」が多くの問題を抱えていたことが挙げられます。
コリドーオフィスは、小部屋に分けたデザインが特徴です。集中しやすいメリットがある一方で、他チームや部門との連携が取りにくいデメリットがありました。複数の小部屋を設置する必要があり、コストが高くなる点も問題のひとつです。
現在は、連携やコストなどの問題点を解消しつつ、生産性向上につながりやすいオフィスデザインとして、オフィスランドスケープが広まっています。
「コスパの良さ」と「柔軟性」がメリット
オフィスデザインに力を入れたいと思っている一方で、費用の制限に悩まされる担当者は多いのではないでしょうか。オフィスランドスケープを取り入れれば、コストを抑えながら社員が働きやすい環境を実現できます。
オフィスランドスケープのメリットは、コスパの良さと柔軟性の高さです。具体的には、以下に紹介する4つの効果が期待できます。
コスト削減につながる
オフィスランドスケープには、オフィス設置やリニューアル時のコストを抑えられるメリットがあります。ローパーテーションなど、自由に移動できる簡易的な間仕切りを使用するため、設置や撤去のための工事費用がかかりません。
また、空調設備のコスト削減も期待できます。間仕切りされたオフィスでは、場合によって各部屋で独立した空調設備を検討しなくてはなりません。オフィスランドスケープなら、空気の流れを考慮してレイアウトすることで、設置数や費用を最低限に抑えられます。
コミュニケーションが取りやすい
オフィスランドスケープは、間仕切りが少なく社員同士のコミュニケーションが取りやすいメリットもあります。
部門間のつながりを強化しようと上層部が発信しても、高い間仕切りがある環境では、気軽に声をかけにくいものです。仕切りが少ない環境にすることで、自然に他部門の社員とも視線が合いやすくなり、コミュニケーションのきっかけになります。
部門やチームを超えた相手とのコミュニケーションが活発化すれば、新たなアイデアの創出にもつながるでしょう。
レイアウト変更が容易にできる
オフィスランドスケープを採用すれば、各部門における人数の変動やプロジェクト発足、組織変更などに合わせて、比較的簡単にレイアウト変更ができます。
コリドーオフィスのように小部屋に分かれていたり、固定の間仕切りが設置されていたりする場合、レイアウト変更には制限が生じてしまうでしょう。ローパーテーションや植物などの簡易的な間仕切りは移動させやすく、レイアウト変更のときにもそれほど手間がかかりません。高い間仕切りによる制限を考えなくて済みます。
フリーアドレスの導入もしやすい
レイアウトの自由度が高いため、フリーアドレスの導入にも向いています。
フリーアドレスとは、固定席を設けず個々の業務内容に応じて自由に座席を決められる運用方法です。部門を超えたコミュニケーションができるようになったり、仕事内容によって集中しやすい席に移動したりと、業務効率の向上が期待できます。
オフィスランドスケープは、高い間仕切りが少なく、社員の居場所を把握しやすいことから、フリーアドレスも導入しやすくなります。必要な座席数を見直して、オフィス面積の最適化ができれば、コスト削減の効果も期待できるでしょう。
フリーアドレス導入のメリットや注意点は、下記の記事で詳しく解説しています。
フリーアドレスオフィスのルールとは?スムーズな運用に必要なこと
「プライバシーの保護」や「個室ブースの設置」が必要
オフィスランドスケープには複数のメリットがありますが、オープンな空間構成ならではのデメリットもあります。デメリットを軽減させるためには、完全なオープンスペースにするのではなく、一部に高い間仕切りのある部屋を設置したり、座席コーナーを設けたりするなどの工夫が必要です。
オフィスランドスケープのデメリットや課題として、次の2つが挙げられます。
機密性の高い業務には向かない
個人情報を取り扱ったり、経営に関する重要事項を決定するなど、機密性の高い業務には不向きです。ローパーテーションや植物など、簡易的な間仕切りでは音を遮れません。
プライバシーの保護が重視される業務内容の場合は、隣同士のデスクを左右逆行にする左右対向式レイアウトや、すべてのデスクを同じ方向に並べる同向式レイアウトなどを検討することをおすすめします。
作業効率が低下する場合がある
社員の状況や性質によっては、視線や騒音が気になり、業務効率が下がってしまうことがあります。また、コミュニケーションを取りつつ進めていくことで生産性が高まる仕事もあれば、静かな空間で集中して取り組んだ方が効率良く進められる仕事もあるでしょう。
オフィスランドスケープでは、機密性を守るだけではなく、社員の快適性を守るためにも、集中スペースや個室ブースなどの導入が必要です。その際、オフィスランドスケープのメリットである開放感やフロアの統一感を損なわないような配置やデザインを意識することがポイントです。
【企業導入事例】オフィスランドスケープを採用したオフィスデザイン
最後に、オフィスランドスケープを採用している2社の事例を紹介します。同じオフィスランドスケープでも、コンセプトが異なれば個性あふれるデザインに仕上がります。
【株式会社JR東日本商事】働き方を自ら選択し、つながりを生み出すブランディングオフィス
株式会社JR東日本商事のオフィスデザインは、新しいオフィスのあり方を追求しつつ、ブランディングも叶えることをコンセプトとしています。
オフィスを訪れると、6mもの巨大なグリーンウォールが迎えてくれます。室内にも多くのグリーンが配置されており、くつろぎながら働ける環境です。
執務エリアは最小限の間仕切りで構成されており、植物や家具、床や天井のデザインによって緩やかに空間を隔てているのが特徴です。
座席は業務内容や部門ごとの必要性に応じて、フリーアドレスエリアと固定席エリアを設けています。中央には社内会議しやすいスペースを設けたり、業務やイベントにも活用しやすいカフェスペースを作成したりと、コミュニケーションを重視したデザインになっています。
Web会議ブースも設置しており、社員それぞれが自ら働き方を選択できる環境が整えられています。
【株式会社ドミノ・ピザジャパン】家族のようにつながり、コミュニケーションが取れる「FAMIGLIE」オフィス
株式会社ドミノ・ピザジャパンがオフィスデザインのコンセプトに選んだのが、イタリア語で家族を意味する「FAMIGLIE」です。家族が集まるように、社員が自然体で過ごしながら互いの変化や成長を促し、企業文化を継承していける環境をつくりあげています。
執務エリアやコワーキングエリアは、床のデザインや背の低い植物で間仕切りをして、見通しの良い開放的なオフィス空間を演出しています。
ワークスペースは、ソロワークエリア、チームワークエリアをそれぞれ配置して、人数や目的に合わせた座席選びができるよう設計しました。デザインの随所にピザ窯を思わせるブリックタイルや、本社のあるアメリカを彷彿とさせるテイストを取り入れているのも特徴です。
まとめ
オフィスランドスケープは、天井まで届く間仕切りがない分、空間を最大限活用できるオフィスデザインです。ローパーテーションや家具、植物を活用して、いつでも自由にレイアウトできるため、各チームや社員に適した環境を提供できます。
ただしプライバシー確保が困難などの課題点もあります。自社の状況を考慮したうえで、導入を検討しましょう。
ヴィスは、空間づくりにおける知見を用いて、オフィスづくりにとどまらず、企業のニーズに合わせて「はたらく」を包括的に考慮したワークデザインを提供しています。ワークデザイン、オフィスデザイン、オフィス移転・改装・設計についてのお悩みは、お気軽にお問い合わせください。