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働き方の多様化が進む現代において、企業が抱える課題の一つが「オフィスの在り方」です。テレワークの普及やハイブリッドワークの定着により、従来のような固定席中心のオフィスでは、柔軟な働き方に対応しきれないケースが増えています。こうした背景の中で注目されているのが「オフィスリノベーション」です。
オフィスリノベーションとは、単なる内装の刷新や設備の更新にとどまらず、企業のカルチャーや業務スタイルに合わせて空間を再設計する取り組みです。社員が快適に働ける環境を整えることで、業務効率の向上やコミュニケーションの活性化、さらには採用力の強化にもつながる可能性があります。つまり、オフィスリノベーションは「働き方改革」の一環として、企業の成長戦略に組み込まれるべき重要な施策なのです。
この記事では、オフィスリノベーションの基本的な考え方から、実際に進める際のステップ、費用感、そして成功事例までを網羅的に紹介します。特に、総務やオフィス管理を担当されている方にとって、リノベーションを検討する際に役立つ情報を整理し、具体的な行動につながるヒントを提供することを目的としています。
1. オフィスリノベーションとは何か
オフィスリノベーションとは、既存のオフィス空間を再構築し、企業の働き方やカルチャーに合わせて最適化する取り組みです。単なる内装の変更や設備の更新にとどまらず、企業のビジョンや業務スタイルに沿った空間づくりを目指す点が特徴です。近年では、テレワークやフリーアドレスの導入、コミュニケーションの活性化などを目的としたリノベーションが増えています。
従来のオフィス改装は、老朽化した設備の更新やレイアウトの変更が中心でしたが、リノベーションでは「働く人の体験価値」を重視します。例えば、部署間の連携を促すレイアウトや、集中とリラックスの両方を叶えるゾーニング、企業文化を体現するデザインなどが挙げられます。これにより、社員が快適に働けるだけでなく、企業の価値観やブランドイメージを空間に反映させることが可能になります。
また、オフィスリノベーションは、採用力の強化や社員満足度の向上にも寄与します。働きやすい環境を整えることで、企業の魅力を高め、定着率の改善にもつながるのです。特に若年層の人材にとっては、オフィスの雰囲気や設備が企業選びの重要な要素となるため、空間づくりが採用活動に与える影響は小さくありません。
さらに、リノベーションは業務効率の向上にも貢献します。例えば、業務に応じたスペースの最適化により、無駄な移動やコミュニケーションロスを減らすことができます。集中作業に適した静かなエリア、チームでの議論がしやすいオープンエリア、リラックスできる休憩スペースなど、目的に応じた空間を設けることで、社員のパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能になります。
オフィスリノベーションはまた、企業の変化に柔軟に対応するための手段でもあります。事業拡大や組織再編、働き方の変化など、企業が成長する過程で必要となる空間の見直しを、リノベーションによって実現することができます。特に、コロナ禍以降の働き方の変化に対応するために、フリーアドレスやABW(Activity Based Working)を導入する企業が増えており、これらの施策を支える空間設計が求められています。
このように、オフィスリノベーションは単なる「空間の刷新」ではなく、「経営戦略の一環」として位置づけられるケースも増えています。企業の理念や働き方を空間に落とし込むことで、社員のエンゲージメントを高め、企業全体のパフォーマンス向上につなげることができるのです。
参考までに、オフィスリノベーションの効果やメリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:
オフィスデザインの効果について|メリットを最大化するポイントとは
2. オフィスリノベーションの進め方とポイント
オフィスリノベーションを成功させるためには、単に施工会社に依頼するだけではなく、社内での目的共有や計画立案が重要です。空間の刷新は企業の働き方やカルチャーに直結するため、慎重かつ戦略的に進める必要があります。ここでは、リノベーションを進める際に押さえておきたい基本的なステップと、実務上のポイントを詳しく解説します。
2.1. 目的の明確化
最初のステップは、「なぜオフィスをリノベーションするのか」という目的を明確にすることです。目的が曖昧なまま進めてしまうと、完成後に「思っていたものと違う」「使いづらい」といったギャップが生じる可能性があります。目的は企業によって異なりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
- ・社員のコミュニケーションを活性化したい
- ・テレワークと出社の両立を図りたい
- ・採用力を高めたい
- ・社員満足度を向上させたい
- ・企業文化を空間に反映させたい
これらの目的を明確にすることで、リノベーションの方向性が定まり、設計や施工の段階での意思決定がスムーズになります。
2.2. 社内ヒアリングと課題抽出
目的が定まったら、次に行うべきは社内ヒアリングです。社員や各部署へのアンケートやインタビューを通じて、現状の課題を洗い出します。例えば、「会議室が足りない」「集中できるスペースがない」「部署間の交流が少ない」「空調が不快」「収納が不足している」など、現場の声を反映することで、より実用的な空間設計が可能になります。
この段階では、定量的なデータ(アンケート結果)と定性的な意見(自由記述やインタビュー)を組み合わせて分析することが重要です。課題の優先順位を明確にし、どの問題をリノベーションで解決すべきかを整理することで、設計の精度が高まります。
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2.3. コンセプト設計とゾーニング
課題が明確になったら、空間のコンセプトを設計します。企業のブランドやカルチャーを反映したデザインにすることで、社員の帰属意識やモチベーション向上にもつながります。例えば、「挑戦」「協働」「安心」「自由」など、企業が大切にしている価値観を空間に落とし込むことで、オフィスが単なる作業場ではなく、企業の顔として機能するようになります。
ゾーニングでは、執務エリア、集中スペース、リラックスエリア、コミュニケーションエリアなどをバランスよく配置することが重要です。特にハイブリッドワークを導入している企業では、出社頻度が異なる社員が快適に過ごせるよう、柔軟なレイアウトが求められます。固定席を減らし、フリーアドレスや予約制の席を導入することで、スペースの有効活用が可能になります。
参考記事:
【オフィス改革】具体的な取り組みや4つの効果を紹介!
2.4. 施工会社の選定とスケジュール管理
施工会社の選定では、オフィスデザインに強みを持つ企業を選ぶことがポイントです。単なる内装業者ではなく、働き方や企業文化に寄り添った提案ができるパートナーを選ぶことで、満足度の高い空間が実現できます。施工会社によっては、設計から施工、家具選定、ITインフラ整備まで一貫して対応できるところもあり、プロジェクトの進行がスムーズになります。
また、施工期間中の業務への影響を最小限に抑えるため、スケジュール管理も重要です。業務を止めずに施工を進めるには、夜間工事や段階的な施工などの工夫が必要です。事前に社内での調整を行い、関係部署との連携を密にすることで、トラブルを防ぐことができます。
3. オフィスリノベーションにかかる費用とその考え方
オフィスリノベーションを検討する際、多くの担当者が最も気にするのが「費用感」ではないでしょうか。リノベーションは企業にとって大きな投資であり、予算の確保や費用対効果の検討が欠かせません。とはいえ、費用は一律ではなく、企業の目的や規模、施工範囲、デザインのこだわり度合いによって大きく変動します。ここでは、一般的な費用の目安と、コストを考える上でのポイントを詳しく解説します。
まず、オフィスリノベーションの費用は大きく以下の要素で構成されます。
設計・デザイン費:空間のコンセプト設計やレイアウト作成にかかる費用です。企業のカルチャーや働き方に合わせたデザインを行うには、専門的な知見が必要となるため、設計力のあるパートナー企業を選ぶことが重要です。
施工費:内装工事や設備更新にかかる費用です。床材、壁材、照明、空調、配線などの選定によって金額が変動します。特に、老朽化した設備の更新や、構造的な変更が必要な場合は、施工費が高くなる可能性があります。
家具・什器費:デスクやチェア、収納、パーティションなどの購入・設置にかかる費用です。フリーアドレスやABW(Activity Based Working)を導入する場合は、柔軟なレイアウトに対応できる家具が求められます。家具の選定は、空間の印象や使い勝手に直結するため、慎重に行う必要があります。
IT・インフラ整備費:ネットワーク環境やセキュリティ設備の更新費用です。テレワーク対応やハイブリッドワークを前提とする場合、Wi-Fi環境の強化やオンライン会議設備の導入が必要になります。ITインフラの整備は、業務効率やセキュリティに直結するため、軽視できない項目です。
移転・仮設費用(必要に応じて):リノベーション中に業務を継続するための仮設オフィスの設置や、移転に伴う費用も考慮する必要があります。特に大規模な改装の場合は、業務への影響を最小限に抑えるための工夫が求められます。
一般的には、坪単価10万円〜30万円程度が目安とされますが、これはあくまで参考値です。例えば、デザイン性を重視した空間や、ブランディングを目的としたリノベーションでは、坪単価が40万円を超えるケースもあります。一方で、機能性を重視し、既存の設備を活かすことでコストを抑えることも可能です。
費用を考える際には、「初期投資」として捉えるだけでなく、「長期的な効果」を見据えることが重要です。社員の満足度向上や採用力強化、生産性の向上など、リノベーションによって得られる価値は費用以上のリターンを生む可能性があります。特に、働き方改革や企業ブランディングを目的としたリノベーションでは、空間が企業の成長を支える重要な資産となります。
また、費用対効果を高めるためには、以下のような工夫も有効です。
- 段階的な施工:一度に全フロアを改装するのではなく、段階的に進めることで予算の分散が可能になります。
- 既存資産の活用:使える家具や設備は再利用することで、無駄な出費を抑えることができます。
- 補助金・助成金の活用:自治体や国の制度を活用することで、費用負担を軽減できる場合があります。
このように、オフィスリノベーションの費用は多面的に捉える必要があります。単なるコストではなく、企業の未来への投資として位置づけることで、より戦略的な意思決定が可能になります。
4. オフィスリノベーションの成功事例紹介
オフィスリノベーションを検討する際、最も参考になるのは実際の事例です。企業がどのような課題を抱え、どのような目的で空間を刷新し、どのような成果を得たのかを知ることで、自社にとって最適な方向性を見つけるヒントになります。ここでは、ヴィスが手がけた比較的新しい事例の中から、目的や課題に応じた空間づくりを実現した企業の取り組みをご紹介します。
株式会社オークファン
アフターコロナにおけるオフィス規模適正化を目的として、移転に伴いフリーアドレスを導入した事例です。同社には、出社とテレワークを両立させたハイブリッドワークにより、社内コミュニケーションを活性化させたいといった課題がありました。従来のオフィスでは、固定席が中心で部署間の交流が生まれにくく、出社率の低下に伴い空間の使われ方にもムラが生じていました。
この課題を克服するため、面積を全オフィスの50%に縮小し、フリーアドレスを導入。社員が自由に席を選べる環境を整えることで、部署を越えた偶発的なコミュニケーションが生まれるよう設計されています。また、集中スペースとリラックススペースを明確に分けることで、業務のメリハリをつけやすくし、社員の満足度向上にもつながりました。
空間デザインには、企業のブランドカラーや理念を反映させる工夫も施されており、来訪者に対しても企業らしさを伝える場として機能しています。ハイブリッドワークを前提とした空間設計は、今後の働き方のスタンダードを見据えた先進的な取り組みと言えるでしょう。
事例の詳細はこちら:
株式会社オークファン
ダイドー株式会社
採用強化とワークスタイルの改善を目的に、自社ビルのフロアを再編成したリノベーション事例です。同社では、若手人材の採用に力を入れており、企業の魅力を空間で伝えることが重要な課題となっていました。従来のオフィスは機能性重視で、デザイン性や快適性に乏しく、社員の定着率にも課題がありました。
この課題に対し、ヴィスは「働きたくなる空間」をテーマに、デザイン性と機能性を両立させた空間づくりを提案。部署間の交流を促進するためのオープンエリアや、個人作業に集中できるブース型の席を導入することで、多様な働き方に対応できる環境を整えました。
また、採用活動においては、オフィス見学が重要なファーストインプレッションとなるため、来訪者に好印象を与えるエントランスやプレゼンテーションスペースも設計されています。空間を通じて企業の価値を伝えることで、採用力の強化と社員満足度の向上を同時に実現した事例です。
事例の詳細はこちら:
ダイドー株式会社
freee株式会社
「たのしさダイバーシティ」をコンセプトに、出社したくなるオフィスを目指したリノベーション事例です。freee株式会社では、社員の多様性を尊重しながら、企業カルチャーを空間に落とし込むことを重視していました。従来のオフィスでは、業務効率は確保されていたものの、社員同士の交流や創造性を引き出す仕掛けが不足していたといいます。
この課題に対し、ヴィスは「遊び心」と「機能性」を融合させた空間設計を提案。オフィス内には、カフェ風のコミュニケーションスペースや、テーマ性のある会議室、リラックスできるラウンジなどが配置され、社員が自発的に交流できる環境が整えられました。
また、空間全体に企業のビジョンや価値観を表現するグラフィックやサインを配置することで、社員のエンゲージメントを高める工夫も施されています。出社したくなるオフィスというコンセプトは、ハイブリッドワーク時代における新しいオフィスの在り方を示す好例です。
事例の詳細はこちら:
freee株式会社
まとめ(約600文字)
オフィスリノベーションは、単なる空間の刷新ではなく、企業の働き方やカルチャーを反映した戦略的な取り組みです。目的を明確にし、社員の声を反映した設計を行うことで、働く環境の質を高め、企業の魅力や生産性向上にもつながります。特に、ハイブリッドワークやフリーアドレスの導入を検討している企業にとっては、リノベーションがその実現を後押しする重要な手段となるでしょう。
費用面では初期投資が必要となりますが、長期的な視点で見れば、社員満足度や採用力の向上、業務効率の改善など、さまざまな効果が期待できます。空間が社員の働き方に与える影響は非常に大きく、快適で機能的なオフィスは、企業の競争力を高める要素にもなり得ます。リノベーションは、単なるコストではなく、企業の未来への投資と捉える必要があります。
ヴィスは、空間づくりにおける知見を用いて、オフィスづくりにとどまらず、企業のニーズに合わせて「はたらく」を包括的に考慮したワークデザインを提供しています。ワークデザイン、オフィスデザイン、オフィス移転・改装・設計についてのお悩みは、お気軽にお問い合わせください。
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