オフィスと住宅では進め方が違う?リフォーム・改装の違いと失敗しない手順を解説

オフィスと住宅では、リフォーム・改装の進め方が異なります。工事区分や施工方法、移転・引越との関係、勘違いしやすい落とし穴、失敗を防ぐ手順を分かりやすく解説します。

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住宅のリフォームやリノベーションを経験したことがあっても、初めてオフィスの移転や改装を担当すると、想像以上に関係者や確認事項が多いことに戸惑うかもしれません。どちらも空間を使いやすく整える取り組みですが、オフィスと住宅では、目的だけでなくプロジェクトの進め方にも大きな違いがあります。

住宅では、主に家族の暮らしや好みに合わせて間取りや設備を考えます。一方、オフィスでは、経営課題や働き方、従業員の要望、来客対応、セキュリティなどを踏まえ、多くの人が働きやすい環境をつくらなければなりません。さらに、賃貸オフィス特有の工事区分やビル管理会社との調整、通信環境の整備、移転・引越、旧オフィスの原状回復も同時に進める必要があります。

住宅と同じ感覚で内装デザインや施工方法を先に決めてしまうと、追加工事や予算超過、スケジュールの遅延につながる可能性があります。本記事では、オフィスと住宅の違いを整理したうえで、リフォーム・リノベーション・改装の考え方、勘違いしやすい落とし穴、オフィスづくりを円滑に進める手順について紹介します。

この記事のまとめ

結論

オフィスづくりは住宅とは進め方が異なり、目的整理から工事区分、設備、引越、運用までを一体で計画することが成功の鍵です。

3つの要点

  • オフィスは企業活動や働き方の課題解決を目的に設計します。
  • A工事・B工事・C工事は、発注者、施工業者、費用負担者を定める工事区分です。
  • 内装、家具、ICT、移転・引越、原状回復を同じ工程で管理します。

この記事で解決できる悩み

  • 住宅との違いやオフィス改装の進め方、追加費用や工期遅延を防ぐ確認事項が分かります。

1.オフィスと住宅では空間づくりの目的が異なる

オフィスと住宅は、どちらも人が長い時間を過ごす空間です。しかし、住宅が主に家族の暮らしを支える場所であるのに対し、オフィスには企業活動を支え、組織が抱える課題の解決を促す役割があります。

そのため、オフィスのリフォーム・リノベーション・改装では、内装を新しくすることだけを目的にするのではなく、働き方や企業の将来像まで見据えて計画することが大切です。住宅との違いを理解しないまま進めると、見た目は整っていても、実際の業務には適していない空間になるかもしれません。

1.1.住宅は暮らし、オフィスは企業活動を支える空間

住宅のリフォームでは、家族構成や生活習慣、好みなどをもとに、暮らしやすい空間を考えます。料理や洗濯をしやすい家事動線、家族が集まるリビング、必要な収納量など、日常生活に関する要望が設計の中心です。

一方、オフィスづくりでは、そこで働く人の快適性だけでなく、企業活動を支える機能が求められます。例えば、個人が集中するための執務スペース、複数人で意見を交わすための会議室、オンライン会議用の個室、来訪者を迎えるエントランスなど、業務の内容に応じて空間を使い分けられるように設計しなければなりません。

さらに、オフィスは社内コミュニケーションの活性化や生産性の向上、企業理念の浸透、採用力の強化などにも関係します。移転や改装を単なる模様替えとして捉えるのではなく、会社が抱える課題を解決するための施策として位置づけることが重要です。

そのため、最初からデザインや施工方法を決めるのではなく、「なぜオフィスを変えるのか」「完成後にどのような働き方を実現したいのか」を整理する必要があります。オフィス改装の目的や業者選定、発注までの流れを詳しく確認したい場合は、次の記事も参考になります。

参考記事:総務が知っておきたいオフィス改装の基礎知識|業者比較から発注フローまで、失敗しないための実務ガイド

1.2.利用する人数と意思決定者の数に違いがある

住宅のリフォームでは、主に施主や家族が要望を出し、予算や間取り、設備などを決定します。利用者と意思決定者が比較的近いため、家族間で合意できれば計画を進めやすいでしょう。

これに対して、オフィスでは多くの関係者がプロジェクトに参加します。経営層は投資効果や企業戦略との整合性を重視し、総務部門は予算やスケジュール、従業員への影響を管理します。人事部門は働き方や採用、情報システム部門はネットワークやセキュリティ、各事業部門は現場の使いやすさを確認するなど、それぞれの立場によって重視するポイントが異なります。

従業員から意見を集めることも大切ですが、寄せられた要望をすべて反映できるとは限りません。「固定席を残したい」「交流スペースを広くしたい」「会議室を増やしたい」といった要望を同時に実現しようとすると、面積や予算が不足する可能性があります。

そのため、オフィスづくりでは、プロジェクトの責任者と最終的な意思決定者を明確にし、要望の優先順位を判断する基準を設ける必要があります。住宅以上に社内合意の形成が重要であり、誰が、何を、どの段階で決めるのかをあらかじめ整理しておくことが、計画の停滞や手戻りを防ぎます。

1.3.完成後の運用まで設計する必要がある

住宅では、完成後に暮らす家族が、収納や家具の配置、部屋の使い方を柔軟に調整できます。一方、オフィスは多くの従業員が共通の空間や設備を利用するため、完成後の運用方法を事前に考えておかなくてはなりません。

例えば、フリーアドレスを導入する場合、座席を自由に選べるようにするだけでは十分ではありません。私物や書類の保管方法、チームで集まる際のルール、座席の予約方法、在席状況の確認手段なども決める必要があります。会議室や集中ブースについても、予約方法や利用時間、飲食の可否などが曖昧であれば、一部の人に利用が偏ったり、必要なときに使えなかったりする可能性があります。

また、セキュリティエリアの区分、来訪者の入退室、郵便物の受け取り、共有備品の管理なども、オフィス特有の運用課題です。空間だけを完成させても、利用方法が従業員に共有されていなければ、想定した効果を得にくくなります。

オフィスの完成は、プロジェクトの終わりではありません。利用開始後に従業員へのアンケートやヒアリングを行い、座席、会議室、収納、音環境などの課題を確認することが大切です。必要に応じて家具の配置や利用ルールを見直し、働き方の変化に合わせて改善を続けることが、使いやすいオフィスを維持するポイントです。

2.リフォーム・リノベーション・改装の考え方と施工方法の違い

住宅とオフィスの工事では、「リフォーム」「リノベーション」「改装」といった共通の言葉が使われます。しかし、オフィスでは内装の仕上げだけでなく、電気、空調、通信、防災、セキュリティなど、業務を支える設備まで連動して検討しなければなりません。

また、賃貸オフィスでは、テナントが希望する施工方法を自由に選べるとは限りません。ビルごとに定められた工事区分や管理規約によって、施工業者、費用負担、工事可能な時間帯などが決まっている場合があります。オフィスと住宅の進め方の違いを理解するためには、工事の呼び方だけでなく、実際の工事範囲や責任の所在まで確認することが大切です。

2.1.リフォーム・リノベーション・改装は何が違うのか

リフォームは、一般的に老朽化した部分を修繕し、元の状態や機能に近づける工事を指します。住宅であれば、壁紙や床材の張り替え、キッチンや浴室などの設備交換が代表例です。オフィスでは、汚れた内装の更新、照明の交換、傷んだ床材の張り替えなどが該当します。

リノベーションは、既存の空間に新しい機能や価値を加え、使い方そのものを見直す取り組みとして使われる傾向があります。例えば、固定席中心の執務室をフリーアドレスへ変更したり、使われていないスペースを交流エリアやオンライン会議用の個室へ転換したりする工事です。

改装は、内装や設備を変更して空間をつくり直す行為を広く表す言葉です。部分的な模様替えから、オフィス全体のレイアウト変更や設備更新まで、幅広い内容を含む場合があります。

ただし、これらの言葉に法令上統一された明確な区分があるわけではなく、設計会社や施工会社によって使い方が異なる場合があります。「リフォームだから小規模」「リノベーションだから全面的な工事」と名称だけで判断するのは、勘違いしやすいことの一つです。

依頼先を比較するときは、言葉の違いにとらわれすぎず、壁、床、天井、家具、電気、空調、通信、防災など、どの範囲まで見積もりや施工に含まれているかを確認しましょう。工事内容や費用の内訳を詳しく知りたい場合は、次の記事も参考になります。

参考記事:オフィス改装費用の相場と内訳を徹底解説|リフォーム・工事のコストを抑えるポイントも紹介

2.2.住宅よりもオフィスは設備工事の連携が複雑になる

住宅のリフォームでも電気や空調、給排水などの設備工事は発生しますが、オフィスでは、利用人数や業務内容に応じた設備容量と配置を考える必要があります。特に、照明、コンセント、電話、LAN、Wi-Fi、空調、防災設備、セキュリティは、レイアウトと密接に関係しています。

例えば、新しく会議室をつくる場合、間仕切りを設置するだけでは完成しません。会議用モニターやオンライン会議機器を使用するための電源、通信配線、照明、換気、空調なども必要です。壁の位置によっては、火災報知器、誘導灯、スプリンクラーなどの防災設備について、移設や増設が必要になる可能性もあります。

執務デスクを増やす場合も、家具を配置するだけではなく、パソコンやモニターを使用できる電気容量があるかを確認しなければなりません。座席配置を変更すれば、床下配線やコンセントの位置も見直す必要があります。空調設備の位置を考慮せずに会議室や集中ブースを設置すると、室温の偏りや換気不足が生じることも考えられます。

このように、オフィスでは一つのレイアウト変更が複数の設備工事へ波及します。設計、内装、設備、家具、ICTを別々に進めるのではなく、相互の影響を確認しながら一体的に計画することが重要です。

2.3.工事区分が費用とスケジュールに影響する

賃貸オフィスで特に注意したいのが、A工事、B工事、C工事と呼ばれる工事区分です。この区分は、誰が施工業者を選び、誰が工事を発注し、誰が費用を負担するのかを整理するために使われます。

一般的に、A工事はビルオーナーが施工業者を選定して発注し、費用も負担する工事です。共用部や建物の躯体、基幹設備など、建物全体の維持に関係する工事が該当します。

B工事は、テナントの要望によって行うものの、ビルオーナーが指定する施工業者へ発注し、テナントが費用を負担する工事です。空調、防災、電気、給排水など、専有部にありながら建物全体へ影響する設備が対象になることがあります。

C工事は、テナントが施工業者を選定して発注し、費用も負担する工事です。内装仕上げ、家具、造作、電話・LAN配線などが該当する傾向にあります。ただし、同じ工事項目でも物件や契約によって区分が変わるため、一般的な例だけで判断することはできません。

確認項目A工事B工事C工事
一般的な発注主体ビルオーナーテナントまたはオーナーを介して発注テナント
一般的な費用負担ビルオーナーテナントテナント
施工業者の選定ビルオーナービルオーナーテナント
主な対象共用部、躯体、基幹設備建物全体に影響する専有部設備内装、家具、通信配線など
主な注意点テナント側で変更しにくい価格や工程を自由に調整しにくいビルの承認と工事条件の確認が必要

特にB工事は、テナント側で施工業者を自由に選べないため、当初の想定より費用が高くなったり、見積もりや工程調整に時間がかかったりする可能性があります。物件の賃料や立地だけを見て契約を進め、設計段階で多額のB工事が必要だと判明するケースは、オフィス移転で注意したい落とし穴です。

工事区分は、工事区分表、賃貸借契約書、工事規則、入居者向けの資料などで確認します。不明な点がある場合は、ビルオーナーや管理会社へ問い合わせ、対象工事、指定業者、申請期限、施工可能時間、搬入経路まで確認しておきましょう。住宅とは異なり、自社が借りている専有部であっても自由に工事できるとは限らない点を理解しておくことが大切です。

3.住宅と同じ感覚で進めると起こりやすい落とし穴

住宅のリフォーム経験があれば、内装の希望を整理し、施工会社から見積もりを取り、工事日を決めれば進められると考えるかもしれません。しかし、オフィスには、経営層や従業員、ビル管理会社、各種工事会社など多くの関係者が存在します。内装工事と並行して、家具、ICT、セキュリティ、移転・引越などの準備も必要です。

こうした違いを十分に把握しないまま計画すると、設計の手戻りや追加費用、業務開始日の延期につながる可能性があります。ここでは、オフィスづくりで勘違いしやすいことと、注意したい落とし穴を紹介します。

3.1.内装デザインから始めてしまう

オフィスの移転や改装を検討するとき、最初におしゃれな事例を探したり、内装の色や素材、家具を選んだりしたくなるかもしれません。しかし、空間の目的や利用条件を整理しないままデザインを決めてしまうと、完成後の働き方に合わないオフィスになる可能性があります。

例えば、コミュニケーションの活性化を目指してオープンなレイアウトを採用しても、個人で集中する業務が多い会社では、周囲の音や視線が負担になることがあります。反対に、集中スペースを重視して個室を増やしすぎると、部署を越えた交流が生まれにくくなるかもしれません。

また、オンライン会議の頻度や来客数、出社率、会議室の稼働状況を確認せずに部屋数を決めると、「会議室が足りない」「使われないスペースが多い」といった問題が起こりやすくなります。見た目が整っていても、業務の実態に合っていなければ、オフィスとして十分な効果を発揮できません。

デザインを検討する前に、移転や改装の目的、現在の課題、将来の人員計画、想定する働き方を整理しましょう。そのうえで、社員アンケートや利用状況の調査を行い、必要な機能と面積を具体化することが大切です。

3.2.施工会社に依頼すればすべて対応してもらえると考える

「施工会社に相談すれば、オフィスづくりに必要なことをすべて対応してもらえる」と考えることも、勘違いしやすいことの一つです。オフィスのリフォーム・リノベーション・改装には、設計会社、内装施工会社、設備会社、家具メーカー、通信会社、セキュリティ会社、引越会社など、複数の専門会社が関係します。

依頼先によって対応範囲は異なります。設計や内装工事には対応できても、電話・LAN工事やネットワーク機器の設定は対象外という場合があります。家具の提案は受けられても、既存家具の移設や廃棄、移転当日の引越管理までは含まれていないこともあるでしょう。

複数の会社へ個別に依頼する場合は、それぞれの施工範囲や責任の境界を明確にする必要があります。例えば、デスクの配置変更について、家具会社は家具の納品だけを担当し、床下の電源やLAN配線は別の会社が行うことがあります。情報共有が不十分であれば、家具の設置後に配線位置が合わないと判明し、再施工が必要になるかもしれません。

依頼先を選ぶ際は、施工方法や価格だけでなく、企画、設計、ビルとの調整、内装工事、設備、家具、ICT、引越のどこまで対応できるかを確認しましょう。対応範囲外の業務がある場合は、誰が各社を取りまとめ、全体の工程と品質を管理するのかも決めておくことが重要です。

3.3.工事費だけで予算を組んでしまう

オフィスの改装や移転で必要になる費用は、内装工事費だけではありません。設計費、プロジェクト管理費、B工事費、家具購入費、電話・LAN工事費、セキュリティ設備費、引越費、廃棄費など、さまざまな支出が発生します。

移転の場合は、さらに新しい物件の契約費用や旧オフィスの原状回復費が必要です。新旧オフィスの契約期間が重なれば、二重に賃料を支払う期間も生じます。内装工事のみを基準に予算を決めると、プロジェクトの途中で費用不足に気づき、必要な設備や家具を削減しなければならなくなる可能性があります。

また、B工事はビルオーナーが指定する業者によって施工されるため、テナント側が自由に相見積もりを取れない場合があります。設計を固めた後にB工事費が判明すると、大幅な予算調整やレイアウト変更が必要になることも考えられます。

予算を組む際は、新オフィスの構築費、移転・引越費、旧オフィスの退去費を分けて整理し、項目ごとの見積もり条件をそろえましょう。工事中に判明する追加対応へ備え、一定の予備費を確保しておくことも有効です。移転と退去に必要な費用や原状回復の注意点については、次の記事で詳しく紹介しています。

参考記事:オフィス退去・移転の流れ|2つの退去費用と原状回復工事の注意点を徹底解説!

3.4.工事と移転・引越を別々に計画してしまう

オフィス移転では、新しいオフィスの内装工事と引越を別の作業として考えがちです。しかし、実際には設計、工事、家具の納品、通信回線の開通、引越、旧オフィスの原状回復が相互に関係しています。

例えば、レイアウトの確定が遅れれば、家具の発注や電源・LANの配置も決められません。通信回線の開通が業務開始日に間に合わなければ、内装工事と引越が完了していても、通常どおり仕事を始められない可能性があります。複合機や大型家具については、搬入経路やエレベーターの使用時間をビル管理会社と調整する必要もあります。

従業員や取引先への案内、名刺やWebサイトの住所変更、郵便物の転送、各種行政手続きなども忘れてはいけません。引越当日だけを移転日として管理するのではなく、業務開始日から逆算し、何が完了していなければ次の工程へ進めないのかを整理することが大切です。

新オフィスの工事、家具、ICT、引越、旧オフィスの退去を一つの工程表にまとめ、各作業の担当者と期限を明確にしましょう。オフィス移転で必要なタスクと工程表の作り方を具体的に確認したい場合は、次の記事も参考になります。

参考記事:オフィス移転チェックリスト完全ガイド|総務タスクと工程表の作り方

4.オフィス移転・改装を円滑に進める手順

オフィスの移転や改装は、設計や施工だけで完結するものではありません。現在の課題を整理し、社内のプロジェクト体制を整えたうえで、物件条件、工事区分、家具、ICT、引越、完成後の運用までを一体的に計画する必要があります。

住宅のリフォームでは、施主と施工会社を中心に進められる場合がありますが、オフィスでは経営層、総務、人事、情報システム部門、従業員、ビル管理会社など、多くの関係者が参加します。途中の判断が遅れると、後続する設計や工事、引越にも影響するため、最初に全体像を把握しておくことが大切です。

4.1.目的と解決したい課題を整理する

オフィスの移転や改装を検討する際は、すぐに物件探しやデザインの検討を始めるのではなく、「なぜオフィスを変えるのか」を明確にします。目的が曖昧なままでは、物件やレイアウトを比較するための判断基準を持てません。

例えば、社員数の増加に対応することが目的であれば、現在の人数だけでなく、将来の採用計画や出社率を踏まえて必要な面積を検討します。コミュニケーションの活性化を目指す場合は、交流スペースを設けるだけでなく、部署間の関係や社員が移動する動線まで確認する必要があります。

まずは、座席や会議室の稼働状況、収納量、オンライン会議の頻度、来客数など、現在のオフィスの利用実態を調査しましょう。社員アンケートや部門別ヒアリングも有効ですが、集まった意見をそのまま設計条件にするのではなく、全社共通の課題と部門固有の要望に分けて整理することがポイントです。

課題を整理した後は、「会議室不足を解消する」「個人作業と交流を両立する」「出社したくなる環境をつくる」など、達成したい状態を具体化します。この目的が、面積、設備、予算、施工方法を検討する際の共通の判断基準になります。

4.2.プロジェクト体制と判断基準を決める

オフィスづくりは総務部門が中心となって進めるケースが多いものの、総務だけで完結するプロジェクトではありません。経営層、人事、情報システム、経理、広報、各事業部門など、必要な関係者を初期段階で洗い出しましょう。

そのうえで、プロジェクト責任者、実務担当者、部門ごとの窓口、最終決裁者を決めます。誰が何を決めるのかが曖昧だと、レイアウトや予算の承認が進まず、工事や引越のスケジュールにも遅れが生じます。

判断基準を設けることも重要です。すべての要望を同じ優先度で扱うのではなく、「法令や安全に関わる条件」「業務に不可欠な機能」「目的の達成に必要な施策」「あると望ましい要素」などに分けて整理すると、限られた面積と予算を配分しやすくなります。

また、定例会議の頻度、資料の共有方法、変更事項の承認手順なども決めておきましょう。オフィスでは設計や工事の途中で新たな要望が出ることがあります。変更による費用と工期への影響を確認し、承認後に反映するルールを整えておくことで、無計画な仕様変更を防げます。

4.3.物件条件と工事区分を確認する

移転を伴う場合は、賃料、立地、面積だけで物件を判断しないことが大切です。希望するレイアウトや設備を実現できるか、契約前または設計の初期段階で確認します。

主な確認項目には、天井高、床荷重、電気容量、空調方式、床下配線の可否、搬入経路、エレベーターの使用条件などがあります。工事可能な曜日や時間に制限がある場合、夜間・休日工事によって費用が増えたり、工期が長くなったりする可能性もあります。

同時に、A工事、B工事、C工事の範囲を工事区分表で確認しましょう。特にB工事は、費用をテナントが負担しながら、ビルオーナーが指定する業者によって施工されるのが一般的です。工事内容や金額、見積もりに必要な期間を早めに把握しなければ、予算やスケジュールを正確に組めません。

既存オフィスを改装する場合も、専有部だから自由に工事できるとは限りません。間仕切りの新設によって空調や防災設備の変更が必要になる場合や、工事音が他のテナントへ影響する場合もあります。管理規約、工事申請の期限、養生方法、作業員の入館手続きなどをビル管理会社へ確認しておきましょう。

4.4.設計・施工・家具・ICT・引越を一体で計画する

オフィスのレイアウト、内装工事、家具、ICT、セキュリティ、引越は、それぞれを切り離さず、同時に検討する必要があります。各分野が連動しているため、一つの決定がほかの工事内容や費用に影響するからです。

例えば、デスクの位置を変更すれば、電源やLANの配置も変わります。会議室を増やせば、空調、照明、防災設備、モニター、遮音性能の検討が必要です。受付の位置を変更する場合は、来訪者の動線だけでなく、入退室管理やセキュリティエリアとの関係も確認しなければなりません。

設計会社、施工会社、家具会社、通信会社など複数の事業者へ依頼する場合は、業務範囲と責任の境界を明確にしましょう。誰が全体工程を管理するのか、図面や仕様変更をどのように共有するのかも決めておきます。家具の納品後にコンセントの位置が合わないと判明するような手戻りは、会社間の情報共有によって防ぎやすくなります。

また、引越日は内装工事の完了予定日だけで決めず、竣工検査、手直し、家具搬入、通信試験、社員向け案内に必要な期間を含めて設定します。移転計画の全体像や業務開始日から逆算する考え方については、次の記事も参考にしてください。

参考記事:オフィス移転の進め方完全ガイド|スケジュール・物件選定・業者比較・費用概要を解説

4.5.完成後の運用と効果測定まで行う

工事が完了したら、設計図や仕様書と実際の仕上がりを照合し、竣工検査を行います。壁や床の傷、家具の不具合といった目に見える部分だけでなく、照明、空調、コンセント、通信、セキュリティなどが予定どおり機能するかも確認しましょう。

引き渡し後は、座席や会議室の利用方法、収納、来客対応、入退室管理などの運用ルールを従業員へ周知します。新しい設備や予約システムを導入する場合は、マニュアルを配布するだけでなく、説明会や試用期間を設けると定着しやすくなります。

また、完成直後の印象だけで成功を判断するのではなく、一定期間が経過した後に利用状況を確認することも大切です。社員アンケート、会議室や座席の利用データ、各部門へのヒアリングなどを通じて、計画時の目的が達成されているかを検証します。

想定より利用されないスペースがある場合は、家具の配置や利用ルールを見直します。反対に、利用が集中して不足している場所があれば、予約方法や空間の使い分けを改善しましょう。オフィスづくりを一度きりの工事で終わらせず、働き方や組織の変化に合わせて運用を調整することで、空間の価値を長く維持できます。

5.オフィスと住宅の違いを踏まえたオフィスづくりの事例

オフィスづくりでは、内装を新しくするだけでなく、移転や改装の背景にある経営課題を整理し、働き方や業務内容に合った空間へ落とし込むことが重要です。ここでは、組織や事業の変化を踏まえ、オフィスの役割を見直した事例を紹介します。

5.1.株式会社Cellest

ライブコマース事業の成長と組織拡大に伴う人員増加を背景として、オフィスを移転した事例です。同社には、今後の事業拡大と採用を見据えた働きやすい環境の整備に加え、企業ブランディングの強化、ライブコマース専用スタジオの増設と運用の最適化という課題がありました。

そこで、目指す企業像を言語化し、その内容から逆算する形で物件選定の段階からプロジェクトを進行しました。新オフィスには5室のライブコマース専用スタジオを設け、配信、制作、マネジメントを同じ空間で行える環境を構築しています。また、配信後の商品管理や撤収を円滑に進められる動線とし、アパレルや商品を保管するための収納スペースも確保しました。

執務エリアには、業務効率を考慮したシンプルなレイアウトを採用し、窓際には社内ミーティングや日常的な交流に利用できるベンチ席を配置しています。住宅のような居心地だけを追求するのではなく、企業固有の業務、将来の採用、ブランド発信までを空間に反映したオフィスづくりです。

事例の詳細はこちら:株式会社Cellest

5.2.株式会社コムクラフト

新たな開発センターの設置に伴って部門の一部が移転することを受け、既存の本社機能と働き方を見直した改装事例です。会社設立50周年という節目も重なり、同社には、これからの本社が担う役割を再整理し、社員が自然に集まれる環境をつくるという課題がありました。

改装では、従来から構想されていたコミュニケーションスペースを、現代の働き方に合わせた多目的ラウンジとして再構築しました。執務室や会議室がビル内に点在している状況を踏まえ、1フロア全体を、ランチから打ち合わせまで幅広く利用できる空間としています。

カウンターやベンチソファを組み合わせたレイアウトにより、利用人数や目的に応じて過ごす場所を選べるようにしました。また、暗さが課題だったエントランスには間接照明を追加し、明るい印象へと刷新しています。単に内装を修繕するリフォームではなく、拠点機能の変化を起点として、本社の価値と社員同士の交流を再設計した事例です。

事例の詳細はこちら:株式会社コムクラフト

まとめ

オフィスと住宅は、どちらも人が過ごす空間を整える点では共通しています。しかし、空間づくりの目的、利用者の数、意思決定の方法、必要な設備、工事条件、完成後の運用には大きな違いがあります。

特にオフィスでは、住宅のリフォームと同じ感覚で内装デザインや施工方法から検討を始めると、工事区分の見落としや追加費用、スケジュールの遅延といった落とし穴につながりかねません。リフォーム・リノベーション・改装という名称だけで工事範囲を判断せず、内装、空調、電気、防災、通信、セキュリティなど、必要な工事を具体的に整理することが大切です。

移転を伴う場合は、新オフィスの工事だけでなく、家具やICTの整備、移転・引越、旧オフィスの原状回復まで含め、一つのプロジェクトとして進める必要があります。また、賃貸オフィスではA工事・B工事・C工事の工事区分を早めに確認し、施工業者の選定、発注、費用負担の所在を明確にしておきましょう。

まずは、オフィスを変える目的と現在の働き方における課題を整理することから始めてみてください。そのうえで、社内体制、予算、物件条件、工事区分、全体工程を順番に検討することが、住宅との違いを踏まえた、働きやすく長く活用できるオフィスづくりにつながります。


株式会社ヴィスは、『はたらく人々を幸せに。』というパーパスのもと、働く場を設計する「ワークプレイスデザイン」と、そこで生まれる体験を設計する「エクスペリエンスデザイン」という二つのアプローチを通して『ワークデザイン』を実現し、人と組織のエンゲージメントを高めながら、企業価値の持続的な向上に貢献します。
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