目次
オフィスの移転を検討し始めたとき、多くの総務担当者がまず直面するのが「いったい費用はいくらかかるのか」という疑問ではないでしょうか。移転にかかる費用は、新しい物件の契約から内装工事、引越し、そして旧オフィスの原状回復まで多岐にわたり、全体像がつかみにくいものです。金額の見通しが立たないままでは、社内で予算を通すことも、業者と交渉を進めることも難しくなってしまいます。
本記事では、オフィス移転費用の総額相場や坪単価の目安から、人数・規模別のシミュレーション、費用の内訳、コストを抑えるための工夫、さらに勘定科目や新リース会計基準といった会計面のポイントまでを、順を追って整理しました。数字の裏づけをもとに納得感のある予算計画を立て、移転プロジェクトをスムーズに進めるための手引きとして、ぜひお役立てください。
この記事のまとめ
結論
オフィス移転の構築費用は1坪あたり30万〜90万円が目安で、これとは別に物件契約費や原状回復費が発生します。4つの内訳に分けて把握し、削減策と会計処理まで押さえることで、納得感のある予算計画を立てられます。
3つの要点
- 相場と内訳:新オフィスの構築費は坪単価30万〜90万円が目安。これとは別にかかる敷金などの物件契約費、原状回復費まで含めて全体像をつかむことが第一歩。
- 費用の抑え方:居抜き・セットアップ活用、繁忙期回避と相見積もり、レイアウト最適化、補助金活用で質を保ちつつ削減できる。
- 会計と最新動向:勘定科目の考え方に加え、2027年適用の新リース会計基準や賃料上昇の市況も見据える必要がある。
この記事で解決できる悩み
- オフィス移転にいくらかかるか、総額と内訳の全体像を知りたい
- 自社の規模でどのくらいの費用になるかシミュレーションしたい
- 費用を抑える方法や、勘定科目・新リース会計基準の対応を確認したい
1. オフィス移転にかかる費用の全体像と総額相場
オフィス移転にかかる費用は、いくつもの項目が積み重なって総額を形づくっています。まずは全体でどのくらいの金額になるのか、どのタイミングで支出が発生するのかという大枠をつかんでおくと、その後の予算計画が立てやすくなります。ここでは総額の相場観と費用が発生する流れ、そして2026年ならではの市況の影響を順に見ていきましょう。
1.1. オフィス構築費の目安は1坪あたり30万〜90万円
オフィス移転にかかる費用のうち、新しいオフィスを構築するための費用は、1坪あたりおおよそ30万〜90万円が一つの目安となります。ここでいう構築費とは、内装工事費や什器の購入費、ITインフラの整備費、引越し費用など、新オフィスを立ち上げるために発生する費用を指します。
一方で、敷金や礼金といった物件契約にかかる費用と、旧オフィスの原状回復費・廃棄費は、この坪単価には含まれていません。これらは物件の条件や契約内容によって金額が大きく変わり、一律の相場として平均化しにくいためです。予算を組む際は、坪単価から算出した構築費に、物件契約費と旧オフィス側の費用を別枠で足し合わせて考える必要があります。
また、坪単価はあくまで参考値であり、内装のグレードや立地、こだわりの度合いによって上下します。おおまかな水準を、グレード別に整理すると次のとおりです。
| グレード | 坪単価の目安(新オフィス構築ベース) | 特徴 |
|---|---|---|
| コスト重視型 | 30万〜50万円/坪 | オフィスに必要な内装を施し、機能性を確保する。什器は既存のものを流用しながら、必要な分を新調する |
| スタンダード型 | 50万〜70万円/坪 | 社員の働きやすさや生産性の向上、ブランディングに投資し、機能性とあわせて意匠性も高める |
| ハイグレード型 | 70万〜90万円/坪 | 機能性と意匠性の追求に加え、素材や造作によりこだわりを持たせ、家具のグレードやデザイン、機能性もさらに高める |
なお、新築ビルやハイグレードビルへ入居する場合は、建物側の仕様に合わせた工事が必要になることもあり、坪単価が100万円以上になるケースもあります。物件の選定段階から、想定される工事の水準をあわせて確認しておくと安心です。
参考記事:オフィス改装費用の相場と内訳を徹底解説|リフォーム・工事のコストを抑えるポイントも紹介

1.2. 費用が発生する3つの区分
オフィス移転の費用は一度にまとめて発生するわけではなく、大きく3つの区分に整理できます。1つ目は、旧オフィスを退去する際にかかる「退去関連の費用」で、原状回復工事費や不要什器の廃棄費用などが該当します。2つ目は、新オフィスを借りて構築するための「契約・構築の費用」です。敷金や礼金、仲介手数料といった入居費用に加え、内装工事費や什器の購入費が発生し、移転費用のなかでも特に大きな比重を占めます。そして3つ目が、実際に荷物を運び込む「引越しの費用」です。
これらは必ずしも時間軸に沿って一直線に発生するわけではありません。たとえば旧オフィスの原状回復工事は、荷物を運び出した退去後に実施されることが多く、新オフィスへの入居や引越しよりも後になるのが一般的です。契約や工事の進め方によって支払いのタイミングは前後するため、どの費用がいつ発生しそうかを早い段階で洗い出し、資金繰りの見通しを立てておくことが大切です。各工程で発生するタスクとの関係を段取りとして整理したい場合は、以下の記事が参考になります。
参考記事:オフィス移転チェックリスト完全版|時系列でわかる準備・退去・引越手続きと失敗を防ぐポイント
1.3. 2026年の市況が移転費用に与える影響
移転費用は、その時々の不動産市況にも左右されます。近年の東京オフィス市場は、賃料の上昇が続いている点に注意が必要です。三鬼商事のオフィスマーケットデータによると、2026年6月時点の東京都心5区の平均賃料は1坪あたり22,993円、平均空室率は1.99%となっています。賃料は前年同月比で約8%の上昇となり、20カ月以上にわたって連続で上がり続けており、空室率も低い水準で推移しています。
こうした市況では、条件のよい物件は早く決まってしまうため、物件探しに想定以上の時間がかかり、希望する立地や広さの確保が難しくなることもあります。賃料が上がり続けている局面では、契約のタイミングによって初期費用や毎月の賃料負担が変わってくるため、市況とタイミングの見極めが移転の総コストを大きく左右します。空室率の動きと移転・改装の適切な時期については、次の記事で詳しく整理していますので、判断の材料としてお役立てください。
参考記事:オフィス空室率とは?2026年最新の不動産市況と移転・改装タイミングの考え方を解説
2. 人数・規模別に見るオフィス移転費用のシミュレーション
自社の移転費用を見積もるうえで、目安となるのが必要な面積です。業種や働き方によって変わるものの、一般的には社員1人あたり2〜3坪が一つの目安とされています。ここでは、実際によくある3つの面積を例に、第1章で示した坪単価30万〜90万円をもとに構築費の目安を試算しました。1人あたりの適正面積の考え方については、以下の記事で計算方法を詳しく解説していますので、自社の必要坪数を見積もる際にお役立てください。
参考記事:オフィスの一人当たり面積の目安は?計算方法と適正化のコツを解説
| 面積 | 想定人数 | 構築費の目安(新オフィス構築ベース) |
|---|---|---|
| 100坪 | 30〜50人 | 約3,000万〜9,000万円 |
| 300坪 | 100〜150人 | 約9,000万〜2.7億円 |
| 600坪 | 200〜300人 | 約1.8億〜5.4億円 |
※上記は坪単価30万〜90万円で試算した目安です。敷金などの物件契約費、旧オフィスの原状回復費・廃棄費は含みません。
2.1. 100坪(30〜50人規模のオフィス)の場合
100坪のオフィスは、30〜50人ほどが働く規模にあたり、構築費の目安は約3,000万〜9,000万円です。ワンフロアに執務エリアと会議室、エントランスを収める設計が中心となり、限られた面積をいかに機能的に使うかが鍵になります。この規模では、居抜き物件やセットアップオフィスを選ぶ、既存の什器を流用するといった工夫で、坪単価を抑えやすいのが特徴です。一方で、こだわりたい部分を絞って予算を配分すれば、投資を抑えながら自社らしさを表現することもできます。
2.2. 300坪(100〜150人規模のオフィス)の場合
300坪のオフィスは、100〜150人規模に相当し、構築費の目安は約9,000万〜2.7億円となります。この規模になると、部門ごとのゾーニングや会議室の数、集中と協働を切り替えるエリア設計が本格化し、内装のグレードによって費用に大きな差が生まれます。什器やIT機器の数量も増えるため、レイアウトの巧拙が総額を左右します。働き方の方針を明確にしたうえで、必要な機能に優先順位をつけて設計することが、費用対効果を高めるうえで重要になります。
2.3. 600坪(200〜300人規模のオフィス)の場合
600坪のオフィスは、200〜300人が働く規模にあたり、構築費の目安は約1.8億〜5.4億円です。複数フロアにまたがったり、分散していた拠点を統合したりするケースも多く、工事の規模や什器の数量が大きくなります。その分、費用の絶対額が大きいだけでなく、工程管理やコスト管理の難易度も高まります。ただし、発注量に応じたボリュームディスカウントが効きやすい面もあるため、段階的な移転計画を立てたり、専門家とともに予算の全体最適を図ったりする体制づくりが成否を分けるといえるでしょう。
3. オフィス移転費用の内訳を4つに分けて理解する
総額の見通しを立てたら、次は「何にいくらかかるのか」という内訳を把握していきましょう。移転費用は、大きく物件契約費、内装・設備費、引越し費、原状回復・廃棄費の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
ここで改めて確認しておきたいのが、第1章で示した坪単価の位置づけです。あの目安は、このうち内装・設備費と引越し費を中心とした「新オフィスの構築費用」にあたるもので、敷金などの物件契約費と、旧オフィスの原状回復・廃棄費は含まれていません。これらは物件や契約条件によって金額が大きく変わるため、坪単価とは切り離し、別枠で見積もっておく必要があります。それぞれの目安を一覧にすると、次のとおりです。
| 費用区分 | 主な項目 | 目安 |
|---|---|---|
| 物件契約費 | 敷金・礼金・仲介手数料・前家賃 | 敷金は賃料の6〜12カ月分が中心 |
| 内装・設備費 | 内装工事・什器・ITインフラ | 約30万〜90万円/坪 |
| 引越し費 | 運搬・什器移設・廃棄運搬 | 1人あたり数万円が目安 |
| 原状回復・廃棄費 | 旧オフィスの原状回復工事・不要物廃棄 | 原状回復費は約10万〜30万円/坪 |
3.1. 物件契約にかかる費用
新オフィスを契約する際には、まとまった初期費用が発生します。なかでも大きいのが敷金(保証金)で、物件によっては賃料の6カ月から12カ月分に設定されることが多く、移転予算のなかで最も大きなキャッシュアウトになる場合があります。たとえば賃料50万円の物件で敷金が12カ月分であれば、それだけで600万円の支払いが生じる計算です。このほかに、貸主へ支払う礼金、不動産会社への仲介手数料(賃料の1カ月分が目安)、入居前から発生する前家賃などがあります。敷金は交渉によって減額や分割払いに応じてもらえる可能性もあるため、契約前の確認が欠かせません。物件契約費は移転費用の土台となる部分であり、賃料が上昇傾向にある近年は、この負担が重くなりやすい点にも留意しておきましょう。
3.2. 内装・設備にかかる費用
内装・設備費は、オフィスの快適性やブランドイメージを左右する、こだわりが反映されやすい費用です。内装・設備費は坪単価でおおむね30万〜90万円が目安となりますが、入居ビルの条件やグレード、デザイン性を重視すると、これを上回ることもあります。ここには、間仕切りや床・壁の仕上げ、照明、空調といった工事のほか、デスクやチェアなどの什器購入費、そしてネットワークや電話、サーバーといったITインフラの構築費が含まれます。什器やIT機器は社員数に比例して数量が増えるため、規模が大きいほど費用がかさみます。なお、内装工事に使われる塗料や断熱材などの建材は、原油価格の影響を受けて価格が変動することがあります。近年の資材コストの動向と対策については、以下の記事で具体的に取り上げていますので、見積もりを検討する際の参考になさってください。
参考記事:中東情勢が直撃するオフィス構築コスト――2026年のナフサショックが建材・塗装剤に与える影響と、総務担当者が今すぐ取れる対策

3.3. 引越しにかかる費用
引越し費は、荷物の運搬や什器の移設、不要物の運び出しにかかる費用です。一般的には社員1人あたり数万円程度が目安とされますが、荷物の量や移動距離、作業のタイミングによって変動します。特に見落とされがちなのが、ネットワークや電話、サーバー、複合機といったインフラの移設です。これらの手配が遅れると、移転直後に業務が止まってしまうリスクもあるため、引越しと並行して計画的に進める必要があります。インフラの移設や廃棄を止めずに進めるための手順は、以下の記事でチェックリスト形式に整理していますので、あわせてご確認ください。
参考記事:オフィス移転でインフラを止めない:総務のための手順・チェックリスト(LAN/回線/電話/サーバー/複合機/廃棄/セキュリティ)
3.4. 原状回復・廃棄にかかる費用
旧オフィスを退去する際には、借りていた空間を入居前の状態に戻す原状回復工事が必要になります。原状回復費は坪単価でおおむね10万〜30万円が目安とされますが、ビルのグレードや契約条件、指定業者の有無によって幅があります。あわせて、持ち込まない什器や書類の廃棄費用も発生します。原状回復は契約内容によって範囲が定められているため、入居時の契約書を早めに確認し、どこまでが自社負担なのかを把握しておくことが大切です。退去費用の内訳や、居抜き交渉・見積査定による削減方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、旧オフィス側のコストを見積もる際に役立ちます。
参考記事:オフィス退去・移転の流れ|2つの退去費用と原状回復工事の注意点を徹底解説!
4. オフィス移転費用を賢く抑えるためのポイント
移転費用の内訳が見えてくると、どこにコスト削減の余地があるのかも判断しやすくなります。ただし、やみくもに費用を削ると、働きやすさや企業イメージを損なってしまいかねません。ここでは、質を保ちながら無駄を省くための実践的な工夫を4つ紹介します。
4.1. 居抜き・セットアップオフィスの活用
移転費用のなかで大きな比重を占めるのが内装工事費です。この負担を抑える有効な手段が、前の入居者の内装を引き継ぐ居抜き物件や、内装・什器があらかじめ整ったセットアップオフィスの活用です。これらの物件は、デスクやチェア、ネットワーク環境が最初から用意されていることも多く、入居してすぐに業務を始められるうえ、通常は坪単価数十万円かかる内装工事費を大きくカットできます。ただし、セットアップオフィスは内装費が賃料に上乗せされているため、長期入居では割高になる場合もあります。入居期間や自社のこだわりと照らし合わせ、どちらが有利かを見極めることが大切です。
4.2. 繁忙期を避けた発注と相見積もりの徹底
工事や引越しの費用は、依頼する時期によって金額が変わります。引越し業者の料金は、繁忙期にあたる年度末や年末前後と、比較的落ち着いた時期とで1.3〜1.5倍ほどの差が出ることもあり、50名規模であれば時期の調整だけで数十万円のコスト削減が見込めるケースもあります。閑散期は内装工事業者のスケジュールにも余裕が生まれ、費用交渉がしやすくなる傾向があります。あわせて、複数の業者から相見積もりを取ることも欠かせません。同じ条件でも金額や提案内容に差が出るため、比較検討することで適正な価格を見極めやすくなります。
4.3. レイアウト最適化と不要什器の削減
必要以上に広い面積を契約すれば、賃料も内装費も余分にかかります。フリーアドレスやABW、ハイブリッドワークといった柔軟な働き方を取り入れ、出社率に見合った適正な面積を設計することで、契約面積そのものを抑えられる可能性があります。また、移転は什器や書類を見直す絶好の機会でもあります。使っていない什器を運んだり廃棄したりすればその分費用がかかるため、この機会に不要なものを整理し、ペーパーレス化を進めておくと、引越し費や廃棄費の圧縮につながります。長く使える什器は移設して活かすなど、持ち込むものと手放すものを仕分けることが、無駄のない移転につながります。
4.4. 補助金・助成金の活用
オフィス移転に伴う設備投資には、国や自治体の補助金・助成金を活用できる場合があります。たとえば、新しい業務システムやパソコンなどのIT機器を導入する際に使える制度や、働き方改革・生産性向上を目的とした設備投資を支援する制度などがあります。こうした制度は、申請要件や公募期間が定められており、事前の準備や審査を要するものが多いため、早めの情報収集が肝心です。移転を単なる引越しとしてではなく、働き方の改善施策として位置づけることで、制度の趣旨と結びつけて申請しやすくなります。活用できる補助金の種類や申請時の注意点については、以下の記事で整理していますので、あわせてご覧ください。
参考記事:オフィス改装に補助金は使える?対象制度・申請要件・活用時の注意点をわかりやすく解説
5. オフィス移転費用の会計処理|勘定科目と新リース会計基準
移転費用は、支払って終わりではなく、経理上の処理まで含めて考える必要があります。特に費用ごとに勘定科目が異なり、資産計上が求められるものもあるため、あらかじめ整理しておくと決算時に慌てずに済みます。加えて、2027年からはオフィスの賃貸借契約に関わる会計ルールが大きく変わります。ここでは、勘定科目の基本と新しい会計基準の要点を押さえておきましょう。
5.1. 主な費用の勘定科目と仕訳の考え方
オフィス移転で発生する費用は、性質によって処理が分かれます。返還される予定の敷金・保証金は資産として扱い、勘定科目は「差入保証金」などを用います。礼金や返還されない保証金は、20万円未満であれば支出時に費用計上できますが、20万円以上の場合は繰延資産として「長期前払費用」に計上し、均等償却を行います。内装工事費は、建物と一体になる造作として「建物」や「建物附属設備」に計上し、減価償却の対象となるのが一般的です。主な費用の勘定科目を整理すると、次のようになります。
| 費用 | 主な勘定科目 | 処理の考え方 |
|---|---|---|
| 敷金・保証金(返還あり) | 差入保証金 | 資産として計上する |
| 礼金・返還されない保証金 | 長期前払費用(20万円以上) | 繰延資産として均等償却する |
| 仲介手数料 | 支払手数料 | 費用として計上する |
| 内装工事費 | 建物・建物附属設備 | 資産計上し、減価償却する |
| 什器・備品 | 器具備品・消耗品費 | 金額により資産計上または費用計上 |
| 引越し費用 | 雑費・支払手数料 | 費用として計上する |
| 原状回復工事費 | 修繕費 | 費用として計上する |
なお、什器や備品は取得価額によって処理が分かれるなど、判断に迷う項目もあります。実際の仕訳にあたっては、自社の会計方針や顧問税理士の判断を確認しながら進めると安心です。
※出典:三菱地所リアルエステートサービス「オフィス移転時の会計処理とコストを解説」

5.2. 2027年適用開始の新リース会計基準がオフィス賃借に与える影響
オフィスの賃貸借契約に関わる大きな変化として、新しいリース会計基準の適用が控えています。この基準は、企業会計基準委員会が2024年9月に公表した「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」で、2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用される予定です。従来、オフィスの賃貸借のような契約は、支払う賃料を費用として処理するだけで済むオフバランス処理が一般的でした。しかし新基準では、原則としてすべてのリース契約について、借り手が「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上することが求められます。
これにより、これまで費用処理だけで済んでいたオフィスの家賃が、資産と負債として財務諸表に表れることになります。適用の対象となるのは主に上場企業や会計監査人を設置する大会社で、中小企業は現時点で強制適用の対象外とされています。賃借するオフィスを多く抱える企業では、自己資本比率などの経営指標に影響が及ぶ可能性があり、拠点戦略やオフィスの持ち方そのものを見直す動きにもつながっています。
※出典:東急リバブル「2027年適用開始の新リース会計基準とは?不動産・設備への影響と着手すべき実務ポイントを解説」、クラウドサイン「新リース会計基準とは?2027年適用開始に向けた基礎知識や対応ポイント、最新動向を解説【税理士監修】」、マネーフォワード「【図解でわかりやすく】新リース会計基準とは?時期と会計処理を解説」、ザイマックス総研「新リース会計基準とCRE(企業不動産)」
5.3. 総務・経理が今から準備しておきたいこと
新リース会計基準への対応は、経理部門だけの課題ではありません。賃貸借契約がリース取引に該当するかどうかは契約内容によって判断されるため、まずは自社が結んでいるオフィスの契約を洗い出し、契約期間や賃料の条件を整理しておくことが第一歩になります。移転を検討している企業にとっては、契約する面積や期間が将来の財務諸表にどう影響するかを、あらかじめ見据えておくことが重要です。総務が契約内容を、経理が会計処理を、それぞれ早い段階で確認し、部門を越えて情報を共有しておくことで、適用開始時の混乱を避けられます。移転は契約を見直す機会でもあるため、新基準の観点も踏まえて、無理のない条件を選んでいくとよいでしょう。
※出典:マネーフォワード クラウド契約「新リース会計基準が賃貸借契約や家賃に与える影響は?対応ポイントを解説」
6. 費用対効果の高い移転を実現したオフィス事例
ここまで見てきたように、オフィス移転には決して小さくない費用がかかります。しかし、その支出を単なるコストとして削るだけでは、働きやすさや企業の魅力を損ないかねません。大切なのは、限られた予算を「働く環境への投資」として最適に配分することです。現状の働き方をデータで把握し、必要な機能に優先順位をつけて設計すれば、費用を抑えながら成果につながる移転が実現します。こうした費用最適化の観点から専門家に相談するメリットや依頼先の選び方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
参考記事:オフィス移転コンサルとは?依頼するメリットや失敗しない選び方を徹底解説
ここからは、私たちヴィスが手がけた移転事例のなかから、投資対効果を意識した働く環境づくりの取り組みを紹介します。
6.1. ニチバン株式会社

分散していた2つの拠点を統合し、931坪のオフィスへ移転した事例です。同社には、本社と東京オフィスが別々に運営されていたことで部署間やオフィス間に心理的・物理的な壁が生まれ、情報共有や連携にばらつきが出ているという課題がありました。課題を克服するため、『WORK DESIGN PLATFORM』で現状を定量・定性の両面から可視化し、トップインタビューやワークショップで集めた社員の声をもとに『Social Terrace』というコンセプトを設定。部署や役割を越えた交流が自然に生まれるエリアを計画しています。拠点の統合によって重複していたコストを整理しながら、組織の連携強化という成果につなげた取り組みです。
事例の詳細はこちら:ニチバン株式会社
6.2. フェイラージャパン株式会社

現状の働き方をデータで可視化し、その分析を起点に移転計画を組み立てた事例です。同社には、感覚だけに頼らず、根拠にもとづいて自社らしい働く環境を実現したいという想いがありました。課題を克服するため、『WORK DESIGN PLATFORM』による分析で社員の働き方や課題を数値としてとらえ、その結果をレイアウトや空間設計へ反映しています。ブランドの世界観を体現しながら、投資の狙いを明確にした移転として参考になる取り組みです。
事例の詳細はこちら:フェイラージャパン株式会社
6.3. 松尾産業株式会社

社員の働きやすさと採用面の強化を見据えて、大阪駅直結の好立地へ移転した事例です。同社には、企業理念や行動指針を社内に浸透させながら、社外とのつながりも強めたいという課題がありました。課題を克服するため、エントランスや応接室、ワークスペースにあえて壁を設けず、人と人とのつながりが生まれる開放的な空間を設計しています。大画面モニター前のフリースペースや窓際のブースなど、メリハリを持って働けるエリアも整え、移転を採用力の向上につなげた取り組みです。
事例の詳細はこちら:松尾産業株式会社
6.4. 株式会社Luup

急成長を続けるスタートアップが、事業拡大という新たな一歩を支える場として移転した事例です。同社には、成長スピードの速い組織のなかで、社員同士が自然につながり、勢いを保ちながら働ける環境を整えたいという課題がありました。課題を克服するため、東京都内に約197坪の開放的なオフィスを構え、部門を越えた交流が生まれやすいレイアウトを設計しています。成長段階に合わせて働く環境へ投資した、これからの移転を考えるうえでヒントになる取り組みです。
事例の詳細はこちら:株式会社Luup
まとめ
オフィス移転にかかる費用は、新オフィスの契約や内装、引越し、旧オフィスの原状回復まで、多くの要素で構成されています。本記事では、総額の坪単価の目安から、人数・規模別のシミュレーション、費用の内訳、コストを抑えるための工夫、そして勘定科目や新リース会計基準といった会計面のポイントまでを順に整理してきました。
新オフィスの構築費は、1坪あたり30万〜90万円が一つの目安ですが、内装のグレードや立地、規模によって変動し、新築やハイグレードビルでは100万円を超えることもあります。加えて、敷金などの物件契約費や旧オフィスの原状回復費が別途かかる点も見落とせません。だからこそ、まずは全体像と内訳を把握し、自社の働き方に合った優先順位をつけることが欠かせません。居抜き物件やセットアップオフィスの活用、発注時期の調整や相見積もり、レイアウトの最適化、補助金の利用など、質を保ちながら費用を抑える方法はいくつもあります。さらに、賃料が上昇を続ける近年の市況や、2027年から適用される新リース会計基準の影響も見据えておくことで、より納得感のある計画を立てられるでしょう。
大切なのは、移転費用を単に削るべきコストとしてではなく、働く環境への投資として捉える視点です。現状をデータで把握し、目的に沿って予算を配分すれば、費用を抑えながら社員の満足度や企業の成長につながる移転が実現します。まずは自社の働き方と必要な条件を整理することから、はじめてみてはいかがでしょうか。
株式会社ヴィスは、『はたらく人々を幸せに。』というパーパスのもと、働く場を設計する「ワークプレイスデザイン」と、そこで生まれる体験を設計する「エクスペリエンスデザイン」という二つのアプローチを通して『ワークデザイン』を実現し、人と組織のエンゲージメントを高めながら、企業価値の持続的な向上に貢献します。
ワークデザイン、オフィス・ワークプレイスデザイン、オフィス移転・改装・設計についてのお悩みは、お気軽にお問い合わせください。