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「働きやすい職場づくり」は、物理的な環境整備と、コミュニケーションや制度面の設計を両輪で進めることで初めて効果が最大化します。たとえば、自然要素(植栽)を計画的に取り入れるバイオフィリックデザインは、ウェルビーイングや集中力の向上に寄与する一方で、空調や照度などの前提条件を踏まえた運用設計が欠かせません。また、レイアウト・音環境・休憩スペース・評価制度までを横断的に見直すことで、生産性や定着率に波及効果が生まれます。本記事では、最新トレンドと具体事例を踏まえながら、ハイブリッドワーク時代における“働きやすさ”の要件を設計・運用・評価の観点で体系的に解説します。
働きやすい職場づくりの全体像
なぜ「働きやすい職場」が経営に効くのか
働きやすい職場は、単なる福利厚生の充実ではなく、企業の競争力を左右する重要な経営課題です。生産性の向上、離職率の低下、採用力の強化、そして従業員エンゲージメントの向上は、すべて職場環境の質と密接に関係しています。心理的安全性が担保された環境では、社員が安心して意見を出し合い、イノベーションが生まれやすくなります。逆に、コミュニケーション不足や物理的な不便さが残る職場では、ストレスや不満が蓄積し、パフォーマンス低下や人材流出につながります。

4レイヤーで捉える職場の環境
働きやすい職場を設計する際は、以下の4つのレイヤーを総合的に考える必要があります。
- 物理環境:オフィスレイアウト、家具、照明、音環境など。
- 制度・ルール:勤務制度、評価制度、休暇制度など。
- 技術(DX):コミュニケーションツール、座席管理システム、ナレッジ共有基盤。
- 文化・コミュニケーション:心理的安全性、フィードバック文化、社内イベント。
成功事例に共通する基本原則
成功している企業事例には、いくつかの共通点があります。
- 目的の明確化:単なる流行ではなく、業務課題に基づいた設計。
- ユーザー参加設計:社員の声を反映し、利用実態に即した改善。
- 段階導入:パイロット運用で課題を洗い出し、全社展開へ。
- 効果指標設定:エンゲージメントスコアやオフィス利用率など、定量評価を実施。
こうした原則を押さえることで、施策の定着率が高まり、投資対効果も明確になります。
労働環境改善の実践:物理的ワークプレイス編
レイアウト最適化(ABW・フリーアドレス)
近年、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)やフリーアドレスの導入は、働きやすいオフィスづくりの代表的な施策となっています。業務内容に応じて「集中」「協働」「休憩」などのゾーンを設けることで、社員は最適な環境を選択でき、生産性が向上します。フリーアドレスは、固定席をなくすことでスペース効率を高めるだけでなく、偶発的なコミュニケーションを促進する効果もあります。音環境・照明・空調の改善
物理的な快適性は、集中力やストレスレベルに直結します。オープンスペースでは、音の反響を抑える吸音パネルやカーペットを活用し、会議室には防音性能を高める工夫が必要です。照明は、自然光を取り入れつつ、タスクに応じた色温度を調整できる設計が理想的です。さらに、空調は温度だけでなく湿度や換気も考慮し、季節や人数変動に対応できる柔軟性を持たせることが重要です。
参考記事:オフィスにおける防音対策の重要性・対策方法をわかりやすく解説
ハイブリッドワークを前提にした設計
出社とテレワークを組み合わせるハイブリッドワークでは、オフィスの役割が「コミュニケーションの場」へとシフトします。オンライン会議に対応した防音ブースや、来客対応と社内打ち合わせを両立できる会議室設計が求められます。また、座席予約システムや利用率データを活用し、スペースの最適化を図ることも重要です。
参考記事:ハイブリッドワークで柔軟な働き方へ|成功させる5つのポイント
働きやすいオフィスの家具・ICT
家具は、可動性と快適性を兼ね備えたものを選びましょう。例えば、簡単に移動できるテーブルや、長時間座っても疲れにくいチェアは必須です。ICT面では、ナレッジ共有ディスプレイやワイヤレスプレゼンテーションシステムを導入することで、会議の効率が大幅に向上します。こうした要素は、単なる設備投資ではなく、コミュニケーションの質を高める戦略的な選択です。
制度・ルールの整備:生産性と公正さの両立
労働時間・柔軟な勤務制度
働きやすい職場を実現するためには、物理的な環境だけでなく、勤務制度の柔軟性が不可欠です。フレックスタイムや在宅勤務、サテライトオフィスの活用は、社員のライフスタイルに合わせた働き方を可能にします。特にハイブリッドワークの導入は、通勤負担を軽減し、集中時間を確保する効果があります。一方で、制度導入後の運用ルールや評価基準を明確にしないと、逆に不公平感を生むリスクがあります。
評価・目標設定・1on1
柔軟な働き方を支えるためには、評価制度の見直しが欠かせません。成果だけでなく、プロセスやチーム貢献を評価する仕組みを整えることで、心理的安全性が高まります。さらに、定期的な1on1ミーティングを通じて、上司と部下のコミュニケーションを強化することが重要です。こうした取り組みは、エンゲージメント向上や離職率低下に直結します。

ウェルビーイングとメンタルヘルス
職場環境改善には、社員の心身の健康を守る仕組みも含まれます。相談窓口の設置や、メンタルヘルス研修、リファラル制度などを導入することで、早期対応が可能になります。また、休暇制度の柔軟化やリフレッシュ休暇の付与は、長期的なパフォーマンス維持に効果的です。
安全衛生・法令順守の基盤
最後に、労働安全衛生やハラスメント防止など、法令順守の基盤整備は必須です。これらは「働きやすさ」の前提条件であり、企業の信頼性を担保する要素です。厚生労働省のガイドラインや労働安全衛生調査を参考に、定期的なリスク評価と改善を行いましょう。
職場コミュニケーションを強くする:社内コミュニケーション成功事例の骨子
目的別コミュニケーション設計
コミュニケーションは「量」だけでなく「質」が重要です。業務連携、知識共有、雑談や関係構築といった目的ごとに設計を分けることで、情報の流れがスムーズになります。例えば、業務連携にはプロジェクト管理ツール、雑談にはオンラインチャットやオフィス内のカジュアルスペースが効果的です。目的を明確にすることで、無駄な会議や情報過多を防ぎ、社員のストレスを軽減できます。

デジタル×リアルのハイブリッド運用
ハイブリッドワーク時代には、デジタルとリアルの両方を活用する仕組みが不可欠です。チャットや社内SNSは情報共有を迅速化し、ナレッジ基盤は過去の情報を検索しやすくします。一方で、リアルな場での偶発的な会話や社内イベントは、信頼関係を築くうえで欠かせません。こうした施策を組み合わせることで、孤立感を防ぎ、心理的安全性を高めることができます。
心理的安全性を育む場づくり
心理的安全性は、コミュニケーションの質を左右する重要な要素です。失敗を共有できる文化や、フィードバックを歓迎する風土を醸成することで、社員は安心して意見を出せるようになります。リーダーが率先してオープンな姿勢を示すことも不可欠です。こうした取り組みは、イノベーションやチームの結束力を高める効果があります。
成果を測るKPIと改善の回し方
コミュニケーション施策の効果は、定量的に測定することで改善が進みます。エンゲージメントスコア、離職率、プロジェクトの進行速度、会議時間の短縮などが代表的な指標です。定期的なサーベイやデータ分析を行い、改善サイクルを回すことで、施策の定着率が高まります。
ヴィスでは社員サーベイやオフィス稼働率を分析するサーベイツール「WORK DESIGN PLATFORM」を提供しています。
実在企業の「働きやすい職場づくり事例」
オフィス改善が生産性に効いた事例
あるIT企業では、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を導入し、集中・協働・休憩のゾーンを明確に分けるレイアウトを採用しました。結果、社員の集中時間が平均で15%増加し、会議室の利用効率も改善。さらに、偶発的なコミュニケーションが増え、プロジェクトの意思決定スピードが向上しました。
制度・評価の見直しで定着率が改善した事例
製造業の大手企業では、柔軟な勤務制度と評価制度の刷新を同時に実施しました。フレックスタイムと在宅勤務を導入し、評価基準を成果+プロセス型に変更。これにより、社員の満足度が向上し、離職率が前年比で20%減少しました。
社内コミュニケーション施策の成功事例
あるスタートアップでは、社内SNSとナレッジ共有プラットフォームを導入し、情報共有のスピードを大幅に改善しました。さらに、月1回の「オープンミーティング」を開催し、経営層と社員が直接対話する場を設けたことで、心理的安全性が高まり、エンゲージメントスコアが15ポイント上昇しました。
ハイブリッドワーク導入の副作用を克服した事例
ハイブリッドワーク導入後、コミュニケーション不足に悩んでいた企業は、オフィスに「コラボレーションエリア」を新設し、オンライン会議用の防音ブースを増設しました。さらに、座席予約システムを導入し、出社時の混乱を防止。結果、社員のオフィス利用率が安定し、チーム間の連携が改善しました。
こうした事例の詳細や最新トレンドをさらに知りたい方は、以下の記事もおすすめです:
施策の進め方:ロードマップと失敗しないコツ
現状診断:課題の見極め
働きやすい職場づくりは、まず現状把握から始まります。社員アンケートやエンゲージメントサーベイを実施し、物理環境・制度・コミュニケーションの課題を定量的に把握しましょう。加えて、業務観察やヒアリングを行うことで、数字だけでは見えない不満や改善ポイントを抽出できます。
施策設計:優先順位とスコープ設定
課題が明確になったら、改善施策の優先順位を決めます。すべてを一度に変えるのではなく、インパクトが大きく、実現可能性の高い施策から着手することが重要です。KPI(例:エンゲージメントスコア、離職率、オフィス利用率)を設定し、ステークホルダーと合意形成を図りましょう。
パイロット導入:小さく試して広げる
いきなり全社導入するのではなく、パイロットプロジェクトで試験的に運用し、効果を検証します。例えば、フリーアドレスを一部部署で導入し、利用率や満足度を測定することで、全社展開時のリスクを低減できます。
定着化:運用・評価・再設計
施策は導入して終わりではありません。定期的なレビューと改善を繰り返し、制度や環境をアップデートすることが必要です。評価指標をもとに、改善点を洗い出し、次のアクションにつなげることで、働きやすさは持続的に向上します。
【自社事例】働きやすい職場づくりの実践
カバヤ食品株式会社(東京都港区)

社員が自然と出社したくなる環境を目指したプロジェクト。生産性とエンゲージメントの向上を目的にABW を取り入れたレイアウトを採用し、快適に働け、持続的成長を支えるオフィスを設計。壁を必要最小限とし、段差による高低差を設けることで、ひとつながりの広がりの中に、多様なシーンを共存させています。オフィスの中心には大人数で集まれる場を設け、キッチンやカウンタースペースを組み合わせることで、日常の中での交流やイベントにも活用できる仕掛けとしました。
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伊藤忠インタラクティブ株式会社(東京都港区)

コンセプトは 『Enrich your creativity』。フリーアドレス化にともない、オフィスはオープンスペース・ワークスペース・クワイエットスペースの3つのエリアで構成。それぞれに多様な働き方に対応した選択性のある席を設けました。ワークスペースとクワイエットスペースは収納・クローク・打ち合わせスペースを内包する機能的な仕切りで緩やかにゾーニングし、適度な繋がりを持たせました。
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株式会社アジャイルウェア(大阪府大阪市)

在宅勤務がメインとなり、コミュニケーションが希薄になったこともあり移転を決意。物件の選定からこだわり、西日本で初めてWELL認証を取得したビルに移転を決めました。オフィスを大きく回遊できる動線をつくり、動線上でさまざまなシーンが生まれるように計画。回遊動線の中は、フレキシブルに働けるよう可動性のある家具をレイアウト。オフィス全体を通して多目的な使い方ができるよう意識しました。
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本オフィスは、第38回日経ニューオフィス賞 近畿ニューオフィス奨励賞を受賞しました。
株式会社タートル(愛知県春日井市)

元々4フロアに分散していた部署を3F・4Fの2フロアに集約することで、コロナ禍以降課題となっていた部署間の不十分なコミュニケーションと閉塞感を解消。ラウンジスペースは公園とカフェから着想を得て、人工芝エリアやファミレスブース、カフェカウンターを採用し、柔軟な意見交換を促すことができる開放的で明るい空間にしました。フロアをつなぐ階段は各階で塗装色を変え、移動時もワクワクできるように工夫しています。
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まとめ
働きやすい職場づくりは、単なるオフィスの改装や制度導入にとどまらず、物理環境・制度・テクノロジー・文化の4つのレイヤーを総合的に改善することが鍵です。ABWやフリーアドレスによるレイアウト最適化、柔軟な勤務制度、心理的安全性を高めるコミュニケーション施策、そしてデジタルツールの活用は、相互に補完しながら効果を発揮します。
これらを押さえることで、働きやすさは一過性の取り組みではなく、企業文化として定着します。
働きやすい職場づくりを検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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