目次
テレワークが浸透したことで、オフィスは「毎日当たり前に行く場所」から、「行く意味を感じられる場所」へと役割が変化しています。一方で、近年は出社回帰の動きも進んでおり、日本生産性本部の調査では、2025年1月時点のテレワーク実施率が14.6%となり、調査開始以来の過去最低を更新したと公表されています。
こうした状況を受けて、フル出社や完全出社への移行を検討する企業も見られるようになっています。しかし、テレワークに慣れた社員にとって、出社日数が増えることは、通勤負担や時間の制約、集中しづらさといった不満につながる可能性もあります。単に制度として完全出社に戻すだけでは、出社率は上がっても、社員のモチベーションや納得感が高まるとは限りません。
そこで重要になるのが、オフィスデザインの見直しです。これからのオフィスには、対面でのコミュニケーション、チームの一体感、集中しやすい環境、リフレッシュできる場など、テレワークでは得にくい価値を明確にすることが求められます。
本記事では、完全出社に戻す前に考えたいオフィスデザインのポイントや、社員が自然と足を運びたくなる「行きたくなるオフィス」の必要性について解説します。出社率の向上や社員のモチベーション維持に課題を感じている総務・人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
この記事のまとめ
【この記事の結論】
完全出社を円滑に進めるには、出社方針を見直す前に、社員が出社する必要性を感じられるオフィスデザインを整えることが重要です。なお、完全出社や出社方針の変更を行う際は、就業規則や在宅勤務規程、雇用契約の内容を確認し、必要に応じて社員への説明や社内手続きを行うことが大切です。
【3つの要点】
- テレワーク後の完全出社では、社員の納得感とモチベーションへの配慮が欠かせません。
- オフィスは作業場所ではなく、交流・集中・企業文化を体験する場として再設計する必要があります。
- 行きたくなるオフィスには、交流スペース、集中環境、リフレッシュ空間、運用ルールの一体設計が有効です。
【この記事で解決できる悩み】
完全出社に戻す際、出社率や社員のモチベーションを高めるために、どのようなオフィスデザインを考えるべきかが分かります。
1. フル出社・完全出社が再び注目される背景

1.1. テレワークの定着と出社回帰の流れ
コロナ禍をきっかけに広がったテレワークは、多くの企業にとって働き方を見直す大きな転機となりました。通勤時間の削減や柔軟な働き方の実現など、テレワークには多くのメリットがあります。一方で、社員同士の関係性づくりや若手育成、偶発的なコミュニケーションの不足といった課題も見えてきました。
実際に、日本生産性本部の第16回「働く人の意識調査」では、2025年1月時点のテレワーク実施率が14.6%となり、調査開始以来の過去最低を更新したと公表されています。前回の2024年7月調査では16.3%だったため、出社回帰の流れが続いていることがうかがえます。(出典:公益財団法人日本生産性本部「第16回働く人の意識調査」:https://www.jpc-net.jp/research/detail/007214.html)
ただし、テレワークが完全になくなったわけではありません。国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査では、テレワークはコロナ禍からの揺り戻しがあるものの、全国平均ではコロナ禍以前より高い水準にあり、週1〜4日のテレワークと出社を組み合わせるハイブリッドワークも定着傾向にあるとされています。
つまり、現在のオフィスづくりでは、「テレワークか出社か」という二択ではなく、自社の事業や組織にとって、どのような働き方が最適なのかを考えることが重要です。フル出社や完全出社を選ぶ場合でも、コロナ前のオフィスにそのまま戻すのではなく、働き方の変化を踏まえたオフィスデザインが求められます。
1.2. 企業がフル出社を検討する理由
企業がフル出社や完全出社を検討する背景には、対面でのコミュニケーションの価値が再認識されていることがあります。オンライン会議やチャットは便利ですが、相手の表情や空気感、ちょっとした違和感までは伝わりにくい場合があります。特に、複雑な議論や新しいアイデアを生み出す場面、部門を超えた合意形成が必要な場面では、同じ空間で顔を合わせることに大きな意味があります。
また、若手社員の育成やオンボーディングにおいても、オフィスは重要な役割を担います。上司や先輩の仕事の進め方を近くで見たり、ちょっとした疑問をその場で相談したりする経験は、オンラインだけでは得にくいものです。組織の価値観や社風も、日々の会話や空気感を通じて自然に伝わる部分があります。
このように、完全出社は単なる「管理の強化」ではなく、組織の一体感や人材育成、コミュニケーションの質を高めるための選択肢として捉えることができます。ただし、その効果を発揮するには、社員が集まる意味を感じられる空間が必要です。出社してもオンライン会議ばかり、周囲が騒がしく集中できない、休憩する場所がないといった状態では、出社の必要性は伝わりません。
1.3. フル出社は「戻す」だけではうまくいかない
完全出社を検討する際に注意したいのは、「以前の働き方に戻す」という発想だけで進めないことです。テレワークを経験した社員は、自宅で集中できる時間や、生活との両立のしやすさを実感しています。そのため、会社が一方的にフル出社へ戻そうとすると、通勤負担や自由度の低下に対する不満が生まれやすくなります。
大切なのは、社員に対して「なぜ出社するのか」「オフィスで働くことで何が得られるのか」を明確に示すことです。その答えを制度説明だけで伝えるのではなく、オフィスデザインそのものに反映させる必要があります。たとえば、偶発的な会話が生まれるラウンジ、集中して作業できるブース、チームで議論しやすいコラボレーションエリアなどが整っていれば、社員は出社する価値を実感しやすくなります。
働きやすい職場づくりは、オフィスのレイアウトだけで完結するものではなく、制度やコミュニケーション、運用ルールと組み合わせて考えることが大切です。
参考記事:働きやすい職場づくり事例大全:労働環境改善から社内コミュニケーション成功事例まで徹底解説
2. フル出社で社員が感じやすい課題

2.1. 通勤負担や時間の制約によるモチベーション低下
完全出社やフル出社に戻す際、社員が最初に負担を感じやすいのが通勤時間です。テレワークでは、通勤にかかっていた時間を家事や育児、自己学習、休息などに充てられた人も多く、生活全体のリズムが変化しました。そのため、出社日数が増えることで「自由に使える時間が減った」「満員電車で疲れる」「仕事以外の生活との両立が難しくなった」と感じる社員も出てきます。
国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査でも、週1日以上テレワークしている人は、テレワークをするようになってから生活や趣味を重視する傾向があると示されています。つまり、テレワークは単なる勤務場所の変更ではなく、社員の生活設計にも影響している働き方です。
そのため、完全出社に戻す場合は、社員が感じる負担を「わがまま」と捉えるのではなく、働き方の変化によって生まれた自然な反応として受け止めることが大切です。通勤負担を上回るだけの価値をオフィスで提供できなければ、出社率は高まっても、モチベーションやエンゲージメントは下がってしまう可能性があります。
オフィスデザインの視点では、社員が「せっかく出社するなら、この場所で働きたい」と感じられる環境をつくることが重要です。快適な執務環境、気分転換できるリフレッシュスペース、チームで顔を合わせる意味を感じられる交流空間などが整っていることで、出社への心理的なハードルを下げやすくなります。
2.2. テレワークより集中しにくいと感じる環境
テレワークに慣れた社員の中には、自宅の方が集中しやすいと感じる人もいます。オフィスでは、電話の音、周囲の会話、急な相談、視線、移動音など、集中を妨げる要素が多くなりがちです。特に、資料作成や企画立案、設計、分析など、深く考える業務が多い職種では、周囲の音や人の動きがストレスになることもあります。
また、完全出社になったとしても、取引先や他拠点とのWeb会議がなくなるわけではありません。むしろ全員がオフィスに集まることで、Web会議ブースや会議室が不足し、執務席でオンライン会議をせざるを得ない場面が増える可能性もあります。その結果、話し声が周囲の集中を妨げたり、機密性の高い会話がしづらくなったりするなど、新たな課題が生まれます。
こうした課題を防ぐには、オフィスの中に複数の働き方を受け止める場所を用意する必要があります。集中ブース、半個室席、Web会議ブース、オープンミーティングスペース、静かな執務エリアなどを目的別に設けることで、社員は業務内容に応じて働く場所を選びやすくなります。
仕事内容に合わせて場所を選ぶ考え方は、ABWとも関連します。ABWは、従業員が業務内容に応じて働く場所を選択できる働き方で、オフィス内外の多様な場所を活用する点に特徴があります。完全出社を前提にする場合でも、オフィス内に多様な選択肢を設けることで、ABWの考え方を取り入れた柔軟な働き方を実現できます。
参考記事:ABWで働き方改革!フリーアドレスとの違いや導入事例も紹介
2.3. 出社する必要性が伝わらないことによる納得感の不足
完全出社を進めるうえで見落とされやすいのが、社員の納得感です。会社としては、コミュニケーションの活性化や組織力の向上を目的に出社を求めていても、社員がその必要性を実感できなければ、「家でもできる仕事をわざわざ会社でしている」と感じてしまいます。
たとえば、出社しても一日中オンライン会議に参加しているだけだったり、隣に座っている人ともチャットでやり取りしていたりすると、オフィスに来る意味は薄れてしまいます。また、チームで集まる日が決まっていない、相談しやすい場所がない、部署を超えた交流が生まれないといった状態では、完全出社にしても対面の価値を十分に活かせません。
大切なのは、出社する必要性を空間と運用の両面で設計することです。チームで議論する場所、偶発的な会話が生まれる動線、上司や先輩に相談しやすい席配置、社内イベントにも使えるフリースペースなどがあることで、社員は「オフィスだからこそできること」を実感しやすくなります。
特に、雑談や偶然の会話のようなインフォーマルコミュニケーションは、信頼関係の構築や新しいアイデアの創出、メンタルケアにもつながる重要な要素です。
参考記事:インフォーマルコミュニケーションとは?会話を増やすオフィスのポイント
完全出社は、制度だけで成立するものではありません。社員が納得して出社し、前向きに働くためには、オフィスそのものが出社する理由を示している必要があります。オフィスデザインは、その理由を目に見える形にするための重要な手段といえるでしょう。
3. フル出社を支えるオフィスデザインの考え方

3.1. オフィスを「作業する場所」から「集まる価値がある場所」へ変える
完全出社やフル出社を前提にする場合、オフィスを単なる作業場所として設計してしまうと、社員にとって出社する意味が見えにくくなります。テレワークでも資料作成やメール対応、オンライン会議などは行えるため、オフィスには「自宅では得にくい価値」を明確に持たせる必要があります。
その価値のひとつが、人と人が集まることで生まれる情報共有や相互理解です。顔を合わせることで、会議前後のちょっとした会話や、表情から読み取れる違和感、偶然の相談が生まれます。こうしたやり取りは、オンラインでも一部代替できますが、自然発生的なコミュニケーションとしては、オフィスの方が生まれやすいと考えられます。
そのため、これからのオフィスデザインでは、デスクの数や会議室の数だけでなく、「どこで人が出会うのか」「どのような会話を生みたいのか」「どの場面でチームの一体感を感じられるのか」を考えることが重要です。たとえば、エントランスから執務エリアまでの動線上にカフェスペースを設けたり、部署を越えて使えるオープンミーティングエリアを配置したりすることで、自然な接点が生まれやすくなります。
参考記事:オフィスのコミュニケーションが生まれる仕組みとは?働く環境のトレンドを紹介
3.2. コミュニケーションと集中を両立するゾーニング
完全出社では、多くの社員が同じ時間帯にオフィスへ集まります。そのため、コミュニケーションを活性化したいという目的だけでオープンな空間を増やしすぎると、集中したい社員にとっては働きにくい環境になる可能性があります。反対に、集中席や個室を重視しすぎると、せっかく出社しても会話が生まれにくくなります。
重要なのは、コミュニケーションと集中を対立するものとして捉えるのではなく、業務内容に応じて切り替えられるようにすることです。チームで話し合う場、短時間で相談できる場、静かに考える場、Web会議を行う場、休憩する場を分けて設計することで、社員はその時々の業務に合った場所を選びやすくなります。
たとえば、執務エリアの近くに短時間の相談に使えるハイテーブルを置くと、席まで戻らなくても簡単な確認ができます。一方で、資料作成や思考を深める作業には、周囲の音や視線を抑えた集中ブースが有効です。Web会議が多い部署には、会議室とは別に1人用ブースや少人数用の半個室を用意すると、会議室不足や音漏れの課題を軽減できます。
フル出社では、全員が同じ空間にいるからこそ、場所ごとの役割を明確にすることが大切です。空間の役割が曖昧なままだと、打ち合わせをしたい人と集中したい人が同じエリアに混在し、互いにストレスを感じてしまいます。ゾーニングは、出社率が高いオフィスほど慎重に設計すべきポイントです。
3.3. モチベーションを高める快適性・デザイン性・企業らしさ
社員が行きたくなるオフィスをつくるうえでは、機能性だけでなく、快適性やデザイン性も欠かせません。オフィスの明るさ、空調、音環境、家具の使いやすさ、植栽や素材感などは、日々の働きやすさやモチベーションに影響します。特に完全出社では、社員が長い時間をオフィスで過ごすため、細かな不快感が積み重なると、出社に対する印象も悪くなってしまいます。
快適なオフィスデザインとは、単におしゃれな空間をつくることではありません。集中したい時に静かな場所があること、リラックスしたい時に気分転換できる場所があること、チームで話したい時に自然と集まれる場所があることなど、社員の行動や感情に寄り添った設計が重要です。
また、企業らしさを空間に反映することも、モチベーション向上につながります。コーポレートカラーやブランドメッセージ、事業内容を表す素材やグラフィック、自社の歴史や価値観を感じられるエントランスなどは、社員の帰属意識を高める要素になります。社員が「この会社で働いている」と実感できる空間は、完全出社におけるオフィスの価値を高めます。
参考記事:【2025年】働きやすい最新オフィスデザイン・レイアウト事例17選【2025最新トレンドPDF進呈】
3.4. 出社率を高めるために必要な運用ルールとの一体設計
オフィスデザインを見直しても、使い方のルールが整っていなければ、期待した効果は得られにくくなります。たとえば、集中ブースを設けても長時間占有されてしまう、リフレッシュスペースが荷物置き場になってしまう、フリーアドレスを導入しても席が固定化してしまうといったことは、運用ルールが曖昧な場合に起こりやすい課題です。
完全出社やフル出社では、出社人数が多くなる分、座席数や会議室数、共有スペースの使い方を丁寧に設計する必要があります。席数が足りなければ不満につながり、逆に席数が多すぎると交流や偶発的な出会いが生まれにくくなる場合もあります。出社率を想定し、部署ごとの働き方や業務特性を踏まえて、必要な席数やスペース配分を考えることが大切です。
特にフリーアドレスやグループアドレスを採用する場合は、座席設定率、ロッカーの配置、座席予約の有無、私物管理、清掃ルールなどを事前に整理しておく必要があります。
参考記事:フリーアドレスの課題「席が足りない」を解決!適正な座席数の設定とは
また、運用ルールは総務や人事だけで決めるのではなく、実際にオフィスを使う社員の声を取り入れることが重要です。導入前に説明会を行い、導入後もアンケートや利用状況の確認を続けることで、空間の使われ方に合わせて改善しやすくなります。
完全出社を成功させるには、オフィスデザインと運用ルールを別々に考えるのではなく、一体で設計することが欠かせません。空間が変わり、使い方が変わり、社員の行動が変わることで、出社する価値が少しずつ定着していきます。
4. 行きたくなるオフィスをつくる具体的なポイント

4.1. 偶発的な会話が生まれる交流スペースを設ける
完全出社やフル出社の価値を高めるうえで、まず考えたいのが「人が自然に集まる場所」をつくることです。社員が同じオフィスにいても、席と会議室を往復するだけでは、対面ならではのコミュニケーションは生まれにくくなります。出社する必要性を感じてもらうには、業務上の会話だけでなく、ちょっとした相談や雑談、部署を超えた偶発的な出会いが起こる仕掛けが必要です。
たとえば、カフェスペースやラウンジ、オープンミーティングエリア、ハイテーブル、パントリーなどは、社員が自然に立ち寄りやすい場所になります。ポイントは、単に休憩用のスペースを設けるのではなく、日常の動線上に配置することです。コピー機やロッカー、給茶スペースの近くなど、人が集まりやすい場所に交流スペースを設けることで、短い会話や情報共有が生まれやすくなります。
また、交流スペースは社内イベントや勉強会、全社会議、来客対応などにも活用できます。フル出社を前提にする場合、オフィスは日常業務だけでなく、組織の一体感を高める場としても機能する必要があります。可動式の家具やモニター、音響設備を取り入れれば、普段はカジュアルな打ち合わせに使い、必要に応じてイベントスペースへ転用することも可能です。
こうした場づくりは、出社を「義務」ではなく「人とつながる機会」として捉えてもらうために有効です。社員が誰かと話したい、相談したい、新しい情報を得たいと思ったときに、自然と足を運べる場所があることが、行きたくなるオフィスの土台になります。
4.2. 集中作業やWeb会議に対応できる環境を整える
行きたくなるオフィスをつくるためには、コミュニケーションの場だけでなく、集中できる環境も欠かせません。完全出社では多くの社員が同じ空間で働くため、音や視線、人の移動が気になりやすくなります。集中作業に適した場所がないと、社員は「自宅の方が仕事が進む」と感じ、出社に対する不満を抱きやすくなります。
特に近年は、出社していてもWeb会議を行う場面が増えています。他拠点や取引先、在宅勤務中のメンバーとオンラインでつながる機会があるため、完全出社に戻したとしてもWeb会議環境の整備は必要です。会議室だけに頼ると予約が取りづらくなり、執務席で会議を行う社員が増えて、周囲の集中を妨げる原因になります。
そのため、オフィス内には1人用のWeb会議ブース、短時間利用の集中席、静かに作業できるエリア、少人数で使える半個室スペースなどをバランスよく配置することが大切です。集中エリアでは、周囲の会話が入りにくい配置や吸音素材の活用、照明の明るさ、椅子の座り心地にも配慮すると、長時間の作業でもストレスを感じにくくなります。
また、フリーアドレスを取り入れる場合は、席を自由に選べるだけでなく、業務に合わせて最適な場所を選べる状態にすることが重要です。フリーアドレスは、ルールやゾーニングと組み合わせることで、社員の主体的な働き方を支える仕組みとして活用できます。
参考記事:フリーアドレスとは?メリット・デメリットから失敗を防ぐ方法、事例まで紹介
完全出社だからといって、全員が同じ席で同じように働く必要はありません。むしろ、出社人数が多いからこそ、集中、会話、Web会議、リフレッシュといった行動に応じて場所を選べるオフィスデザインが求められます。
4.3. リフレッシュできる空間で出社の心理的負担を軽減する
フル出社では、社員が一日の大半をオフィスで過ごすことになります。そのため、働く場所だけでなく、休憩や気分転換の質も重要です。リフレッシュできる空間がないオフィスでは、業務の合間に気持ちを切り替えにくく、疲労やストレスが蓄積しやすくなります。
リフレッシュスペースには、ソファ席、カフェカウンター、パントリー、植栽、自然光を感じられる窓際席など、心身を落ち着かせる要素を取り入れると効果的です。たとえば、ランチや休憩に使える場所があるだけでなく、少し場所を変えて作業できるカジュアルな席を用意すれば、社員は気分に合わせて働き方を切り替えやすくなります。
また、リフレッシュスペースは、社員同士の偶発的な会話が生まれる場にもなります。業務中の会議では話しにくいことも、休憩中の雑談から共有される場合があります。こうした何気ない会話が、チームの雰囲気づくりや情報共有、アイデア創出につながることも少なくありません。
重要なのは、リフレッシュスペースを「余った場所」につくるのではなく、オフィス全体の中で明確な役割を持たせることです。執務エリアから遠すぎると使われにくくなり、近すぎると話し声が集中を妨げる可能性があります。働く場所との距離感、音の配慮、利用目的を踏まえて配置することで、社員にとって使いやすい空間になります。
出社への心理的負担を軽減するには、社員が「ここで少し気分転換できる」「同僚と自然に話せる」「自宅にはない快適さがある」と感じられることが大切です。リフレッシュできる空間は、行きたくなるオフィスを実現するうえで、単なる福利厚生ではなく、働く体験を高める重要な要素といえます。
4.4. 社員の声を取り入れて継続的に改善する
行きたくなるオフィスは、一度つくって終わりではありません。働き方や組織体制、社員数、業務内容は変化していくため、オフィスも継続的に見直す必要があります。特に完全出社やフル出社に移行するタイミングでは、社員がどのような不安や不満を抱いているのか、どのような場所を必要としているのかを把握することが重要です。
オフィスづくりを進める際は、社員アンケートやワークショップ、部署ごとのヒアリングを通じて、現状の課題を整理しましょう。会議室が足りない、集中できる場所が少ない、雑談できる場所がない、空調や音環境に不満があるなど、実際に使う社員の声を集めることで、改善すべき優先順位が見えやすくなります。
また、移転や改装後も、出社率、会議室の稼働状況、集中ブースの利用状況、社員満足度などを定期的に確認することが大切です。データをもとに改善を重ねることで、感覚に頼らず、実態に合ったオフィス運用ができます。たとえば、集中ブースの予約が常に埋まっている場合は増設を検討し、交流スペースが使われていない場合は配置や家具、運用ルールを見直す必要があります。
社員の声を取り入れることは、納得感の醸成にもつながります。会社が一方的に完全出社へ戻すのではなく、社員とともに働きやすい環境をつくる姿勢を示すことで、出社に対する受け止め方も変わります。オフィスデザインは、社員に方針を押し付けるためのものではなく、組織として目指す働き方を共有するための手段です。
なお、社員アンケートやオフィス利用状況を収集・分析する際は、利用目的を明確にし、個人が必要以上に特定されない形で運用するなど、プライバシーへの配慮も欠かせません。
以下は、フル出社や完全出社で起こりやすい課題と、オフィスデザインでの対応例を整理した表です。自社の状況と照らし合わせながら、どの要素を優先的に見直すべきか検討してみてください。
| 課題 | オフィスデザインでの対応 |
|---|---|
| 出社する必要性が伝わらない | チームで集まる場、共創スペース、社内イベントにも使えるフリースペースを設けることで、オフィスならではの価値を感じやすくします。 |
| 集中しにくい | 個室ブース、集中席、音環境に配慮したゾーニングを行い、業務内容に応じて静かに作業できる場所を確保します。 |
| Web会議がしづらい | 1人用Web会議ブースや少人数用の半個室を設け、会議室不足や執務席での音漏れを防ぎます。 |
| モチベーションが上がらない | 企業らしいデザイン、快適な家具、自然光や植栽、リフレッシュスペースを取り入れ、前向きに働ける環境を整えます。 |
| コミュニケーションが生まれにくい | カフェスペース、ラウンジ、動線上のマグネットスペースを配置し、偶発的な会話が起こりやすい仕掛けをつくります。 |
| 運用が定着しない | 利用ルールの設計、社員説明、効果測定をセットで行い、使われ方を見ながら継続的に改善します。 |
5. 行きたくなるオフィス・出社する価値を高めるオフィスデザイン事例
完全出社やフル出社を検討する際は、実際に「出社したくなる理由」を空間に落とし込んだオフィス事例を参考にすると、自社で取り入れるべき要素を具体的にイメージしやすくなります。ここでは、出社することへのモチベーション、リアルコミュニケーションの創出、集中と交流の両立といった観点から参考になる自社事例を紹介します。
株式会社4X

株式会社4Xは、朝日新聞社グループの4社統合をきっかけに、コミュニケーションが生まれるポイントや、オフィスに出社することへのモチベーションをテーマに構築された事例です。オフィスの中心には、語りが生まれる“クロスポイント”となるカフェエリアを配置し、偶発的なコミュニケーションが自然に立ち上がる場を設計しています。集中とひらめきを支える執務環境も整えられており、完全出社や出社回帰を考える企業にとって、交流と集中を両立する参考になります。
事例の詳細はこちら:株式会社4X
インヴァスト株式会社

インヴァスト株式会社は、複数フロアに分かれていたことで生じていたコミュニケーション不足や一体感の欠如を解消するため、部署やグループ会社の垣根を超えて人と人がつながる共創空間を目指した事例です。オフィス中央に「ORIGAMI LOUNGE」を設け、カフェやバーカウンターを配置することで、社員が自然と集まり交流が生まれる仕掛けをつくっています。完全出社を進めるうえで、出社したからこそ得られるつながりをどう設計するかを考えるヒントになります。
事例の詳細はこちら:インヴァスト株式会社
鈴与シンワート株式会社

鈴与シンワート株式会社は、在宅勤務と出社のハイブリッドワークを実施する中で、フリーアドレスの固定席化や交流機会の減少といった課題を抱えていました。そこで、オフィスに出社するからこそ得られるリアルコミュニケーションの機会を最大化し、自然と出社したくなるオフィスを目指して改装を実施。集中スペースやチームで働けるエリア、ブランドを体感できるリフレッシュワークスペースを設け、社員が目的に応じて働く場所を選べる空間を実現しています。
事例の詳細はこちら:鈴与シンワート株式会社
プロジェクトインタビューはこちら:自律と協働を育む、「行きたくなるオフィス」の実現とは。 ワークデザインサーベイを通じて明らかになった課題と変化を可視化。
株式会社イープラス

株式会社イープラスは、コロナ禍明けにリモートワークから出社が基本のスタイルへ変わる中で、「自主的に出社したくなるオフィス」をキーワードに移転プロジェクトを進めた事例です。社員同士の出会いのきっかけとなる大きなフリースペースを設け、リアルなコミュニケーションやチームの一体感を生み出すことを目指しています。完全出社に戻す際、社員が前向きに集まり、同じ志を持つ仲間とのつながりを感じられる空間づくりの参考になります。
事例の詳細はこちら:株式会社イープラス
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社は、リモートワークが主流になったことで、オフィスに来る必要性やメリットが薄れていたという課題に対し、「行きたくなる」を散りばめたオフィスを構築した事例です。デュアルモニターを備えたソロブースや、眺望を活かした窓際のソファブースなどを配置し、リモートワークでは得にくい体験をオフィスに取り入れています。出社する必要性を社員に感じてもらうためには、自宅にはない機能や体験を設計することが重要です。
事例の詳細はこちら:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
まとめ
完全出社やフル出社を進める際は、単に勤務制度をコロナ禍以前の状態へ戻すのではなく、社員が「なぜ出社するのか」を実感できる環境を整えることが重要です。テレワークを経験した社員にとって、オフィスはすでに「当たり前に行く場所」ではなくなっています。だからこそ、出社する必要性を制度として説明するだけでなく、オフィスデザインを通じて体験として伝えることが求められます。
完全出社を成功させるためには、コミュニケーションが自然に生まれる交流スペース、集中して作業できるブースや静かなエリア、Web会議に対応できる環境、気分転換できるリフレッシュスペースなどをバランスよく整える必要があります。社員が長い時間を過ごす場所だからこそ、快適性やデザイン性、企業らしさも欠かせません。
また、行きたくなるオフィスは、完成したら終わりではありません。出社率や会議室の稼働状況、社員満足度、集中スペースの利用状況などを確認しながら、運用を見直し続けることが大切です。社員の声を取り入れて改善を重ねることで、オフィスは単なる作業場所ではなく、組織の一体感やモチベーションを高める場へと育っていきます。
完全出社に戻すかどうかを検討する際は、まず自社にとってオフィスが果たすべき役割を整理してみましょう。対面でのコミュニケーションを重視したいのか、若手育成を強化したいのか、企業文化を浸透させたいのか、出社率を高めてチームの連携を強めたいのかによって、必要なオフィスデザインは変わります。
社員が「行かなければならない」ではなく、「行きたい」と感じられるオフィスをつくることが、これからの完全出社や出社回帰を成功させる大きなポイントです。
株式会社ヴィスは、『はたらく人々を幸せに。』というパーパスのもと、働く場を設計する「ワークプレイスデザイン」と、そこで生まれる体験を設計する「エクスペリエンスデザイン」という二つのアプローチを通して『ワークデザイン』を実現し、人と組織のエンゲージメントを高めながら、企業価値の持続的な向上に貢献します。
ワークデザイン、オフィス・ワークプレイスデザイン、オフィス移転・改装・設計についてのお悩みは、お気軽にお問い合わせください。
オフィスのレイアウト相談などのお問い合わせはこちら