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ワークエンゲージメントは、社員の仕事に対するポジティブな心理状態のことを指します。組織を活性化させるために重要な要素といわれていますが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
本記事では、ワークエンゲージメントを高めるメリットや方法、併せて覚えておきたい関連用語、ワークエンゲージメントが高い企業での取り組み事例について解説します。
ワークエンゲージメントとは?
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱された概念で、「仕事に対して持続的かつポジティブな感情や心理状態のこと」を指します。
仕事全体を対象としており、特定の対象に対する一時的な感情や心理状況のことではありません。
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
ワークエンゲージメントへの理解を深め、より一層働きがいを高めるために、3つの構成要素をおさえましょう。具体的には、「活力」「熱意」「没頭」があります。
活力
活力とは、仕事をするうえでの高い水準のエネルギーに満ちている状態です。
仕事をする中でストレスを抱えたり、困難にぶつかったりすることもあるでしょう。しかし、十分な活力があれば仕事のストレスを感じにくい状態となり、イキイキと仕事に取り組めます。
さらに、活力を高めることで、どのようなトラブルに巻き込まれても心理的な回復が早まります。トラブルの業務への影響を抑えられるだけでなく、前向きに業務を続けられるため、困難な課題にも積極的に取り組めます。
熱意
熱意とは、自身の仕事に対する強い関心・やりがい・誇りを持っている状態を指します。
仕事への熱意を抱くことで、新商品の開発や働きやすい環境の構築、業務の効率化など、さまざまな課題に対して積極的に取り組めます。さらに、新しいスキルや知識の習得も可能です。
このように、熱意が高まれば、従業員の仕事に対する積極性が高まります。従業員個人の熱意は、結果として組織力や企業としての業績向上にも繋げられます。
没頭
没頭とは、業務に集中して、熱心に取り組める状態を指します。没頭中は、幸福感や時間が早く経過する感覚があるため、仕事にのめり込めます。
仕事の正確性や迅速性を高め、最大限のパフォーマンスを発揮するためには、集中して業務を遂行すること、そして熱心に仕事に取り組む状態を長時間持続させることが必要です。没頭した状態を維持できれば、仕事の効率化も進むため、組織全体の業務改善にもつながるでしょう。
ワークエンゲージメントと併せて理解しておきたい概念
ワークエンゲージメントの意味を理解したところで、密接に関連する概念を解説します。より多角的な視点でワークエンゲージメントを理解しましょう。
バーンアウト
バーンアウトとは、いわゆる燃え尽き症候群のことで、仕事の活動水準が低い状態を指します。
働くことに対する意欲や関心が低く、自信を無くしたネガティブな心理に陥るバーンアウトは、ワークエンゲージメントとは対極的な状態です。たとえば、業務の手を抜いたり、失敗を他者に押し付けたりするなど、ネガティブな行動を引き起こします。
バーンアウトに陥った従業員を放置しておくと、当人だけでなく組織全体や取引先、顧客にもマイナスの影響を与えかねないので、早急に解決に動く必要があります。
ワーカホリズム
ワーカホリズムとは、仕事の活動水準は高い一方で、「働かなければならない」という強迫観念を持っている心理状態のことです。
仕事をしていない時の罪悪感や不安といったネガティブな感情によって仕事に取り組んではいますが、仕事に専念し、業務遂行に励んでいる状態であるため、一定の結果を出せます。ただし、意欲や熱意がないため、仕事に対する継続力がありません。そのため、仕事にやりがいを持てず、時としてトラブルにつながったり、心身に悪影響を与えたりするケースもあります。
ワークエンゲージメントとワーカホリズムの違いは、仕事への態度や認知がポジティブかネガティブかという点です。
リラックス(職務満足感)
リラックスとは、仕事に対してポジティブな感情を抱いているものの、仕事の活動水準が低い状態を指します。前述したワーカホリズムと対極にある心理状態です。
リラックスの状態では、ポジティブな感覚を持って仕事に取り組めているため、業務へのやりがいを感じており、従業員の精神的な負担はありません。しかし、集中力に欠けているため、業務への貢献度が低くなります。
ワークエンゲージメントは仕事に取り組む時の心理状態を表しますが、リラックスは仕事自体に対する心理状態を表すことが一般的です。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱された概念で、「仕事に対して持続的かつポジティブな感情や心理状態のこと」を指します。仕事全体を対象としており、特定の対象に対する一時的な感情や心理状況のことではありません。
まずは、ワークエンゲージメントを高める4つのメリットについて見てみましょう。
生産性が向上する
ワークエンゲージメントを高めると、社員1人ひとりのモチベーションがアップします。たとえば、下記のように仕事に取り組む姿勢がポジティブになります。
・自らのスキルアップに力を入れる社員が増える
・前向きな発言が増える
・企業価値を高めるための提案が増える
このように、社内全体が活性化し、生産性が向上するメリットがあります。
仕事にやりがいを感じてもらえる
仕事に対してやりがいを見出してもらえるのもメリットといえます。仕事におけるモチベーションの源泉はさまざまありますが、給与や労働環境といった外的要因の場合、社員個人ではコントロールできません。そのため、不満につながりやすいという特徴もあります。
一方、仕事自体に楽しさややりがいを感じることができれば、モチベーションを維持しやすくなります。「もっと成長したい」「良い仕事をしたい」という気持ちから、社員1人ひとりのパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。
離職率を抑える
厚生労働省の調査によると、ワークエンゲージメントが高いほど、離職率が低く、定着率が高いことが示されています。同時に、ワークエンゲージの向上によって、仕事におけるストレスや疲労感を軽減できる可能性も指摘されています。
社員1人ひとりの働きがいに着目し、労働環境を整えることで、帰属意識の向上が図れるといえるでしょう。
参考:厚生労働省「労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―」
人材育成がスムーズにできる
前述のとおり、ワークエンゲージメントが向上すると、次のような効果が得られます。
・自身のパフォーマンス向上に関心が髙まる
・組織のコミットメントが高まる
人材育成には、指導者のスキル以外にも受け手のモチベーションや自発性が必要になる場面も多いです。従業員が自身のパフォーマンスや組織へのコミットメントを意識できていれば、育成担当者側としてもスムーズに人材育成に取り組めるでしょう。
また、ポジティブに仕事に取り組んでいる従業員であれば、従業員同士の関係も良好に保ちやすくなります。それぞれの従業員が自発的に周囲へスキルを共有してくれるなど、相乗効果が得られることも考えられます。
ワークエンゲージメントを重視しないことのデメリット
ここまでで、ワークエンゲージメントを高めるメリットについて紹介してきました。それでは、ワークエンゲージメントが低い状態を放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
次に、ワークエンゲージメントが低いことで起こりうるリスクについて紹介します。
モチベーションが低下する
ワークエンゲージメントが低下すると、社員のモチベーションも下がります。
積極的に仕事に取り組む姿勢がみられなくなるため、全体的なパフォーマンスが低下するおそれがあります。業務効率も悪くなり、生産性の悪化へつながってしまうのです。
メンタルヘルスに影響する
ワークエンゲージメントが低い状態が続くと、会社への不満や対人関係のストレスによってメンタルヘルスに影響が出る場合もあります。メンタルヘルスへの影響は、突然意欲を失う「バーンアウト」やネガティブな状態で仕事に打ち込む「ワーカホリズム」に陥ってしまうおそれもあるため注意が必要です。
また、近年問題視されているのが「プレゼンティーズム」という現象です。これは、心の病を抱えながら仕事を続けている状態のことを指します。
プレゼンティーズムについては、こちらの記事でも詳しく解説していますので、ご参照ください。
関連記事:「健康経営オフィスで社内を活性化!3つのメリットを紹介」
メンタルヘルスに悪影響が出ると、休職せざるを得なくなるケースも多いものです。人手不足を招くだけでなく、組織全体の士気が下がることにもつながります。
業務に関するトラブルが増える
仕事に対する意欲が低下すると、仕事の質に大きな影響を与えます。集中力が下がって業務が円滑に進まないだけでなく、人的ミスが増えたり、社内連携がうまくいかないなど、トラブルが増えてしまうおそれもあります。
さらに、ワークエンゲージメントが低く、心に余裕がない状態だと、対人関係に支障をきたすこともあるでしょう。人間関係の悩みは離職する原因として挙げられることも多いため、退職者が増えるなど会社経営に悪影響を及ぼしかねません。
日本のワークエンゲージメントが低いといわれるのはなぜ?
実は、日本のワークエンゲージメントは海外よりも低いといわれています。その理由について、具体的に説明していきましょう。
自己批判的な国民性が影響している
日本人は「自己批判バイアス」が強い傾向にあります。自己批判バイアスとは、自分自身に厳しく接し、否定することをいいます。ポジティブな要素を当たり前に受け入れられず、ネガティブな要素に着目してしまうため、「自分は幸せでない」と感じてしまうことがあります。
また、「相互協調的自己」という傾向もしばしば指摘されます。自分という軸を持っているのではなく、他人や周囲との関係性の中で自分を定義づけることです。日本人は協調性が高いといわれるのもこうした国民性にあります。このことから、自分自身で今の状態を幸せだと肯定できる人は少なく、むしろ周囲に対して「やりがいを持って働いている」ように見せない面があるといわれます。
日本のワークエンゲージメントの数値が低く出ているのは、このような国民性に起因すると考えられるでしょう。
長時間労働の文化によってワーカホリズムに陥りやすい
日本人の長時間労働はよく知られた話ですが、これは日本の我慢を美徳とする文化が根底にあることが考えられます。膨大な仕事量や過密なスケジュールでも文句を言わず働き続けると、前述したワーカホリズムに陥ります。
ワーカホリズムでは、仕事への態度は仕事を休む罪悪感や不安から仕事に依存してしまっているネガティブな心理状態にあるにもかかわらず、活動水準は高く、仕事にまい進しています。ワーカホリズムの状態は長くは続かず、バーンアウトを引き起こし、仕事におけるやりがいの喪失やストレスによる士気の低下、心身の不調などにつながります。
日本の伝統的な長時間の残業や休日出勤によって、労働者はワーカホリズムに陥り、ワークエンゲージメントが低くなっていると考えられるのです。
ワークエンゲージメントの尺度と測定方法
ワークエンゲージメントを高めるためには、まずは組織の現状を測定しなければなりません。ここでは、ワークエンゲージメントの3つの尺度と測定方法を解説します。
UWES(Utrecht Work Engagement Scales/ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)
UWESは、活力・熱意・没頭の尺度を17個の質問形式によりワークエンゲージメントを直接測定する方法です。安定性が高い点が特徴で、ワークエンゲージメントの測定方法の中でもっともメジャーな方法といえます。
なお、通常17個の質問によって測定するところ、9個の質問で測定できる「短縮版UWES」があります。短縮版は、日本人労働者の性質に合わせた簡易な測定方法といえます。
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSは、ワークエンゲージメントと対象の概念にあたるバーンアウトを測定してワークエンゲージメントを導き出す測定方法です。よって、数値が低ければワークエンゲージメントが高いと判断されます。
具体的には、「消耗間(疲労感)」「冷笑的態度(シニシズム)」「職務効力感」といった質問事項を用いて測定する点が特徴です。
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBIも、先述したMBI-GSと同様に、直接測定するわけではなくバーンアウトを測定してワークエンゲージメントを導き出す測定方法です。そのため、数値が低いとワークエンゲージメントが高いと判断されます。
具体的には、「疲弊」「離脱」というネガティブな内容の質問によりワークエンゲージメントを測定する点が特徴です。
ワークエンゲージメントを高める4つの方法
現状を測定できたら、続いてはワークエンゲージメントを向上させる施策が必要になります。ここからは、ワークエンゲージメントの研究をしている慶應義塾大学の島津明人教授が提案する、ワークエンゲージメントを高める方法4つ方法を4つ紹介します。
参加型討議
ワークエンゲージメントを高めるために、社員同士が意見交換をする場を作りましょう。日頃困っていることや悩み、気になっている課題などについて意見を交換し、全員で対策を検討します。
いきなり討議を始めても、スムーズな進行ができない可能性があるため、事前にアンケート調査や共通のチェックリストなどで意見をまとめ、分析しておくことも大切です。また、その場限りの討議で終わらないようにしましょう。
CREWプログラム
CREWとは、「Civility(礼節・丁寧さ)Respect(敬意)and Engagement(エンゲージメント) in the Workplace」の略です。
CREWプログラムは、2005年にアメリカで開発されたプログラムで、敬意をもって人間関係を構築し、働きやすい職場環境を作ることを目的として導入されています。
テーマを用意し、週に1回、もしくは隔週など、実施しやすい頻度と実施しやすい時間帯において短時間で行うことが大切です。一度きりではなく、3ヶ月以上継続して行うのが望ましいとされています。
ジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングは、個人的にやりがいをもって働く方法や、社員同士のコミュニケーションの方法を工夫しながら、モチベーションを高めていく手法のことです。スケジュール管理方法の提案やToDoリストの共有などを実施してもらうとよいでしょう。
社員個人に仕事への取り組み方や他の社員との接し方について検討してもらうことで、やりがいを見つけることを目的としています。
思いやり行動
思いやり行動については、「思いやって行動しよう」という呼びかけではなく、自分が欲しいサポートの内容や具体的なサポートの方法について話し合うことが大切です。
話し合いの中で出た思いやりの行動について実際に職場で実践します。
加えて、2週間ほど経ったところで再度話し合いを行うことがポイントです。実践後に、実際はどうだったか、もっとよくするにはどうしたら良いかなどの話し合いをすることで、職場の雰囲気が改善し、組織全体のエンゲージメントの向上につながります。
ワークエンゲージメントが高い企業での取り組み事例
ワークエンゲージメントが高い企業では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。最後は、ワークエンゲージメントが高い企業で取り組まれている事例を紹介します。
モチベーションアップのための体制づくり
社員のモチベーションアップのためには、組織としてモチベーションが下がりにくい仕組みづくりが重要です。適材適所の人員配置を行うための所属や業務内容の見直しや公正公平な人事評価制度の整備、業務内容・結果へのポジティブなフィードバックなどは、社員のモチベーション維持には欠かせません。
そのほか、成果報酬制度の導入や資格取得・自己啓発への支援など成果や取り組みを評価することで、モチベーションを維持している企業もあります。
働き方の多様化
多様な働き方を認めるということは、社員の多様な生き方を認めることでもあります。多様な働き方ができると、ライフステージの変化によるキャリアプランへの不安が軽減されるため、ワークエンゲージメントの向上・維持に効果的です。
結婚後や出産後も働きやすい環境づくりのために産休・育休を導入する企業も増えてきました。時短勤務やテレワーク、サテライトオフィス勤務など、コロナ禍によって新しくできた働き方もあります。
制度を整えるほか、ワークスペースの見直しもひとつの手です。フリーアドレスやABWなど、社内でより自由な働き方を実現できるような工夫をしていきましょう。
オフィスレイアウトでできる工夫やポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:生産性を上げるオフィスのレイアウトは?2つのポイントをご紹介
良好な人間関係がつくれる職場環境づくり
人間関係の悩みや不安は離職につながる大きな問題です。企業としては、社員同士が良好な人間関係を築くための職場環境の整備に注力しましょう。
ミーティングスペースや休憩スペースの設置など、社員同士がコミュニケーションを取りやすい環境にすることは最も大切です。リフレッシュスペースや社内カフェなどリラックスできる場も必要となります。
たとえば、兼松エレクトロニクス株式会社 / ケー・イー・エルテクニカルサービス株式会社の事例を見てみましょう。
ここは2社が入居するオフィスですが、会社を超えたコミュニケーションが生まれるオフィスとして設計されました。
オフィス設計とは、まずどこに何を配置するかのゾーニングから始まり、ワークスペースの席配置の決定やテーブルの大きさなどを細かく計画することをいいます。社員のモチベーションを高め、最大のパフォーマンスを発揮してもらうためにも、ワークエンゲージメントを高めるオフィス設計が必要です。
こちらのオフィスではワークスペースのいたるところにミーティングスペースがあり、いつでも気軽に会議を開けるようになっています。社員のモチベーションを高めるオフィスデザインならヴィスまでご相談ください。働きやすいオフィス設計に特化し、物件の選定から移転のコンサルティング、新オフィスのデザインまで細かく対応可能です。
まとめ
今回は、ワークエンゲージメントを高めるための方法やポイントについて紹介しました。ワークエンゲージメントを高めるには、社内の人間関係やコミュニケーションのとり方などが大切ですが、それ以外にもオフィス設計も欠かせません。
コミュニケーションが生まれやすく、ワークエンゲージメントを高めるオフィス設計ならぜひヴィスまでご相談ください。社員のモチベーションを高めるオフィスデザインをご提案いたします。
ヴィスは、空間づくりにおける知見を用いて、オフィスづくりにとどまらず、企業のニーズに合わせて「はたらく」を包括的に考慮したワークデザインを提供しています。ワークデザイン、オフィスデザイン、オフィス移転・改装・設計についてのお悩みは、お気軽にお問い合わせください。