製造業のオフィスづくりとは?働き方改革・コミュニケーション・労働環境を改善するポイントを解説

製造業のオフィスづくりで押さえたい働き方改革、コミュニケーション活性化、労働環境改善のポイントを解説します。現場と管理部門をつなぎ、社員が働きやすいオフィスを実現するヒントが分かります。

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目次

製造業のオフィスは、これまで製造現場を支える事務機能として捉えられることが多くありました。しかし近年では、人手不足や働き方改革、デジタル化の進展を背景に、オフィスの役割そのものが変化しています。単に書類作成や管理業務を行う場所ではなく、現場と管理部門をつなぎ、コミュニケーションを促進し、社員が前向きに働ける労働環境を整える場としての重要性が高まっています。

特に製造業では、工場や製造ラインなど現場中心の働き方が多いため、「オフィス改革は自社には関係ない」と感じる担当者もいるかもしれません。しかし、品質管理、設計、営業、総務、人事、経理などの間接部門では、情報共有のデジタル化や会議環境の整備、リフレッシュスペースの充実によって、業務効率や社員満足度を高められる余地があります。

工場や倉庫、事務所スペースを含めた改善については、工場のリフォームで生産性と働きやすさを両立する方法でも詳しく紹介しています。

本記事では、製造業におけるオフィスの役割やよくある課題、働き方改革・コミュニケーション・労働環境改善につながる空間づくりのポイントを解説します。あわせて、デジタル化やアウトドア用品を活用したリフレッシュ空間の考え方、実際のオフィスデザイン事例も紹介します。製造業らしい強みを活かしながら、働く人に選ばれるオフィスを検討する際の参考にしてください。

この記事のまとめ

【この記事の結論】
製造業のオフィスは、現場と管理部門をつなぎ、働き方改革・コミュニケーション・労働環境改善を同時に進める拠点として設計することが重要です。

【3つの要点】

  • 製造業のオフィスは、事務作業の場から現場・部門・経営をつなぐ情報共有の場へ変化しています。
  • デジタル化、共用スペース、リフレッシュ空間を整えることで、生産性と社員満足度を高められます。
  • 製品や技術を空間に反映することで、採用力や企業ブランディングの向上にもつながります。

【この記事で解決できる悩み】
製造業のオフィスをどう改善すべきか、現場との連携や社員が働きやすい環境づくりをどこから始めればよいかが分かります。

1. 製造業におけるオフィスの役割が変わっている

1.1. オフィスは「事務作業の場所」から「現場と組織をつなぐ場所」へ

製造業におけるオフィスは、これまで総務・経理・人事・営業・設計・品質管理などの間接部門が業務を行う場所として位置づけられることが一般的でした。もちろん、書類作成や受発注管理、会議、来客対応といった基本機能は現在も重要です。しかし、働き方改革やデジタル化が進む中で、製造業のオフィスには「現場と組織をつなぐ場」としての役割がより強く求められるようになっています。

たとえば、製造現場で発生した課題を管理部門や設計部門へスムーズに共有する、品質管理や営業が現場の状況を理解しながら判断する、経営層が現場の声を把握して意思決定に活かすといった動きは、製造業の競争力を支える重要な要素です。オフィスが部門ごとに閉じた空間になっていると、情報の流れが滞り、現場と管理部門の間に心理的な距離が生まれやすくなります

そのため、製造業のオフィスづくりでは、単にデスクや会議室を整えるだけでなく、部門を越えたコミュニケーションが自然に生まれるレイアウトや、情報共有しやすい共用スペースの設計が重要です。工場や倉庫に隣接するオフィスであれば、現場との動線や視認性も大切になります。現場の状況が見える、話しかけやすい、集まりやすいといった小さな設計の積み重ねが、業務のスピードや組織の一体感に影響します。

1.2. 製造業でオフィス改革が求められる背景

製造業でオフィス改革が注目されている背景には、人手不足、技術継承、採用競争、労働環境改善といった複数の課題があります。製造業は日本のものづくりを支える重要な産業である一方、若手人材の確保や熟練技術者からのノウハウ継承に課題を抱える企業も少なくありません。働く場所の印象や快適性は、求職者が企業を判断する際の材料にもなり、既存社員の定着にも関係します。

特に近年は、給与や福利厚生だけでなく、「どのような環境で働けるか」が企業選びの基準として重視されるようになっています。製造業においても、暗い、古い、閉鎖的、休憩場所が少ないといった印象があると、採用活動や社員満足度に影響する可能性があります。一方で、清潔感があり、コミュニケーションが取りやすく、リフレッシュできる空間が整っているオフィスは、企業が社員を大切にしている姿勢を伝える場にもなります。

また、製造業のオフィスは、社外に対するブランディングの役割も担います。来客エリアやエントランスに自社製品、素材、技術、歴史を見せる仕掛けを取り入れることで、ものづくり企業としての信頼感や専門性を伝えやすくなります。製造業らしさを空間に落とし込むことは、社員の誇りを高めるだけでなく、取引先や採用候補者に企業の魅力を直感的に伝える手段にもなります。

働きやすい職場づくりをより広く整理したい場合は、労働環境改善や社内コミュニケーションの考え方をまとめた働きやすい職場づくり事例大全:労働環境改善から社内コミュニケーション成功事例まで徹底解説も参考になります。オフィスの物理環境だけでなく、制度やコミュニケーション、DXを含めて職場環境を考えるヒントが得られます。

1.3. 働き方改革とデジタル化はオフィスづくりとセットで考える

製造業の働き方改革というと、製造ラインの効率化や生産設備の改善をイメージする方も多いかもしれません。しかし、オフィスや管理部門の働き方を見直すことも、製造業全体の生産性向上に欠かせない取り組みです。紙の帳票、Excel管理、口頭での連絡、属人的な情報共有が残っている場合、現場とオフィスの間で情報の行き違いや確認作業が発生しやすくなります。

デジタル化は、こうした課題を解消するための重要な手段です。たとえば、現場の状況を写真や動画で共有する、会議資料をペーパーレス化する、拠点間の打ち合わせをオンラインで行う、書類や図面をクラウド上で管理するなどの取り組みにより、情報共有のスピードと正確性を高められます。ただし、ツールを導入するだけでは十分ではありません。会議室のモニターやWeb会議環境、集中して作業できるスペース、気軽に相談できる共用エリアなど、デジタル化を活かせる空間設計も同時に必要です。

また、働き方改革を目的にオフィスを見直す場合は、「どの業務を効率化したいのか」「どの部門間の連携を強めたいのか」「どのような働き方を実現したいのか」を明確にすることが大切です。目的が曖昧なままレイアウトだけを変えても、使われないスペースが生まれたり、現場の負担が増えたりする可能性があります。製造業のオフィスづくりでは、空間、ICT、運用ルールを一体で設計し、現場と管理部門の双方が使いやすい環境を整えることが重要です。

2. 製造業のオフィスで起こりやすい課題

2.1. 現場と管理部門のコミュニケーションが分断されやすい

製造業のオフィスで起こりやすい課題のひとつが、製造現場と管理部門のコミュニケーションの分断です。工場、設計、品質管理、生産管理、営業、総務、人事など、それぞれの部門が異なる場所や時間軸で動いているため、情報共有のタイミングがずれやすくなります。現場ではすぐに判断したいことでも、管理部門への共有が遅れたり、反対に経営や営業の方針が現場まで十分に伝わらなかったりすることがあります。

特に多拠点で事業を展開している製造業では、本社、工場、研究所、営業拠点の間で情報が分散しやすくなります。現場で発生した不具合や改善提案が、上長や関係部署を経由するうちに抽象化され、実際の困りごとが伝わりにくくなるケースも少なくありません。こうした状態が続くと、意思決定に時間がかかるだけでなく、現場側には「声が届かない」という不満が生まれ、管理部門側には「現場の状況が見えない」という課題が残ります。

このような分断を解消するには、単に会議の回数を増やすのではなく、日常的に会話が生まれるオフィス環境をつくることが大切です。たとえば、現場担当者と管理部門が自然に交わる動線上にオープンミーティングスペースを設ける、製造進捗や品質情報を共有できるモニターを設置する、気軽に相談できるカウンター席を用意するなどの工夫が考えられます。製造業のオフィスは、部門同士の距離を縮めるための「接点」をどのように設計するかが重要です。

2.2. 紙・Excel・口頭に依存し、情報共有が属人化しやすい

製造業では、紙の帳票やExcel、口頭連絡が業務に深く根付いている企業も多くあります。もちろん、現場で紙資料が必要な場面や、直接会話することで正確に伝わる情報もあります。しかし、情報管理が紙や個人のExcel、担当者同士の口頭確認に偏りすぎると、必要な情報を探すのに時間がかかったり、担当者が不在のときに業務が止まったりするリスクが高まります。

たとえば、過去の品質トラブルの記録、設備点検の履歴、受発注情報、図面や仕様書の最新版などが部署ごとに別々の場所で管理されていると、確認作業そのものが大きな負担になります。さらに、同じような資料が複数存在すると、どれが最新なのか分からなくなり、認識違いや手戻りが発生しやすくなります。製造業におけるデジタル化は、現場の効率化だけでなく、オフィス側の情報管理や意思決定をスムーズにするうえでも欠かせません

オフィスづくりの観点では、ペーパーレス化やデータ共有を進めるための空間設計も重要です。書庫やキャビネットをどれだけ残すのか、紙で保管すべき書類と電子化できる書類をどう分けるのか、会議室で紙資料を使わずに議論できる設備が整っているかといった点を整理する必要があります。書類削減を感覚ではなく数値で捉えることで、オフィス面積や収納計画を考えやすくなります。

参考記事:ファイルメーターとは?収納量を見える化して書類削減とペーパーレス化・DX化を進める方法

2.3. 労働環境の印象が採用や人材定着に影響しやすい

製造業では、ものづくりの技術力や品質への信頼が企業価値を支える大きな要素です。一方で、採用や人材定着の観点では、働く環境の印象も無視できません。求職者が会社見学や面接でオフィスを訪れたとき、空間が暗い、古い、雑然としている、休憩場所が少ないといった印象を受けると、仕事内容に魅力を感じていても「ここで長く働くイメージが持てない」と感じる可能性があります。

既存社員にとっても、労働環境は日々のモチベーションに関わります。照明が暗い、空調が効きにくい、会議室が足りない、集中できる場所がない、昼休みに落ち着いて過ごせる場所がないといった小さな不満は、積み重なることで働きにくさにつながります。特に若手社員や中途入社者は、他社のオフィス環境や柔軟な働き方と比較しながら、自社の働きやすさを判断することもあります。

そのため、製造業のオフィス改善では、見た目を整えるだけでなく、働く人が「大切にされている」と感じられる環境づくりが重要です。明るく清潔な執務エリア、相談しやすいミーティングスペース、気分転換できるリフレッシュエリア、企業らしさを感じられるエントランスなどは、採用候補者にも既存社員にも良い印象を与えます。労働環境の改善は、単なる福利厚生ではなく、採用力や社員定着を支える投資として考えることが大切です。

2.4. リフレッシュや偶発的な交流の場が不足しやすい

製造業のオフィスでは、効率や機能を優先するあまり、リフレッシュや偶発的な交流の場が後回しになることがあります。デスク、会議室、書庫、コピー機など必要な機能は揃っていても、社員が少し気分を変えたいときに使える場所や、部署を越えて雑談できる場所が少ないと、オフィス全体が「作業だけの場」になりやすくなります。

しかし、ちょっとした会話や休憩の時間は、製造業の組織運営においても重要です。品質改善のアイデアや業務効率化のヒントは、正式な会議よりも、休憩中の雑談や立ち話から生まれることがあります。現場担当者と管理部門、営業と設計、若手とベテランが自然に言葉を交わせる場があることで、部門間の理解が深まり、情報共有の質も高まります。

リフレッシュスペースは、単なる休憩室ではありません。カフェのように使えるエリア、短時間の打ち合わせができるテーブル席、1人で落ち着けるソファ席、自然を感じられるグリーン、アウトドア用品を活用したカジュアルな空間など、目的に応じて多様な設計が可能です。アウトドア用品や自然要素を取り入れた空間は、通常のオフィスとは異なるリラックス感を生み、社員同士の距離を縮めるきっかけにもなります。

参考記事:オフィスにリフレッシュルームを作るメリット5つ!導入のポイントは?

課題オフィスでの改善アイデア期待できる効果
現場と管理部門の分断共用ミーティングエリア、情報共有モニター、立ち寄りやすい相談スペース意思決定のスピード向上、現場課題の早期共有
紙資料が多いペーパーレス会議室、集中保管、書類量の見える化業務効率化、収納スペース削減、情報検索性の向上
部門間の交流不足カフェスペース、社員食堂、マグネットスペース部門を越えたコミュニケーション促進、アイデア創出
採用に弱い製品展示、ブランド体験型エントランス、明るい来客エリア企業理解の促進、採用候補者への印象向上
休憩環境が弱いグリーン、アウトドア用品、ラウンジ、ソファ席リフレッシュ、社員満足度向上、エンゲージメント向上

3. 製造業のオフィスづくりで押さえたいポイント

3.1. 現場とオフィスをつなぐ動線・情報共有の設計

製造業のオフィスづくりでは、まず現場とオフィスの関係性を整理することが重要です。工場、倉庫、研究開発、品質管理、営業、管理部門がそれぞれ独立して動いていると、日々の情報共有や意思決定に時間がかかりやすくなります。そこで、製造現場とオフィスを単に隣接させるだけでなく、どの部門がどのタイミングで接点を持つのかを踏まえた動線設計が求められます。

たとえば、現場担当者が立ち寄りやすい場所にオープンミーティングスペースを設ける、品質や生産状況を共有できるモニターを共用エリアに設置する、現場から戻った社員が短時間で報告や相談を行えるカウンター席を用意するなどの工夫が考えられます。重要なのは、会議室を予約しなくても、必要なときにすぐ会話ができる状態をつくることです。小さな相談のしやすさが、トラブルの早期発見や改善提案の活性化につながります。

また、製造業では来訪者に対して現場や製品の魅力を伝える機会も多くあります。エントランスから会議室、ショールーム、執務エリアまでの導線を整えることで、企業のものづくりへの姿勢や信頼感を自然に伝えられます。現場とオフィス、社内と社外をどうつなぐかを考えることは、単なるレイアウト設計ではなく、企業活動全体の流れを整える取り組みといえます。

3.2. 部門を越えたコミュニケーションを生む共用スペース

製造業のオフィスでは、部門ごとに専門性が高く、業務内容も異なるため、意識しないと部署間のコミュニケーションが固定化しやすくなります。設計は設計、品質管理は品質管理、営業は営業、管理部門は管理部門というように分かれたままでは、情報や知見が部門内に閉じてしまうことがあります。こうした課題を解消するには、部門を越えて人が集まる共用スペースの設計が有効です。

共用スペースには、カフェスペース、社員食堂、オープンミーティングエリア、マグネットスペース、ライブラリー、リフレッシュエリアなどがあります。これらの空間は、単に余ったスペースを活用するのではなく、「誰と誰に出会ってほしいのか」「どのような会話を生みたいのか」を考えて配置することが大切です。たとえば、コピー機やロッカー、ドリンクコーナーなど、人が日常的に立ち寄る機能を近くに配置することで、自然な会話が生まれやすくなります。

社員食堂やカフェスペースを活用する場合は、食事だけでなく、打ち合わせや休憩、社内イベントにも使える多目的な設計にすると効果的です。製造業では工場や事業所に社員食堂を備えているケースも多いため、食堂を「食べる場所」から「交流とリフレッシュの場」へ再定義することで、働き方改革の一歩につなげられます。

参考記事:社員食堂のリニューアル・リノベーションで働き方改革を実現!食堂が社員にもたらす価値とは?

3.3. デジタル化を前提にした会議室・Web会議・集中環境

製造業のオフィスでは、デジタル化を前提とした会議環境や集中環境の整備も欠かせません。製造現場では、品質情報、設備状況、受発注データ、図面、仕様書など、多くの情報を正確に扱う必要があります。これらを紙や口頭だけで共有していると、情報の更新や検索に時間がかかり、判断の遅れにつながることがあります。オフィス側では、そうした情報をスムーズに確認・共有できる環境を整えることが重要です。

たとえば、会議室には大型モニターやWeb会議システムを設置し、遠隔地の工場や支店とも同じ資料を見ながら議論できるようにします。少人数の打ち合わせには予約不要のオープンミーティング席を設け、機密性の高い内容やオンライン商談には個室ブースを用意すると、用途に応じた使い分けがしやすくなります。製造業では拠点間の連携が重要になるため、オンラインとリアルを自然につなぐ空間設計が求められます。

一方で、デジタル化が進むほど、集中して資料作成や分析を行う時間も必要になります。オープンな空間だけではなく、音環境に配慮した集中席や、短時間で使えるソロワークブースを設けることで、業務効率を高めやすくなります。ABWやフリーアドレスの考え方を一部取り入れ、業務内容に応じて働く場所を選べるようにすることも有効です。

参考記事:ABWの意味とは?フリーアドレスとの違いやABW導入に成功したオフィス事例を解説!

3.4. リフレッシュできる空間で働く人の満足度を高める

製造業のオフィス改善では、生産性や効率だけでなく、働く人が心身を整えられるリフレッシュ空間も重要です。現場業務や管理業務では、集中力や判断力が求められる場面が多く、緊張感のある仕事が続くこともあります。だからこそ、短時間でも気分を切り替えられる場所があることで、社員の満足度やパフォーマンスの維持につながります。

リフレッシュ空間は、ソファやカフェテーブルを置くだけでは十分とはいえません。執務エリアとは異なる照明や色使い、木目やファブリックなどの柔らかい素材、観葉植物や自然光を取り入れることで、心理的に切り替えやすい空間になります。近年は、アウトドア用品を活用したカジュアルなリフレッシュスペースや、キャンプを思わせるチェア・テーブルを取り入れた空間も注目されています。アウトドア用品は、可動性が高くレイアウト変更しやすいため、休憩、雑談、軽い打ち合わせ、社内イベントなど多目的に使いやすい点も魅力です。

また、自然要素を取り入れたオフィスづくりは、ウェルビーイングやリラックス効果の観点でも有効です。グリーンを配置する、自然素材を使う、外の景色を活かすといった工夫は、製造業の硬質な印象を和らげ、社員が居心地よく過ごせる雰囲気をつくります。

参考記事:観葉植物で働き方が変わる:オフィスグリーンの効果と導入ステップ、実際のオフィス緑化事例まで

3.5. 製造業らしさを伝えるブランディング設計

製造業のオフィスは、社員が働く場所であると同時に、ものづくり企業としての価値を伝える場でもあります。製品、素材、技術、品質へのこだわり、創業からの歴史、社会への貢献といった要素は、パンフレットやWebサイトだけでなく、オフィス空間でも表現できます。エントランスや来客エリアに製品展示や素材サンプル、技術紹介パネル、沿革グラフィックを取り入れることで、来訪者に企業の強みを直感的に伝えやすくなります。

ブランディング設計で大切なのは、単に製品を並べることではありません。自社が何を大切にしているのか、どのような技術で社会に価値を提供しているのかを、空間全体のストーリーとして伝えることです。たとえば、金属や化学素材を扱う企業であれば、素材感を内装に取り入れることで事業とのつながりを表現できます。食品や日用品を扱う企業であれば、商品が生まれる背景やブランドの世界観を展示やサインに落とし込むことができます。

こうした空間は、社外向けの印象づくりだけでなく、社員の誇りや帰属意識にも影響します。自分たちの仕事や製品がオフィスの中で大切に表現されていると、社員は企業の存在意義を日常的に感じやすくなります。製造業のオフィスづくりでは、機能性と効率性だけでなく、「自社らしさ」をどう空間に反映するかも重要な視点です。

4. 製造業のオフィス改革を進める流れ

4.1. 現状の働き方と課題を整理する

製造業のオフィス改革を進める際は、いきなりレイアウトやデザインを検討するのではなく、まず現状の働き方と課題を整理することが重要です。現場、管理部門、設計、品質管理、営業、経営層など、関係する部門ごとに「どのような業務をしているのか」「どこで情報共有が滞っているのか」「どの空間が使いにくいのか」を把握することで、改善すべきポイントが明確になります。

たとえば、会議室が常に不足しているのか、書類保管が多すぎてスペースを圧迫しているのか、現場とオフィスの往来がしづらいのか、リフレッシュできる場所がないのかによって、必要な施策は変わります。製造業では、現場ごとに業務特性が異なるため、他社の成功事例をそのまま取り入れるだけでは十分ではありません。自社の製造プロセスや組織体制、社員の働き方に合わせて課題を抽出する必要があります。

この段階では、社員アンケートやヒアリング、オフィス利用状況の観察、会議室稼働率の確認、収納量の把握などを行うと効果的です。定性的な意見だけでなく、数値や利用実態を組み合わせることで、経営層への説明もしやすくなります。

移転プロジェクトにおいて、オフィスの状態をデータ分析しプランニングに反映させたプロジェクト事例については、こちらをご覧ください。データ分析を働く環境作りの原動力に。 数値化から始まった「フェイラー」の世界観を体現するオフィスプロジェクト

4.2. 現場・管理部門・経営層を巻き込んで方向性を決める

課題が見えてきたら、次にオフィス改革の方向性を決めます。このとき重要なのは、総務や経営層だけで決めるのではなく、実際にオフィスや現場を使う社員を巻き込むことです。製造業のオフィスは、管理部門だけで完結する場所ではありません。現場担当者、品質管理、設計、営業、研究開発など、複数の部門が関わるため、それぞれの視点を取り入れることで、完成後に使われるオフィスになりやすくなります。

たとえば、経営層は「採用力を高めたい」「企業ブランドを発信したい」と考えていても、現場側は「報告や相談がしづらい」「休憩場所が少ない」と感じているかもしれません。管理部門は「書類を減らしたい」「会議室を増やしたい」と考えている一方で、営業や設計部門は「来客対応やWeb会議に適した場所がほしい」と考えている場合もあります。こうした視点を早い段階で整理し、優先順位をつけることで、関係者の納得感が高まります。

方向性を決める際は、「何を変えるのか」だけでなく、「何を変えないのか」も明確にしておくことが大切です。固定席を維持するのか、フリーアドレスを一部導入するのか、工場内の食堂をリフレッシュスペースとして活用するのか、来客エリアに製品展示を設けるのかなど、判断の軸を持つことで、設計段階で迷いにくくなります。製造業のオフィス改革は、空間を変えるだけでなく、組織のコミュニケーションや働き方の意識を整えるプロジェクトとして進めることが重要です。

4.3. レイアウト・ICT・運用ルールを一体で設計する

オフィス改革を成功させるには、レイアウト、ICT環境、運用ルールを一体で設計する必要があります。どれか一つだけを整えても、期待した効果が出にくいことがあります。たとえば、オープンミーティングスペースを設けても、モニターや電源が不足していれば使いづらくなります。フリーアドレスを導入しても、収納や座席ルールが整っていなければ、席の固定化や荷物問題が発生しやすくなります。

製造業のオフィスでは、現場と管理部門の情報共有を支えるICT環境が特に重要です。Web会議システム、無線LAN、デジタルサイネージ、図面や資料を共有できるクラウド環境、会議室予約システムなどは、業務の進め方とセットで検討する必要があります。また、情報セキュリティや機密情報の取り扱いにも配慮し、来訪者が入れるエリアと社員専用エリアを明確に分けることも欠かせません。

運用ルールも、設計段階から考えておくべき要素です。リフレッシュスペースをミーティングにも使うのか、集中ブースの利用時間をどう決めるのか、書類をどこまで個人で持てるのか、共用席の片付けルールをどうするのかなど、細かなルールが曖昧なままだと、せっかく整備した空間が十分に活用されない可能性があります。

4.4. 導入後も効果測定と改善を続ける

オフィス改革は、完成して終わりではありません。実際に使い始めてから、想定通りに機能しているかを確認し、必要に応じて改善を続けることが大切です。特に製造業では、組織変更や生産体制の変化、出社率、拠点間連携の状況によって、オフィスに求められる役割が変わることがあります。導入直後は使いやすかった空間でも、数年後には会議室が不足したり、収納が増えたり、リフレッシュスペースの使われ方が変わったりする可能性があります。

効果測定では、社員満足度、会議室の稼働率、リフレッシュスペースの利用状況、部門間コミュニケーションの変化、書類量の削減状況などを確認するとよいでしょう。アンケートだけでなく、実際の利用状況や行動観察を組み合わせることで、より具体的な改善点が見えてきます。たとえば、オープンミーティングエリアの利用率が低い場合、場所が悪いのか、設備が足りないのか、利用ルールが浸透していないのかを切り分けて考える必要があります。

また、改善は大規模な改装だけでなく、小さな変更から始めることもできます。家具の配置を変える、モニターを追加する、サインを見直す、利用ルールを分かりやすく掲示する、植物やアウトドア用品を追加してリフレッシュ感を高めるなど、日常的な改善を積み重ねることで、オフィスはより使いやすくなります。製造業のオフィスづくりでは、導入後の運用と改善まで含めて設計することが、働き方改革や労働環境改善の成果を持続させるポイントです。

5. 製造業のオフィスデザイン事例

ここからは、製造業のオフィスづくりを考えるうえで参考になるヴィスの事例を紹介します。製造業といっても、機械、化学、素材、日用品、部品、バッテリーなど業種や事業内容はさまざまです。そのため、オフィスに求められる役割も、現場との連携、研究開発の促進、部署間コミュニケーション、採用力向上、社員のリフレッシュ、企業ブランドの可視化など、企業ごとに異なります。

今回紹介する事例では、いずれも単に見た目を整えるだけでなく、働き方や組織課題に合わせて空間を設計している点が特徴です。自社の製造業オフィスを見直す際は、各社が「どのような課題を起点にしたのか」「どのようにコミュニケーションや労働環境を改善したのか」に注目してみてください。

ニチバン株式会社

本社と東京オフィスが別々の拠点として運営されていたことで、部署間やオフィス間に心理的・物理的な壁が生まれ、情報共有や連携にばらつきがあった事例です。拠点統合を機に、部署や役割を越えて自然に交流が生まれる環境を整備し、組織全体の連携と企業文化の共有を促進することを目指しました。

同社では、『WORK DESIGN PLATFORM』を活用して現状を定量・定性的に可視化し、トップインタビューやワークショップから得た「部署や年齢を越えて交流したい」「気分転換しながら前向きに働きたい」という声をもとに、『Social Terrace』というコンセプトを設定しています。テラスやガーデンのような外の心地よさを感じられる素材や色調を取り入れ、部署間や個人の交流が自然に生まれるエリアを計画した点は、製造業のオフィスにおけるコミュニケーション改善の参考になります。

事例の詳細はこちら:ニチバン株式会社

ナガセケムテックス株式会社

会社のマーケティング拠点として、新規オフィスを開設した事例です。同社は、化学製品の開発・製造を行う企業であり、「従来にはなかったクリエイティブな発想を可能にするイノベーティブな次世代オフィス環境を入手したい」という要望からプロジェクトが始まりました。そこで働く社員だけでなく、出張で利用する社員や海外からの来訪者にも配慮した空間づくりが進められています。

コンセプトは『PRIVATE OFFICE』。働き方に応じて選択性のあるレイアウトとし、フリーアドレスを採用しています。エントランスにはディスプレイエリアを設け、ワークスペースとの連動性を持たせることで、クライアントや採用候補者と社員のつながりを意識した設計となっています。製造業においても、開発・営業・マーケティングなどの機能を担うオフィスでは、イノベーションを生むための柔軟な働き方や企業らしさの表現が重要であることが分かる事例です。

事例の詳細はこちら:ナガセケムテックス株式会社

太陽ホールディングス株式会社

自社敷地内に新たな開発棟が建設され、一部部署が新棟へ移転したことを機に、既存フロアのスペース効率を見直した改装事例です。同社はプリント配線板用インキで世界トップシェアを誇る化学メーカーであり、半導体をはじめとする電子部品・デバイス向け部材の需要拡大に対応するため、新たな開発棟を整備しています。

このプロジェクトでは、既存の壁や従来使用していた什器を活かし、固定席を維持するなど、大幅なレイアウト変更を伴わない条件のもとで改装が行われました。コンセプトは『butterfly effect』。小さな工夫が大きな効果をもたらし、全体へ広がることを目指しています。固定席の働きやすさを残しながら、打ち合わせやコミュニケーションが取れる場所を各所に配置し、使われていなかったリフレッシュグッズも整理することで、スペースを有効活用している点が特徴です。

事例の詳細はこちら:太陽ホールディングス株式会社

松尾産業株式会社

社員の働きやすさや採用面での強化を考慮し、大阪駅直結のJPタワーへ移転した事例です。同社は、自動車部品や国内で高いシェアを誇る光輝顔料を中心に、専門性の高い原材料や研究開発装置などを取り扱う商社であり、製造業の伴走者としてさまざまな課題解決と価値提供を行っています。

新たなオフィスでは、コーポレートスローガン「Connecting the Peaks」を中心に、企業理念や行動指針を体現し、組織全体に浸透させることを目的に空間を構築しています。エントランス、応接室、ワークスペースにはあえて壁を設けず、松尾産業様とその先のお客様や関連会社とのつながりがより強くなることをイメージして設計されています。また、大画面モニター前のフリースペースや窓際のファミレスブースなど、リフレッシュだけでなく気分を変えて働けるエリアを設け、メリハリを持って働ける環境を整えています。

事例の詳細はこちら:松尾産業株式会社

株式会社クボタ堺製造所精密機器事業ユニット

事業移転にともない、オフィス環境を見直した製造業の事例です。同社では、働く目的や業務内容に応じて多様で柔軟な働き方ができるオフィスレイアウトを構築し、効率的に業務を遂行できる環境を創造することで、生産性やパフォーマンスの質の向上、社員のウェルビーイング向上を目指しました。

オフィス構築の重要なポイントは「交流」「挑戦」「変化」の3つです。サーベイやリサーチの中で、クボタ様が求めるウェルビーイングは「人と人との交流」であることが分かり、気づきやひらめきがイノベーションにつながり、自己効力感が育まれる環境を目指しています。コンセプトは『CROSS×FIELD』。さまざまな人と視線が交差するように、あえて斜めの動線を生み出すレイアウトを採用し、コミュニケーションを活性化させる工夫が施されています。

事例の詳細はこちら:株式会社クボタ堺製造所精密機器事業ユニット

JFEミネラル株式会社

慢性的な打合せスペース不足やデッドスペースの有効活用を目的とした本社改装プロジェクトの事例です。社員の声を収集し、デザインに反映させることで、従業員エクスペリエンスの向上を図りました。良質なコミュニケーションが生まれるオフィスを構築し、働き方の多様化に対応できる環境を整えることで、社員がより快適に働ける空間を目指しています。

オフィスコンセプトは『Mineral Park』。公園のように複数の人が集い、情報交換をする場として、ひらけた空間の中にそれぞれがお気に入りの場所を見つけられるワークプレイスとして設計されています。ゾーンアドレス運用やアーチ形のデスクレイアウトにより、適度に視線が交わり、コミュニケーションを促進しています。また、オープンミーティング、リフレッシュ、集中エリアなど多様な働く場所を点在させ、人の移動や対流を促している点も特徴です。

事例の詳細はこちら:JFEミネラル株式会社

株式会社AESCジャパン

採用力の向上と、組織の成長に合わせて拡張可能なオフィススペースの確保を目的とした移転プロジェクトの事例です。同社は、EVおよびESS用高性能バッテリーの開発・生産を行う企業であり、以前のオフィスでは、会議室やコミュニケーションエリアの不足、デスクが大きすぎることによる執務エリアの圧迫など、空間効率に課題を抱えていました。

新オフィスでは、必要なエリアや要件を見直し、現代の働き方に適応しながら、社員一人ひとりが最大限に能力を発揮できる環境を整えています。コミュニケーションのさらなる向上が、多様性のある組織を生み、イノベーションを生み続けることで持続可能な企業へとつながっていくという考えから、「持続可能」をメインテーマにオフィスを構築。回遊動線やオープンなコミュニケーションスペースを設けることで、社員間の交流を活性化し、創造性と生産性の向上を目指しています。

事例の詳細はこちら:株式会社AESCジャパン

まとめ

製造業のオフィスは、単なる事務作業の場所ではなく、現場と管理部門、社員同士、企業と来訪者をつなぐ重要な場へと役割が広がっています。人手不足や働き方改革、労働環境の改善、デジタル化への対応が求められる中で、製造業のオフィスづくりは、企業の生産性や採用力、社員満足度にも関わる経営課題のひとつといえます。

特に大切なのは、現場とオフィスを分けて考えすぎないことです。製造現場で起きている課題や改善のアイデアを、管理部門や設計、品質管理、営業、経営層へスムーズに共有できる環境を整えることで、意思決定のスピードや業務の質を高めやすくなります。そのためには、動線設計、共用スペース、会議環境、情報共有ツール、ペーパーレス化などを一体で考えることが重要です。

また、製造業のオフィスでは、コミュニケーションやリフレッシュの場づくりも欠かせません。社員食堂やカフェスペース、リフレッシュスペース、グリーンやアウトドア用品を取り入れた空間などは、単なる休憩場所ではなく、部門を越えた会話や新しいアイデアが生まれるきっかけになります。働く人が安心して気分を切り替えられる環境は、労働環境の改善や人材定着にもつながります。

さらに、製品や素材、技術、企業の歴史をオフィスに反映することで、製造業らしいブランディングも実現できます。来訪者に企業の強みを伝えるだけでなく、社員が自社のものづくりに誇りを持てる空間をつくることは、エンゲージメント向上にも有効です。

オフィス改革は、一度完成したら終わりではありません。現状把握、課題整理、コンセプト設計、レイアウト・ICT・運用設計、導入、効果測定と改善を繰り返すことで、より自社に合った働く環境へ育てていくことができます。製造業のオフィスを見直す際は、「何をきれいにするか」だけでなく、「どのような働き方を実現したいか」「どのようなコミュニケーションを生みたいか」から考えることが大切です。

株式会社ヴィスは、『はたらく人々を幸せに。』というパーパスのもと、働く場を設計する「ワークプレイスデザイン」と、そこで生まれる体験を設計する「エクスペリエンスデザイン」という二つのアプローチを通して『ワークデザイン』を実現し、人と組織のエンゲージメントを高めながら、企業価値の持続的な向上に貢献します。
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